160 / 1,903
姉の救出
しおりを挟む「まずは姉さんだな……あの剣で斬られないように」
頭の中でイメージをしていく。
……形は人の形……余裕を持って少し大きめだ……それから……結界は空気も遮断するようだから、完全に囲んでしまわないように……。
「……よし、イメージ出来た。エルサ、発動と同時に突っ込むぞ」
「わかったのだわ。ユノの方は任せるのだわ」
「その大きさだと……あぁ、調整出来るのか」
「このくらいは簡単なのだわ」
エルサは俺の頭から離れ、俺の隣に降りながら体を大きくさせる。
俺より少し小さいくらいになって、2本足で立ち謁見の間にいる奴らを見る。
……今度、その大きさで抱き枕になってくれないかなぁ……良い夢が見られそうだから。
「……リク、早くするのだわ」
「おっと、そうだな。それじゃ……結界!」
さっきまでの緊張が嘘のように、エルサのモフモフを見ていてリラックスして魔法が使えた。
俺が使った魔法は結界、姉さんを守るためのものだ。
魔法を放ったと同時に、俺とエルサが飛び出した!
「うっ、何だ!?」
バルテルと呼ばれていた男は、剣が触れている部分に固い物でも当たったような感触でも感じたんだろう。
姉さんの首筋に当てていた剣を見て、驚いた表情をしている。
今剣と姉さんの首の間には、結界が展開されている。
結界を姉さんを囲むように作ったからだ。
これで姉さんが剣で傷つけられる事はないだろう、ちゃんと顔の下半分を開けて息が出来るようにしてるしね。
「姉さんを……離せぇぇぇ!」
「りっくん!?」
俺は飛び出しながら剣を抜く。
いきなり飛び出して来た俺に、驚いた姉さんが声を上げるのを聞きながら、バルテルとか言う馬鹿野郎に剣を叩きつけた。
「ぐわっ!」
咄嗟に反応したバルテルは俺の剣を受けるために動かしたが、そんな事は関係無い。
受けた剣ごとバルテルを弾き飛ばす。
姉さんを捕まえていた汚い手も、結界が間に入っているのですぐに解けて、バルテルだけが数メートル吹っ飛んで行った。
姉さんには結界を張ってて安全だから、力いっぱい吹っ飛ばしてやった。
「雑魚はさっさとどくのだわー」
「なん……ぐっ!」
「ぶはっ!」
「ドラゴ……ぐふっ!」
バルテルが飛ばされるのを見ながらユノの方を見ると、俺と一緒に飛び出したエルサがすごい速さで飛んで行って、体当たりをしたり蹴ったりとユノを囲んでいた男達を吹き飛ばしていた。
気楽そうだなぁ……まぁ、あれくらいならエルサにとっては雑魚で間違いないだろう……エルフの集落で戦った魔物よりも弱そうだし。
「姉さん、無事か!?」
「りっくん、何でここに!?」
「何でって、助けに来たからに決まってるじゃないか。ハーロルトさんに教えられてね」
「そう。ありがとう、りっ……危ない!」
「貴様ぁ!」
「っ!」
油断していた俺は、姉さんの叫びで気付く。
弾き飛ばしたはずのバルテルが、剣を振り上げ俺に横か飛び掛かって来ているところだった。
それに対し、俺は振り向きながら剣を振りぬく。
「ふっ!」
「がっ!」
さっきは出来るだけ殺さないように、剣の腹で弾き飛ばしたけど、今回は咄嗟の事だった。
俺の剣は、易々とバルテルの剣を切り、その首をも跳ね飛ばした。
「……手応えが軽い……この剣、すごいな」
ヘルサルで買った剣。
丈夫さを重視して買った物だけど、丈夫な金属は研がれていれば当然切れ味も鋭くなる。
魔法が掛かって刃が丈夫な副作用的なものなんだろう、今まで魔物を斬った時に感じてた手応えよりも軽く剣を斬れた。
「りっくん……」
「……姉さん」
剣の事を考えていたら、姉さんが心配そうな顔で俺を呼んだ。
それですぐに状況を理解する。
……この世界に来て二度目……人を殺したんだと。
剣の切れ味がすごかったからという言い訳は、通用しないだろうな。
「大丈夫……なの?」
「……何とかね。慣れたりはしないけど」
「当然よ。優しいりっくんが人を殺す事に慣れるわけないわ」
姉さんには俺が、人を殺した事に軽く戸惑っているのが伝わってるみたいだ。
チラリとバルテルを見ると、体は崩れ落ち、頭は斬られた部分から血を飛び散らせて事切れている。
……人の血が掛かるのは、あまり良い気分じゃないね。
「ところでりっくん、動けないんだけど……」
「あ」
忘れてた。
姉さんは俺が張った結界で囲まれてるから、動こうにも動けない。
姉さんの言葉に、結界の事を思い出して魔法を解くと、ゆっくりと近付いてきて俺の頭を抱え込んできた。
「姉さん!?」
「ありがとうね、りっくん。おかげで助かったわ」
俺が人を殺した事に戸惑ってるのをわかってなんだろう。
慰めるように頭を抱え、撫でながらお礼を言われる。
……昔も俺が泣いてると、こうして慰めてくれたな……。
今は泣いていないけど、何だか懐かしい気分だ。
「リク、終わったの」
「お楽しみなのだわ?」
姉さんに慰められて安らぎを感じていると、ユノとエルサが声を掛けて来た。
慌てて姉さんから離れて周りを見たら、ユノにバルテル以外の男達は全てのされて転がっていた。
何人か息をしていないようだけど、まぁユノが斬ったかエルサにやられたんだろう……人が死ぬのに抵抗が無いとは言わないけど、この状況だし、やった事がやった事だから仕方ないとも思う。
「もう大丈夫なの、りっくん?」
「大丈夫だよ、ありがとう姉さん」
俺が離れた事を、不思議そうに見ている姉さんから声を掛けられる。
昔と違って、人に見られるのは恥ずかしいからね。
それに、俺のよく知ってる姉さんとは外見が大分違うのもある。
「陛下! ご無事ですか!」
そんな事を考えてると、謁見の間入り口で中の様子を窺っていた兵士達が中に駆け込んできた。
姉さんが人質に取られてたから、入るには淹れなかったんだろうね。
ユノは見た目が子供だから、入ってもすぐには姉さんに手を出さなかったんだろう。
「……んんっ! ……余は無事だ。英雄殿のおかげだ」
「おぉ、さすが英雄。陛下をも救われるとは」
姉さんが一度咳払いをして、女王としての話し方で兵士達に無事を伝える。
兵士達は、俺を称えるように声を上げた
こそばゆいけど、姉さんを助ける事が出来たんだ、まんざらでもない気分だね。
「って、それどころじゃない!」
「どうしたの、りっくん?」
大きな声を出した俺に、姉さんが兵士達に聞こえないよう小声で聞いて来る。
「この城に魔物が押し寄せてるらしいんだ。モニカさん達やハーロルトさんが今城門で戦ってるはず!」
「何ですって!? ……さっきの振動はそれが原因なのね……」
姉さんはずっとここにいたから、魔物が襲って来てる状況を知らないんだろう。
俺が叫んだ内容に驚きを隠せない様子だ。
「ハーロルトさんに言って、城にいる兵士達はある程度魔物を抑えに行ってるはずだけど……俺は姉さんを助けたかったから、ユノと一緒にこっちに来たんだ」
「そう……わかったわ」
姉さんが頷き、俺から離れる。
エルサが小さくなって俺の頭にくっ付いて来ると同時に、ユノも近付いて来る。
武装した男達に囲まれていたけど、ユノに疲れはあまり無いようだね。
さすがと言うか、何と言うか。
11
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる