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帝国の企みを推測

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「第1皇子は、陛下の話以外にも不穏な噂がつきまとっています。曰く、自分に反抗的な態度を持った部下を斬り捨てた……曰く、帝国を侮辱する発言をした自国の民を、反逆者に仕立て上げた……曰く、軍事力を誇示して他国に降伏を迫る……等です。どれも噂として聞く程度ですが……ある程度の信憑性はあると思われます」
「最後の、他国に……というのは、まだこの国にはして来てないけどね。けど……別の小国では、魔物の襲撃があって疲弊した状態に、使者を送ってそう持ちかけたと聞いてるわ。実際には、戦争に反対する現皇帝が間に入って事なきを得たみたいだけど……」

 第1皇子の噂……ハーロルトさんは情報部隊の隊長だから、そういった噂にも詳しいみたいだ。
 それに、その人がわざわざここで言うのだから、どれも信憑性が高いものか、ほとんど確証を持ってる事なんだろうな。
 ハーロルトさんに続いて言った姉さんの話の内容に、引っかかるものがあった。

「魔物の襲撃の後に……使者……」
「リクも気付いたわね。問題はそこなのよ……小国に降伏を迫った時と状況が似ているの」
「幸い、我が国には英雄であるリク様がいたので、被害は出たとはいえ国が疲弊するという事はありませんでした」
「最近の帝国の所業は、街でも噂になってるからね。小国に……という話は私も聞いた事があるくらいよ」

 今までの話を聞くと、確かにこのタイミングで使者を送って来るというのは、別の国の時と状況が重なり過ぎてる気がして……帝国が何かを企んでるようにも感じる。
 それに、エルフであるフィリーナまでもが知ってる噂となると、広く知られている事なんだろう。
 何となく、謁見の間で皆が難しい顔をしていた理由がわかった気がした。

「第1皇子が何を考えているのかわからないけど、帝国が何かを仕掛けて来ようとしているのは確実ね」
「そうですね。先程の使者……怪しいくらい何も反応しませんでしたから」
「私はその場にいなかったので、何とも言えないのですが……そこまでですか?」
「はい。陛下は使者の方にバルテルの事を伝えましたが……驚いた様子はあったものの、何をしたのかという事は伝えていませんでした」
「……バルテルが斃れた事を言って、何をしてそうなったのかを聞かなかったのですか? それはおかしいですね」
「ええ、驚いた様子は見せていたけど、納得するだけだったわ。……あれは、バルテルが何をしようとしてたのか知っていたのかもしれないわね」

 姉さんやフィリーナ、アルネとハーロルトさんの話を聞くに、使者の人はバルテルの事を皇帝からの言葉として伝えて来たが、実際には何をするのか知っていた可能性がある、と。

「それに、魔物の襲撃の事ね……使者には言わなかったけど……」
「爪痕は町や城門と、色々と残っているはずなのに……何も言っていませんでしたね」
「陛下の前で委縮して言うに言えなかった……とは考えられませんよね、帝国からの使者なんですから」
「そうね。帝国からの使者だから私に遠慮する事はあまりないと思うわ。でも、魔物が襲って来ていた事に何も言わなかった……他国に使者として送られる程の人材なら、城の様子を見て何かがあったと分かるはずなのに……ね」
「もしかすると、それも知っていたのかもしれませんな」

 城の中はそうでもないけど、町は魔物達が通った跡が少なからずあるはずだ。
 魔物襲撃から時間が経ってないのだから当然だね。
 しかも、城門から城までの間には、魔物と兵士が実際に戦ったのだから、その痕跡を見て取るのは簡単だろう。
 ……城門に至っては、俺が魔法を使ったから特に色々と残ってると思う。

「魔物の襲撃を知っていた……となると、バルテルの凶行と魔物の襲撃のタイミングを合わせた……という事も……」
「魔物がこの王都に襲撃する事を知って、バルテルが動いたと? でも、王都の皆が察知できなかった魔物達をどうやって帝国が察知したと言うの?」
「それは確かに……何かしらの予兆があれば、帝国よりも先に実際襲撃を受ける王都側が察知する方が早いでしょう」
「そうね……」
「帝国の技術が魔物を誘導する技術だったりして……」
「「「!?」」」

 皆が、バルテルと魔物の襲撃がリンクしていた事かもしれないと話している時、ふと思いついた事を口に出してしまった。
 それを聞いて、姉さんやハーロルトさん、フィリーナさん達も皆驚いて俺を見ている。
 適当に言った事なんだけど……。

「魔物を誘導……確かにそれが出来れば今回の事の説明が出来るわね……」
「ですが、そんな技術今までありませんでした」
「それを開発したから、帝国の技術がすごいって事になりませんか?」
「本当にそんな技術があるのだとしたら……小国で行われた事も……」
「全て帝国の思惑通り、という事になるわね……もしかしたら、試すために魔物を差し向けたのかもしれないわ」
「……では、今回の王都での魔物襲撃も……?」
「結論付けるのは早いわ。まだ確証が無い事だもの。でも、警戒の必要は十分にありそうね……」
「アテトリア王国を疲弊させるため、バルテルを使って城の機能をマヒさせるために陛下を捕らえた……そして、魔物を差し向けて疲弊させ、使者を送って降伏を迫ろうとした……か」

 俺の一言で皆の意見が盛んになり、帝国の計画とやらが見えて来た感じだ。
 まぁ、まだ推測であって、確証の無い事だから、本当は帝国がそんな事を考えて無かった……という事もあるかもしれないけどね。

「これはここで話すだけで結論は出なさそうね」
「国の会議の議題にすべき内容ですな」
「そうね……よし……ハーロルト、明後日、会議を開くぞ。議題はバルテル、魔物の襲撃と帝国に関してだ。城内にいる貴族も含めて、参加者に通達しろ」
「はっ!」
「それと……英雄リクに関する事も、だな」
「俺?」

 ここで結論を出すのではなく、国として会議をして考えて行く事にした姉さんは、ハーロルトさんにそれを伝えたが、最後に俺の事も追加した。
 国の重要な会議の議題になるとか、そんな事恐れ多い気が……。

「りっくんは、立派にこの国の危機を救ってくれたからね。会議で褒賞だとか色々決める必要があると思うのよ」
「リク様のおかげで、最小限の被害で魔物達を食い止める事が出来ました。それに、バルテルに対しても……まだ仮定であり、推測しただけにすぎませんが……リク様がいなければ帝国の思惑通りに事が運んでいた事でしょう」
「それに、もしかすると……バルテルの手で私が殺されてた可能性もあるしね。女王である私を救ったのよ? りっくんはもっと胸を張っていいわ」
「……んー、そう言われてもなぁ」

 姉さんを殺されるなんて、もうそんな事態に遭遇するのはごめんだからね。
 俺が出来る事なら精一杯助けたいと思う。
 だから姉さんを助けたし、魔物に襲われる人達が少なくなるよう、頑張って魔物を倒したのは確かだけど……重要な会議で名前が出たりするのは、ちょっと気が引ける俺は、小心者なのかもしれない。
 英雄と言われるの事も、まだ気後れする部分があるのに……これ以上祭り上げられるのもなんだかなぁと思ってしまうんだよね。
 魔物達を倒せたのも、バルテルを何とか出来たのも、俺1人で全てやった事じゃないからね。
 兵士さんが謁見の間の裏からは言う方法を教えてくれたり、皆が魔物を食い止めてくれてたおかげで、城に魔物を侵入させる事なく殲滅出来たんだと思ってるから。

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