151 / 1,903
授与式当日と間に合ったエルフ達
しおりを挟むハーロルトさんとの話をまとめると、不穏分子が俺の勲章授与式をきっかけになにやら動き始めたらしい。
授与式では何かをする事は無いはずだけど、裏でコソコソと動いてる様子。
狙いはわからないけど、確実にここ数日の間に大きく動くだろうとの事。
女王様を直接狙う可能性も有り、他の有力者を狙う可能性も有る。
もしかすると、俺の活躍を聞いて、使えると考えた一派が俺を攫う可能性すらあるとも言っていた。
ヘルサル防衛の時、俺が寝ている間に軍で連れて行こうとした者がその一派だったらしいとも聞いた。
あの時はヤンさん達冒険者ギルドのおかげで、連れて行かれなかったけどね。
「不穏分子ね……何を狙ってるのやら」
国家転覆を狙っているのか、自分達の権力を増すだけの事を狙っているのか……はたまた別の何かを狙っているのか……俺にはわからないけど、出来れば穏便に済ませたいなぁ。
と言うか、あまり関わらないで欲しい……今回の事がそういう事なのかわからないが、権力争いとか面倒だから爵位を辞退したってのになぁ。
ハーロルトさんは、俺に相談する事で自分の考えを纏める事と、俺に注意を促したかったそうだ。
悩んでいたのは、国の恥部となり得る内容だかららしい。
俺が最高勲章を受け取ることになっていなかったら、話していなかっただろうね。
「ふぅ……久々の風呂は最高だなぁ……」
「これが湯船に浸かるという事なのだわ? 気持ち良いのだわー。ヘルサルでもこうするのだわー」
「獅子亭はここまで大きな風呂場は無いし、色々改造しないといけなくなるから、ちょっと無理かな」
お湯に浸かる、日本人らしい風呂にはまったエルサが、獅子亭でも同じようにしたいと言ってるけど、それは無理かもなぁ。
久々の浸かれるお風呂に満足して、その日を終えた。
不穏な話もあるけど、明日は授与式だ。
まずはそれを終わらせないとね。
……俺、失礼の無いように振舞えるかなぁ?
――――――――――――――――――――
「リク様、起きて下さい」
「ん……」
聞き覚えが無い声で意識が浮上する。
どうやら今日は、おかしな夢を見ないで寝られたようだ。
授与式前で緊張しているせいもあるかな?
「おはようございます、リク様」
「ヒルダさん。おはようございます」
声を掛けて俺を起こしたのは、ヒルダさんだったらしい。
どうりであまり聞き慣れない声だと思った。
ベッドから起き上がり、顔を洗おうと思ったところで、ヒルダさんが横からタオルを差し出してくれた。
「こちらを」
「ありがとうございます」
さすが侍女と感心しながら、タオルを受け取り、隣接する風呂場で軽く顔を洗う。
タオルで顔を拭きながら戻る頃には、エルサも起きてキューをヒルダさんにお願いしてた。
……ほんとに気楽だね、エルサ。
「少々、顔が強張っていらっしゃいますね……昨夜の話ですか?」
「いえ、単純にこれからの授与式に緊張してるだけです……」
ヒルダさんは、俺が昨日ハーロルトさんと話した事を考えてると思ったようだけど、実際はただ緊張してるだけだ。
「俺はただの一般人ですからね。女王様や国から表彰されるなんて緊張しますよ」
「ふふふ、ご冗談がお上手で」
ヒルダさんは、俺が言った一般人という言葉に笑っているようだけど、実際一般人なんだよなぁ。
何故か英雄とか祭り上げられてるけど、ほんの数か月前は日本の学生だ。
こういう行事に緊張するなと言う方が無茶だ。
「お目覚めのお茶でございます」
「ありがとうございます」
「目覚めはキューに限るのだわー」
ヒルダさんが朝のお茶を淹れてくれたので、ソファーに座って一口飲む。
エルサは、ヒルダさんがいつの間にか用意したキューをかじってご満悦だ。
寝起きにキューって……ちょっと微妙だなぁ。
「ふぅ、美味しかった」
お茶を飲んだ後、ヒルダさんが朝食の支度をしてくれたのを、食べる。
昨日の夕食もそうだけど、獅子亭とは違った味で盛り付けにも凝っている所はさすが、お城の料理と言ったところか。
多分、専属の料理人とかいるんだろうな。
「ではリク様、勲章授与式のための準備を」
「……はい、お願いします」
ヒルダさんが、部屋にあるクローゼットのような場所から取り出したのは、豪奢な服。
どうやら俺は、その服に着替えて式に参加するらしい。
まぁ、冒険者の恰好で粗末な革鎧のまま、式に参加するわけには行かないからね……仕方ないよね。
「はい?」
「ハーロルトです。リク様にお客様が来ております。今、よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
ヒルダさんに手伝ってもらいながら、着慣れない服に着替え終わった頃、部屋の扉がノックされた。
声を出して応えると、外からハーロルトさんの声で俺にお客さんが来たと伝えて来た。
誰だろう……モニカさん達かな?
