162 / 1,903
ワイバーン対エルサ
しおりを挟む「……ワイバーンって火に強い魔物だったはずだけど……」
「ドラゴンの使う魔法だからね。威力が高いんだよ、きっと……ふっ!」
呆れて呟く姉さんに答えながら、近づいて来たワイバーンの首を斬る。
エルサがエルフの集落で使っていた、風や火のブレスと違って今回は火の球を撃っている。
広範囲に広がらない分、一発の威力が高いんじゃないかと思う。
「……結構魔物も多いな」
「そうね……けど、よく持ち応えてくれてるわ」
ワイバーンを倒す傍ら、城門付近で戦う皆を空から見る。
魔物の数は溢れかえっていて、兵士達よりも多く見えるけど、それを何とか押されないよう食い止めてる
ように見えた。
「あれは、モニカさん達か。ユノも合流してるね」
「そうね。あそこだけ魔物の数が少ないわ」
モニカさんとソフィーさん、アルネとフィリーナが一組になり、ユノを筆頭に近くにいる魔物を倒してる。
ユノが剣を振るう度に、複数の魔物が切り倒されてるから、他の場所よりも魔物達が少ないように見えるんだね。
連携に慣れてる皆だから、危なげない戦いで安心だ。
「兵士達がエルサちゃんに気付いたようね」
最前線で魔物達とぶつかっている兵士以外の、余裕がある兵士は上を見上げ、ワイバーンと戦ってる俺達を見て驚いてるようだ。
まぁ、いきなりドラゴンが上空に来て戦い始めたら、味方だろうと敵だろうと驚くよね。
「……注意が逸れたら危ないわね……。リク、エルサちゃん。魔法を使うからちょっとだけ耳を塞いでてくれるかしら?」
「わかった」
「私は耳を塞げないのだわー」
「俺が代わりに結界で塞ぐよ」
「お願いするのだわー」
姉さんの言葉に、俺は結界を使って自分とエルサの耳を塞ぐ。
エルサの場合、モフモフの毛があって垂れた耳を塞ぐイメージにちょっとだけ苦労した。
「ふっ!」
「GYA!」
近づいて来るワイバーンを斬り落としながら、姉さんに頷いて準備が終わった事を伝える。
姉さんも一度頷いて、深呼吸。
一体何をするんだろう?
「アテトリア王国の兵士、そして民達よ! 余はマルグレーテ・メアリー・アテトリアである!」
結界で塞いだ外側から、姉さんの声が聞こえる。
これ、もしかしてフィリーナがエルフの集落で使ってた、声を大きくする魔法かな?
「余は今、英雄リク並びにドラゴンエルサと共に、この王都を襲う魔物達と戦っている! この国には英雄、そして伝説に語られたドラゴンが味方をしているのだ! 魔物達に恐れるな! 我らの勝利は約束されている!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉ!」」」」」
エルサに乗って空を飛んでいるにも関わらず、結界で塞いでる耳に地響きのような叫びが聞こえて来た。
これ、多分兵士だけじゃなくて王都の住民の声も混じってるんじゃないかな?
その叫びの後、兵士達は魔物を押し返すような勢いで戦い始めるのが見えた。
城門の外、王都というか城下町の方でも複数の人達が戦っているのも見える。
町の方にいた兵士や冒険者の人達かもしれないね。
「姉さん、皆を鼓舞したんだね」
「まぁ、皆に信頼される王になるためには、これくらいはしないとね」
結界を解きながら姉さんに話しかけた。
姉さんは女王として、色々考えてるみたいだね。
「ああは言ったけど、実際戦ってるのはりっくんとエルサちゃんなのよね……」
「まぁ、そこはね。俺にも姉さんを守らせてよ」
「知らない間に頼もしくなっちゃって。姉さん嬉しいわ」
エルサの上で、姉さんと話しながらワイバーンを斬り落とす。
「ふっ、せいっ」
「ワイバーンをこれだけ簡単に倒す人なんて、他にはいないでしょうねぇ」
軽々とワイバーンの胴体や首を斬り落としている俺を、呆れたような雰囲気で見る姉さん。
最初は驚いて、段々と呆れて来る……モニカさんやソフィーさん達と似たような反応だね。
俺としては、そんな呆れられるような戦い方をしてないんだけどなぁ。
「……段々、こっちに向かって来る数が増えて来たね」
「標的を私達に変えたみたいね」
「大量に来るのだわ。気持ち悪いのだわー」
城に取り付こうとしているワイバーンを、片っ端から倒して回っていると、四方八方から囲むように迫って来ていたワイバーンの群れが、俺達に向かって来るようになった。
さっきよりも、数が多過ぎて剣だけじゃ対処が間に合いそうにないな。
姉さんに怪我をさせるわけにもいかないし……。
「りっくん、どうするの? このままじゃ数に押されてしまうわよ?」
「そうだね……結界でエルサを囲んで守りを固めるか……それとも……」
「結界で囲まれたら動けなくなるのだわ」
姉さんの言葉に、これからどうするかを考える。
ワイバーンが標的を俺達に変えたのなら、エルサを囲むように結界を張れば身を守る事は簡単に出来るだろう。
けど、エルサの言う通り自由に動く事が出来なくなる。
その間に、数匹のワイバーンが城に向かって行ってしまったら、中に侵入されてしまうかもしれない。
「……いつも通り凍らせる? でも、そうしたら下にいる皆に向かって落下しそうだ……ねっ! っと」
「「GUGYA!」」
「氷漬けのワイバーンとか、砲弾が落ちて来るのと変わらないのだわ」
ワイバーンは人間より大きいから、そんな物がカチカチに凍って地面に激突したら大変だ。
誰もいない所ならまだしも、今地上では兵士達やモニカさん達が戦ってる。
人の上に落ちたらひとたまりもないだろうしな……。
ちなみに、俺が斬ったワイバーンはエルサが燃やして地面に激突しないようにしてくれてる。
体が切り離されてるから、内部から簡単に燃えるようだ。
「凍らせるのは無理か……だとすると、どうしたら良いんだろう……? はっ! ふんっ!」
「「GYAAAA!」」
迫って来るワイバーンを斬り落としながら考える。
さっきよりも数が多くなって来たから、このままだと姉さんに何か被害が出るかもしれない。
「燃やすのはどう? さっきからエルサちゃんがやってるように、地面に落ちる前に燃え尽きるようにすれば……?」
「それだとすごい熱が必要だよね。多分だけど、ここら一帯が灼熱地獄になってしまうんじゃないかな? 今は一体ずつだから良いけど……はぁっ!」
「前の事を思い出すのだわー。あの時は外壁も溶けるくらいだったのだわー」
「それは……ちょっと危険ね」
エルサの言葉に、姉さんは引き気味だ。
まぁ、あの時みたいな熱量の魔法を使う気は無いけど、それでも熱に強いワイバーンを燃やし尽くすのは相当な火力が必要だからね。
城を包囲してるワイバーン達全てを燃やそうとしたら、それだけでここら一帯の温度が異常に上昇する事になると思う。
地上で戦ってる兵士達にも影響が出ると想像するのは簡単だね。
城門が既に破られてるから、ヘルサルの時みたいに中に避難して……という事も出来ないし……。
「どうするのだわ、リク? 私だと全てを一気に、というのは無理なのだわ」
「そうだね……何か良い魔法があれば良いんだけど……ねっ!」
「さっきからわらわらと面倒なのだわ! 考えてるんだから、ちょっとは待つのだわ! テンペストブレイド!」
エルサと話してどうするか考えながら、ワイバーンを斬り倒す。
今は標的を俺達に変えたとはいえ、ワイバーン達も様子を見ているのか群れ全体で押し寄せて来ていないから、対処は簡単に出来てる。
けど、痺れを切らして全てのワイバーンが俺達に襲い掛かって来たら……考える時間はあまり無さそうだ。
そう考えながら、少しだけ焦り始めた時、10匹程度のワイバーンがまとめてエルサの正面から近付いて来た。
それを見たエルサが、面倒そうに怒りながら魔法を使い、まとめてワイバーンを吹き飛ばす。
エルフの集落の時より規模も威力も強そうな魔法で、ワイバーンは体を散り散りにされながら遠くの山の方まで吹き飛んでいった。
11
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~
平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。
しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。
カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。
一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる