93 / 1,903
エルフ達へ治癒魔法実践
しおりを挟む朝食後、昨夜の成果を発揮するため早速とばかりにフィリーナへ頼んだ。
「フィリーナ、怪我をしてるエルフ達を昨日の広場へ集められないか?」
「んー、リクからの頼みと言えば皆集まるだろうけど、怪我をしてるエルフよね? 一体何をするの?」
「酷い怪我をしてる人達も見かけたからね、治療してみようと思って」
「治療? 手当ならもうしてるわよ?」
「そっちじゃなくて、魔法で治そうと思うんだ」
「……魔法で? 初めて聞いたけど、そんな魔法があるの?」
「まぁ、ね」
「リクはエルサと契約してるから出来るの」
「そう……契約者だから……ね。わかったわ。皆に声を掛けて集めてみる。けど、動けないエルフまでは集められないわよ?」
「そこは、俺がそのエルフの所に行こうかと思ってる」
「そう……じゃあ、早速集めに言って来るわ」
「お願い」
「任せて」
フィリーナは俺の頼みを聞いて石の家を出て行った。
何か、外からフィリーナの皆に呼びかける声が聞こえるんだけど、そういう集め方なんだ……。
「……しかし契約者だから使える魔法……か……リクはとんでもないな」
「そうなの。本当にリクさんは規格外なの」
「人間の常識で考えたら駄目な人物なのは間違いないな。……もうリクがとんでもない事をしでかしてもあんまり驚かないくらいの耐性は付いたと思うぞ」
アルネさんは俺が言う怪我を治す魔法という物に驚いているようだけど、モニカさんとソフィーさんはあまり驚いていない。
それどころかソフィーさんは俺が常識外と言ってる。
……俺はれっきとした常識人だぞ! ……多分。
「リクさん、ユノちゃんとエルサちゃんに実験した魔法っていうのがその怪我を治す魔法なの?」
「そうだよ。ユノ達は怪我をしてなかったけど、体に害のある魔法じゃないからね。試させてもらったんだ」
「それで失敗して、ユノの髪が伸びた……という事か」
「……まぁ……その、はい」
失敗に関しては申し訳ないと思ってる。
ちゃんと元の長さと同じくらいに切って揃えたんだけどなぁ。
まぁ、次実験をする時は気を付けよう。
……次があるかわからないけど。
「リクが普通とは違うというのはなんとなくわかった」
「それはひどくないか、アルネ?」
「契約者というだけで既に普通じゃないんだがな。怪我を治す魔法なんて聞いた事も無い」
「それなんだけど……エルフも使えるみたいだよ?」
「何!? どういう事だ?」
「えっと、確か、俺が使おうとしてる魔法とは別の物なんだけど。治癒の魔法というのがあって、それを使うにはかなりの魔力が必要みたいで、人間にはとても使用できる魔力量じゃないらしいんだ。でも、魔力量の多いエルフなら使えるだろうって。ただ、呪文書も何も無くて研究もされてないから、実際に使えるかどうかはまた別みたいだ」
「……そんな事初めて聞いたぞ……確かに我々エルフは人間より魔力が高い種族ではあるが、治癒の魔法という存在すら聞いた事が無い。……研究してみる価値はあるかもしれないな……」
アルネは治癒の魔法を研究する事に興味があるみたいだ。
だけど……。
「治癒の魔法、失敗すると怪我がさらにひどくなる可能性もあるから危ないかもしれないぞ?」
「……それは……なんというか……うーむ……」
俺の言葉にアルネは考え込んでしまった。
まぁ、気軽に実験とか出来るものじゃないよな、そんな魔法。
下手したら怪我を治すつもりが怪我人を増やす結果になりそうだ。
エルフが研究すると言って実際に始めても、すぐに実現はしなさそうだねぇ。
そうこうしてるうちに、外にエルフ達を集めに行っていたフィリーナが帰って来た。
「リク、とりあえず怪我をしてるエルフを集められるだけ集めたわ」
「わかった。じゃあ広場へ行こう」
俺達は石の家を出て、昨日通った複雑な道を通り広場へと向かった。