「失礼します」
「リク、来たわよ。あら、見違えたわね……似合ってるわよ」
「何とか間に合ったな……リク、集落以来だな」
「フィリーナ、アルネ!」
ドアを開けて、中に入って来たのはフィリーナとアルネだ。
エルフの集落は遠いから、授与式には間に合わないと思ってたのに。
「集落はどうしたんだ? 来るとは聞いてたけど、間に合うとは考えて無かったよ」
「集落はエヴァルトに任せて来た。あいつなら、うまくまとめてくれるだろう」
「私達がいるより上手く出来るでしょうね。ここへは、馬を乗り継いできたわ……ちょっと疲れたけど」
「馬を乗り継いで……そんな事をしてまで来てくれたのか、ありがとう」
どうやら、集落の方をエヴァルトさんに任せる事で、すぐに集落を出発したらしいね。
馬を乗り継いでまで……俺の授与式に間に合わせるためとはいえ、ありがたい事だ。
「お茶をどうぞ」
「あら、ありがとう」
「ヒルダさん、ありがとうございます」
ヒルダさんが全員分のお茶を淹れてくれて、皆で座って話す事にした。
ハーロルトさんは、アルネ達を案内した後すぐ仕事に戻って行った。
王城入り口で俺の名前を出したアルネ達を、ハーロルトさんがタイミング良く見付けて、案内してくれたらしい。
「リク、いつもと違う恰好だけど、それで授与式に?」
「あぁ。いつもの革鎧だとさすがにね」
「確かにそれは、式典にはふさわしくないだろうな」
フィリーナが着替えた俺を珍し気な顔で見ている。
集落にいた頃は、寝る前以外常に革鎧を着ていたから、見慣れないのもあるのかもね……俺も着慣れないし。
「それにしても、本当にリクが勲章を受け取る事になるなんてねぇ」
「集落に行った時にはもう、決まってた事なんだけどね」
「そうだったな。リクは契約者だから、当然とも言えるな」
「そうね。契約者で、集落も救ってくれたんだもの、相応しいと思うわよ」
しばらくアルネ達と談笑をしていると、話しの邪魔をしないよう、部屋の外に出ていたヒルダさんが戻って来た。
「リク様、モニカ様達がいらっしゃっています。お通しても?」
「はい、お願いします」
俺の返事に、ヒルダさんは扉を開けてモニカさん達を招き入れてくれる。
「モニカ、ソフィー、ユノちゃん、久しぶり!」
「久しぶりという程でも無いがな」
「フィリーナ、アルネ!」
「間に合ったようだな」
「久しぶりなの!」
部屋に入って来たモニカさん達は、アルネ達との再会を喜んでいる。
またヒルダさんにお茶の用意をしてもらい、皆でソファーに座って談笑した。
「リク様、そろそろ授与式のお時間です」
「……わかりました。エルサ」
「わかったのだわ」
「……リク」
ヒルダさんの時間を告げる言葉に、俺は話を止めて緊張しながら立ち上がる。
エルサには肩に乗ってもらう。
ユノはそんな俺を見てるけど、俺が粗相をしないか心配なんだろうか?
11
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~
平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。
しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。
カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。
一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる