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お互いの事情の共有

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 どうやらエルサとユノは、俺が忘れていた事を知っていたらしい。
 聞いてみると、ユノは姉さんと関わりが多少あるからで、エルサは契約で俺の記憶が流れて行ったかららしい。
 ……俺自身忘れてたと言うか、封印してたような記憶も流れて行くのか……ドラゴンの契約。
 それで、辛い記憶を俺が封印している事を知っている二人は、出来るだけそこに触れないように気遣ってくれていたらしい。
 ありがたい事だ。
 もしかして、エルフの集落で俺の事を詮索しないでと言っていたのは、そのためなのかもな。

「それで姉さん。姉さんはあの時……」
「そうね。私はリクを庇って死んだのよね。ちょうど、リクがユノちゃんを助け時のような状況ね」

 そう、姉さんは随分前に俺を庇って死んだんだ……俺の目の前で。
 あれはどうしてだったか……確か、久しぶりに姉さんと二人で出かけてたんだったな。
 忙しかった姉さんと出かけられる事に喜んでた俺は、はしゃいでしまってた。
 それで、信号も見ずに横断歩道を渡ろうとして車に……。
 轢かれそうになった俺を庇った姉さんの怪我は酷くて、病院に運ばれたけどやがて息を引き取った。
 ……触れてる姉さんの手が、段々と冷たくなっていく様は、今思い出しても辛い。
 しばらく俺は、姉さんを失った事に耐えられなかった……だからだろう、姉さんの記憶を封印して、立ち直ったように振舞いだしたんだ。

「あの時の事は、今でははっきり思い出せるよ。……ずっと泣いてたなぁ」
「りっくん……ごめんね……」
「姉さんが謝る必要はないよ。むしろ俺が謝らないと。姉さん、ごめんなさい……それと、助けてくれてありがとう」

 もしかしたら、あの夢は封印したはずの記憶が、罪悪感と一緒に、思い出せと警告してたのかもしれないな。

「リク、もう悪い夢も見る事も無いの」
「ユノは知っていたのか?」
「知ってたの。それでさっきはエルサと一緒に頑張ったの!」
「力を逆流させるように使うなんて初めてなのだわ……疲れたのだわー」

 ユノは俺の夢の事を知ってたようだ。
 まぁ、以前俺に夢を見せた事もあるくらいだから、知っていてもおかしくないか。
 エルサとユノは、さっき見た俺の夢を干渉したらしい……だから疲れてるのか。
 何でも、契約をしてる俺とエルサを基に、記憶と魔力を逆流させて夢に干渉……そうする事で俺の奥底に封印されている記憶を呼び起こすという事だったらしい。
 姉さんと会って、刺激されてたところだから、思い出さないと逆に危険だったとも言われた。
 謁見の間で倒れたような事が、繰り返されてたかもしれないと考えると、確かに危険だね。

「エルサ、ユノ……ありがとう」
「私からもお礼を言うわ。りっくんのために……ありがとう」
「リクは私の契約者なのだわ。これくらい当たり前なのだわ」
「リクといると楽しいの。だからこれくらいなんともないの!」

 俺と姉さんでエルサとユノにお礼を言う。

「それじゃ、次は私の話ね。……まぁ、正直なところ全て覚えてるわけじゃないんだけど……」
「仕方ないの。あの時貴女はリクと違って本当に死んでいたの。だから覚えて無いの」
「そうね……私が覚えてるのは、りっくん……貴方を助けた所までよ。その後はこの世界での事になるわね」

 俺の時と違って、ユノが時間を戻して助ける……別の世界に転移させる……ではなく、姉さんは本当に死んでしまっていたらしい。
 まぁ、俺が死なずに助かった事は特別な事だから、当然なんだろう。

「貴方は……」
「ユノちゃん、私の事は芽有里……メアリーと呼んで頂戴」
「姉さん、その名前?」
「日本での事を覚えていたから、これをミドルネームにしたの。この国では貴族以上はミドルネームを自分で決められるからね」
「そうなんだ」

 姉さんの日本名は、紺野芽有里(こんのめあり)。
 芽有里だからメアリーか……成る程ね。

「メアリ! わかったの! それで、メアリは死んだ後魂の存在になったの。これはどこの世界でも同じなの。けど……」
「けど?」
「地球の魂の循環が乱れたの。たまにある事なんだけど……それでメアリは地球から弾かれたんだけど、私が拾ってこの世界の循環に乗せたの。そうしたらまたどこかで、生を受ける事が出来るからなの」
「そうだったの……」
「地球から弾かれた」

 人口が増えすぎたからとか?
 地球の循環が乱れたという事の理由はわからないが、そのおかげでこの世界で姉さんに会う事が出来たようだ。

「本来魂は、次の生を受ける時に以前の記憶を忘れるの。だけど、メアリは忘れる前に地球から弾かれたの、だから以前の事も覚えてるの!」
「だから私は、前世の記憶を持ってこの世界に生まれたという訳ね。今までの謎が解けた気分だわ……」
「女王様になってるのは? これもユノが何かしたのか?」
「私はこの世界に持って来た以外は、特に何もしていないの。 この国に生まれたのは単なる偶然なの」

 姉さんが女王様なのは、特に理由は無いのか。

「もう驚いたわよ。……物心付いた頃だったかしら……思い出そうとしたら地球での事を、簡単に思い出せるようになったの。でも、ここは地球じゃないし……当時混乱して取り乱したりもしたわ」
「まぁ、前世の記憶があるんじゃしょうがないね。以前の成長した自分と、子供の自分とで混乱するだろうね」

 俺だってその体験はした事が無いが、それでも混乱する気持ちはわかる。
 地球で暮らしてた時の記憶と、今いる世界の記憶。
 どちらを信じていいか、わからなくなってもおかしくないと思う。

「それでも何とか王女としてやって来たんだけど、ある日王様……こちらでのお父様が病気でね……私が女王として即位する事になって……というわけ」
「そうだったんだね……姉さん、大変だったね?」
「まぁ、ね。でもなんとかやってるわ。偉そうに振舞うやり方も、板について来たしね」
「あぁ、そう言えば授与式の最初は女王様らしく振舞ってたね。今は違うけど」
「りっくんの前で女王としてふるまえないわよ、恥ずかしい。でも、公の場ではちゃんとしないとね」

 女王様をやるのも楽ではないんだろうね。
 せめて俺の前でだけは、自然に過ごして欲しいと思う。

「そう言えば、姉さんの女王様としての評判は、かなり良いみたいだよ? ヘルサルのクラウスさんも絶賛してた」
「あぁ、あの人ね。ま、私も努力してるって事。でも……完璧ってわけじゃないからね……変な事を考える一派もいるし……」

 もしかして、ハーロルトさんが言っていた不穏分子という人達の事だろうか?
 国を運営するのはやっぱり苦労するんだろうね。
 姉さんは日本にいた時から、政治に感心があって勉強をしていたくらいだし、才能はあったんだと思う。
 日本の……前世の記憶を引き継いでいるから、その知識でなんとか女王としてやっていけてるのかもしれないね。
 まぁ、ここと日本で違う事はいっぱいあるだろうけど。

「それで、姉さんと俺の話だけど、どれだけの人に伝えれば良いかな? さすがに全部話すわけには行かないと思うけど……ユノの事もあるし」
「そうね……リクは知り合いになんて言ってるの?」
「モニカさんとソフィーさんには、異世界から来た事は言ってるよ。信頼出来る人達だからね。この世界に来てお世話になった人たちでもあるし……アルネとフィリーナには何も話して無いかな」
「私はリクの妹なの!」

 ユノは、俺の妹で別々だけど異世界から来たという事にしてるんだったね。

「そう、ユノちゃんはリクの妹なのね。なら、私の妹でもあるわね」
「そうなの?」
「そうなのよー。ふふふ、妹も欲しかったから嬉しいわ。こちらの世界だと兄妹も姉妹もいなかったし……」

 妹が出来たと喜びながら、姉さんはユノの頭を撫でている。
 ユノは撫でられて気持ち良さそうだ。

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