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リクの部屋で会議
しおりを挟む「姉さんらしくないね。自分の事くらいは自分でやってそうだけど?」
「そうでもないのよ。身の回りの事は全て侍女がやってしまうしね。自分で何かをやろうとしても、必ず誰かがいるから……それに、私がそれをしてしまうと、仕事を奪う事にもなるからね」
「陛下のお世話をする事が、侍女の喜びでございますので。……どうぞ」
「ありがとう、頂くわ。……ほらね、こうなの。だから私は出来るだけ自分の事は他に任せるようにしてるのよ。こんな風にねー」
「成る程ね。それはわかったけど、だらしなくソファーに座る癖は治らないんだね……」
女王様ともなると、お世話には必ず誰かが付いてるものなんだろう。
手を煩わせること無く……という事なんだと思う。
ヒルダさんの方は、姉さんのお世話が出来る事が本当に嬉しいようで、微笑みながら姉さんのも含め、皆の分のお茶を淹れてテーブルに置いてくれた。
しかし姉さんのソファーに乗る姿……ちょっと懐かしいな。
見た目はまるっきり変わったけど、その姿は以前と変わりがなく見える。
腕と頭を背もたれに乗せて姿勢悪く座ってる姿は、どこぞのオッサンにも見えかねない……そのままお尻が滑ってソファーから落ちないかと思うくらいだ。
「私達からすると、陛下とそんなに親しげに話せるリクさんが、一番驚きなんだけどね」
「そうだな」
「うむ」
「そうね」
俺と姉さんの会話を聞いていた皆が、モニカさん言葉に頷いている。
前世で姉弟だったという事を知らなければ、単なる冒険者の俺と、女王様である姉さんが親しげに話す姿は想像出来なくても仕方ないか。
「ん……ハーロルトかしら。どうぞ」
「失礼します。陛下、お呼びとの事ですが」
ヒルダさんの淹れてくれたお茶を飲んでくつろぎ始めると、ドアがノックされハーロルトさんが入って来た。
「来たわね、それじゃハーロルト、皆、さっき来た帝国の使者の事を話そうかしら」
「帝国の使者……何かおかしなことでもありましたか?」
「いいえ、その逆ね。おかしなことが無さ過ぎたのよ」
「無さ過ぎた……」
さっき謁見の間にいなかったハーロルトさんに、姉さんと使者の人がした会話内容を説明しながら、どういう事かを考える会議になった。
「帝国の使者ですが……陛下との謁見前に情報部隊で照会したところ、皇帝の部下である事はまちがいありませんでした」
「ふむ……だが、タイミングがいささかおかしいのではないか?」
「そうですね……バルテルの凶行、魔物の襲撃と重なった状況があり、それが終息した時点での来訪……何かあると考えるべきだと思われます」
「エルフの二人はどう思う?」
「私達も発言してよろしいのですか?」
「エルフは人間よりも感性が異なる部分があるからな。別視点から見た意見というのも、尊重しなければなるまい。見逃している部分もあるかもしれないからな」
女王様モードの姉さんがハーロルトさんと話した後、フィリーナとアルネにも意見を求める。
人間だけの観点では見えない部分を見る事出来るかもしれない、という考えなんだと思う。
エルフは人間に比べて、違和感に対して敏感な部分があるらしい……さっきの使者と姉さんの会話で、何かおかしい事を感じていたようだしね。
「わかりました。では……まず、使者の方が来られたタイミングですね。先程も陛下達が話されておられましたが、バルテルとやらと魔物達、帝国の使者が重なるというのは何か計画性のようなものを感じます」
「そうね。うがった見方をすれば、今回の事が終わった後の様子見……という可能性も考えられますね」
「使者はバルテルや魔物達によってこの国がどうなるかを見に来た、と?」
「そう考える事も出来る、というだけですけどね」
「バルテルと帝国が、実は密接な関係にあると仮定したら、そうした見方が出来るのではないかと」
「バルテルを先鋒にして、この国を狙う……という事になりかねないな、その仮定だと……」
「はい。ただの推測ですので、別の狙いがあるのかもしれませんが……」
アルネとフィリーナが意見と推測を話し、それにハーロルトさんと姉さんが考える。
モニカさんとソフィーさんは難しい顔をして、帝国の使者について考えいる様子だ。
帝国の事や、この国との関係を知らない俺からしたら、何をそんなに難しく考えてるのか疑問だ。
皇帝の部下と、バルテルが共謀して何かを企んでいた……計画がバレそうになったバルテルが、焦って凶行に走り、それを防いだところに偶然帝国からの報せが来た……という風にしか俺には見えない。
謁見の間での姉さんとの会話でも、不審な部分は見えなかったしなぁ。
「あのー」
「どうしたの、りっくん?」
「リク様、どうなされましたか?」
俺がおずおずと手を上げながら声を出すと、女王様モードを解いた姉さんとハーロルトさんが俺に視線を向ける。
姉さん、俺に話すときは普通なんだな。
「そもそも、俺は帝国とこの国との関係をよく知りません。先程の使者との会話では不審な様子は無かったと思うんですけど……」
「あぁ、りっくんはこの世界に来たばかりだったわね。だから帝国との関係や、そもそも帝国がどういう国かもわからないわよね」
「この世界に来たばかり……それはどういう……?」
俺の言葉に、姉さんは納得顔だ。
帝国がどんな国か全然知らないから、何が皆に引っかかってるのかわからない。
ハーロルトさんは、姉さんが言った俺がこの世界に……という部分に引っかかってる様子だ。
そう言えば、ハーロルトさんには俺が異世界からという話をしていなかったね……フィリーナやアルネもだ。
「ハーロルト、その話はまただ。今は帝国との案件が重要だ」
「はっ、失礼しました」
「……そんなに大した事じゃないんですけどね」
「まずは、りっくんに帝国の事や国同士の関係を少し説明しないといけないわね」
「難しい事はあまりわかんないから、簡単に説明してくれると助かるよ」
姉さんがハーロルトさんに言って、俺の話はまたになる。
まぁ、今は帝国との話が重要だから仕方ないな……興味を持ったそぶりを見せるアルネやフィリーナも諦めたみたいだ。
いずれ姉さんとの関係を皆に話すから、その時にでも話せばいいと思う。
「帝国は、この大陸において一番の軍事力を持つ大国なの。近隣の国々は、帝国と比べるとちょっと見劣りするわね」
「陛下、それでは不十分でしょう」
「そうかしら?」
「えぇとですね、リク様。帝国を恐れるべきは、その技術力にあります。技術を持って、兵士数等の戦力を増強し、領地や人口が多く無くても大陸一の軍事力という事を実現させました」
「技術で……」
「詳細な技術は不明ですが、この大陸において我が国も相応の軍事力を持っています。ですが……帝国の軍事力の前では……」
「敵わない………んですか?」
「遺憾ながら、そう言わざるを得ません」
「私に遠慮しなくても良いのよ、ハーロルト。実際、この国と帝国が正面から戦ったら、あっさり負けるだろうからね」
「しかし陛下……我々は我が国が負けるなどと……」
帝国は技術によって、兵士数で負けていてもそれを覆す軍事力を持ているとの事だ。
ハーロルトさんは、自分の国が負けると言う事をあまり言いたくないみたいだけど、兵士としては当然かもしれないね。
それよりも姉さん、俺と話す時と同じような口調でハーロルトさんに話してるけど良いのかな? まぁ、ころころ口調を変えるのは面倒だからなのかもしれないけど。
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