本当は案内のフィリーナかアルネがいれば、俺一人でもいいんだけど、モニカさんとソフィーさんは興味があるからと付いて来る事にしたようだ。
エルサはいつも通り俺の頭。
ユノは散歩気分で一緒に来るようだ。
そして、広場に到着すると、そこには怪我をしたエルフ達がぞろぞろと広場に集まっているところだった。
「フィリーナ、何人くらいいるんだ?」
「正確にはわからないけど、ざっと200人はいるわね」
「……そんなに怪我人が出てたのか……」
「ここに来れないくらいの怪我人もいるわよ。合わせると多分300人近くになるんじゃないかしら」
「……」
俺は、フィリーナから告げられた数の多さに少しだけ後悔した。
でも、エルフ達は怪我をして困ってるんだ。
少しでも力に慣れたら嬉しい。
そう考え、まずは怪我の酷いエルフから1列で並ぶようにフィリーナとアルネに頼む。
最初のエルフは、右腕と左足が折れてる男性のエルフだった。
切り傷や打撲っぽいものもそこかしこに見られ、何とか他のエルフに肩を借りて歩いてる状態だった。
「……リク様……本当にこの怪我が治るんですか?」
「……リク様はやめて下さいね。リク、でいいですよ。怪我は治ります。だから安心して下さいね」
傷付いたエルフの男性に声を掛けながら、手をそのエルフにかざす。
……昨日試した時と同じように、体の治癒能力を活性化させるイメージ……体内の活動を早送りにする、そんなイメージ……魔力を変換して……。
「緑色の魔力……優しい光ね」
「そうね。リクさんの心のようにも見えるわ」
「リクの優しさ、だな」
「これが治癒……か……」
フィリーナさん達の声を聞きながら、魔力の変換を終えて魔法を発動させる。
「ヒーリング」
俺が魔法名を言った瞬間、緑色の光がかざした手から溢れ、その前にいるエルフの体を包み込む。
エルフは自分に起こってる事がわからない様子で、その緑色の光をただ見つめてるだけだったが、次第に驚きの表情に変わっていく。
数十秒後、緑色の光が収まった頃には、折れていたはずの右腕を振り回し、左足で力強く地面を蹴って飛び跳ねてるエルフの姿があった。
切り傷や打撲もその跡すら無く消えている。
「すごいわね! こんな一瞬であの酷い怪我を治すなんて……!」
「契約者の治癒……何をどうしたらあんな事が出来るのか理解が出来ん」
「やっぱリクさんの魔法はちょっとおかしいわ……」
「ちょっとどころの問題じゃないな」
フィリーナ、アルネ、モニカさん、ソフィーさんがそれぞれ何かを言っていたけど、俺はそれに構わず、次のエルフを呼んで再び魔法に取り掛かった。
……イメージしてたのより、早く治ったんだけど……まぁ、悪い事じゃないからいいか……。
日も高く昇り、そろそろお腹も空いて来た頃、広場に集まったエルフ達全員の治療を終えた。
途中から、イメージや魔法に変換する作業に慣れた俺は、エルフを数人横に並べて一度に治癒して時間短縮をした。
「リクの魔力がここまでなんて思わなかったのだわ。普通のエルフなら一度の治癒で魔力が空になりそうなくらい必要なのだわ。なのにリクは疲れた様子すら無いのだわ……」
頭の上でエルサが呆れたような口調で言っていたけど、それには構わずエルフ達を治療するのに集中した。
変に集中が途切れて、また髪が伸びたりしたらいけないからね。
広場での治療が終わり、その場で昼食。
治療した人達が泣きながら俺に感謝をして、昼食まで用意してくれた。
その為に治療したわけじゃないんだけど、まぁ厚意は受け取っておこうかな。
昼食は昨日の夕食と同じくらいの量が出て、当然ながら全部は食べ切れなかった。
エルフ達の感謝の気持ちなんだろうけど、さすがに量が多いよ……。
11
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる