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長老達の傲慢な誘い
しおりを挟む「何だこの人間達は」
「人間がこの集落に長い間いられるわけがないだろう」
「まったく、汚らわしい。さっさと集落を出て行きなさい」
長老達は顔をしかめながら、フィリーナの言っていた人間嫌いを全面に出してる。
「リク様、こんな人間達は放っておいて、我々エルフのためにここにいて下さい」
「そうですよ。リク様は契約者、人間達とは隔離された存在なのです。我々エルフのような者と一緒に居る方が相応しいに決まってます」
「不自由な生活はさせませんよ? 見た所リク様はまだお若い……そうですな……そこのフィリーナを自由にして良い事にしましょうか。もしそれでも不満であれば、適当な若いエルフをあてがいますが」
「なっ!」
「フィリーナを勝手に物扱いだと! いくら長老でもそれは!」
長老達の言葉にフィリーナは絶句し、アルネは物扱いされた妹を庇うように前に出た。
「うるさいエルフの事は放っておいて、リク様……いかがですかな?」
「人間達よりもエルフといた方が良いでしょう?」
「全てのエルフを傅かせて生活する……楽しそうでしょう?」
長老達は異議を唱えるアルネを無視し、フィリーナを物扱い。
さらに汚らわしいとしてモニカさんやソフィーさん、ユノの言葉も聞かない。
三人は俺に詰め寄りながら答えを急かす。
何を言っても無駄だと悟ったんだろう。
他の皆は俺がどう答えるかだけに注目して俺を見てる。
広場に集まったエルフ達も俺を見てる。
……こんな雰囲気の中で答えるのはちょっと緊張するけど……俺の返答は決まってる。
「……はぁ……お断りします」
「なっ!?」
「なんですと!?」
「何を!?」
俺が一旦溜め息を吐いて、満面の笑みを浮かべながら断った事に長老達は驚きの表情を浮かべてる。
というか、あんな誘い方で俺が靡くとでも思ったのかなぁ……?
思ったんだろうな……自分達の事しか考えて無いような長老達だから、そんな事まで考えられないのかもしれないね。
「リク様は我々より人間を選ぶというのか!?」
「汚らわしい人間を!? そんな馬鹿な選択!」
「貴方は間違った選択をするのか!?」
驚いたあまりに敬語が取れてるけど、まぁ俺は敬語だとかそんなのはどうでもいい。
そんな偉そうな態度をしたいんなら、そもそも魔物達が襲撃して来た時にエヴァルトさんのよう皆を守ろうと必死に動いてから言えよなぁ。
何もしなかった長老達に何を言われようと、俺はここにいる事を魅力的だとは思わない。
尚も詰め寄る長老達には満面の笑みを浮かべながら言い切る。
「貴方達……少なくとも長老と言われる貴方達エルフと一緒にいる事は有り得ません。エヴァルトさんやフィリーナ、アルネに頼まれたのであれば少しは考えたでしょうけどね」
俺の言葉に絶句して固まる長老達。
それを見たフィリーナやアルネは楽しそうな表情をしてるけど……良いのかな?
一応、君達の集落で偉い……のかもしれない長老に言ってる事なんだけどなぁ。
とりあえず、こんな用事ならもうここに長居する必要はないね。
俺は最後に言いたい事を言って、その場を去る事にした。
「ちなみにですが、長老さん達。俺は貴方達長老衆というのが、今のやり取りで嫌いになりました。今後一切関わらないで欲しい。俺にも、俺の周囲にいる皆にも、です。あと言い忘れてましたが、俺も貴方達が嫌う人間ですから」
それだけを言って、未だ固まったままの長老達を残して踵を返し、俺は石の家に戻るために広場を後にした。
後ろから慌てて追いかけて来る皆を連れて。
……勢いでその場を去ったけど、フィリーナ達が付いて来てくれてよかった……まだ石の家までの道……覚えて無いんだよなぁ……いい加減覚えないといけないかな……。
俺達が離れて移動中、広場の方でエルフ達の歓声が上がったようだった。
家について、居間で一息。
長老達の誘いを断るのは良いけど、あんな言い方をした分ちょっと精神的に疲れたからね、休憩しないと。
広場を出た時からずっとだけど、居間に来てからもフィリーナとアルネは興奮気味だった。
よっぽど、俺が長老に言いたい事を言ったのが楽しかったらしい。
「リクはほんとすごいわね! 私達エルフじゃあんな事言えないわ!」
「エルフとして正しいのかはわからないが、すごくスッとした気分だな!」
「いいんじゃないの、あんな失礼なエルフ達。私達人間の事を見下して……」
「モニカ、言い過ぎだぞ。この集落の長老だ、エルフ全体の侮辱になってしまうだろう」
「……ごめんなさい」
「いや、エルフとしても集落の者としても、あの長老達の物言いには憤っても仕方ないだろう」
「むしろ私達の方が謝りたいわ。ごめんなさい、モニカ、ソフィー」
モニカさんは、あの長老達の言い分にご立腹なようだ。
ソフィーさんに諫められてフィリーナ達へ謝ってるけど、逆にフィリーナの方がモニカさん達に謝る。
まぁ、明らかに人間を見下してて、そのうえフィリーナや他のエルフ達も物扱いだったからね、皆が怒るのもわかる。
長老達は人間に偏見を持たない若いエルフすら見下してるようだった……ああいう手合いは相手にしたくない。
「リク、ありがとう。言いたい事を言ってくれて」
「まぁ、人間を見下してたし、フィリーナも物扱い。同族であるエルフすら見下して自分達が一番って考えが気に入らなかっただけだよ」
「リクが去る時の長老達の顔は見物だったな。広場にいた他のエルフ達も今頃笑ってるんじゃないか?」
「広場から離れた後、大きな歓声が沸いてたわね。集落の長老って偉い立場のようだけど、嫌われてるのね」
長老で集落を代表する立場なら発言にも色々気を付けないといけないと思う。
フィリーナもアルネも、俺が断った時に長老達が固まった顔を思い出したのか、クスクスと笑ってる。
モニカさんの言う通り、集落の皆から嫌われてるんだろうなぁ。
「一応、集落の中でも発言力があって偉い事には違いないわ。でも、人間との交流を断絶して、エルフ至上主義にするべきだってうるさいのよ」
「人間と交流できたおかげで、この集落は森の外に家を作って生活できているのにな。長老たちは絶対森の中から出ようとはしないが」
「そうなんだ。でもよくそれで人間に助けを求めようと決められたね?」
「集落の代表者が集まった会議でね、長老達以外の若いエルフ達が全員助けを求めるべきと主張したの。もちろん長老達は最後まで反対してたわ」
「長老たちの数も少なくなって来たからな。若い世代が増えて意見を通す事が出来たんだ」
エルフとは言え、不老不死じゃない。
長寿だけど必ずいつか寿命が訪れる。
人間嫌いのエルフ達の数も少なくなって来て、人間と交流を持とうというエルフが増えて来たおかげだろう、それでアルネとフィリーナは集落を離れて人間に助けを求める事が出来たし、その途中で俺達と出会うことも出来た。
まぁ、エヴァルトさんからしたら間に合わないのも覚悟だったみたいだけどね。
実際、俺達が来なければ魔物達の襲撃でこの集落はもう無くなってたかもしれない。
フィリーナとアルネだけだと、俺達が来てすぐにあった明け方の魔物襲撃には間に合わなかっただろう。
そんな事を考えつつ、フィリーナ達の話す事に耳を傾けた。
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