92 / 1,903
リクの魔法実験(危険はありません)
しおりを挟む「それなんだけどな……こういうのはどうだ?」
「どんなのなの?」
「どんなのだわ?」
エルサのモフモフの毛はもう既に乾いていつものように見事なモフモフになってる。
ドライヤーもどきの魔法は既に止めてある。
エルサもユノも興味津々なのか、眠気も忘れて俺が話す事に耳を傾けた。
「人って、軽い傷なら放っておいても治るだろ? 自然治癒力って言うんだけど、それを高めるようにするなら出来るんじゃないかと思ってな」
「自然治癒力……」
「確かに致命傷とかじゃないなら怪我は勝手に治るのだわ」
傷を塞いだりするイメージは、実際に傷の手当をよくしてるイメージのしやすい人……それこそ医者とかなら簡単なのかもしれない。
でも俺は医者じゃない。
これまで生きて来て、自分が大きな怪我をした事も無ければ、傷を縫った事も経験に無いんだ、色んな種類の怪我を治すイメージは難しいだろう。
だけど、人の持つ自然治癒力を高めて自然に治るのならイメージはしやすいと思うんだ。
「つまり、人の怪我を治そうとする力を増幅してあげれば良いんだ」
「でも、どうやって増幅するの?」
「医学的な事にはあまり詳しくは無いんだけど……例えば、人にエネルギーを与えるイメージで、体内に備わる機能を活性化させるようにすれば怪我の治りは速くなるんじゃないかと思う」
「……リクが以前いた地球の考え方に似てるの」
まぁ、聞きかじった医学知識で考えてるからね。
詳しい事は知らないけど、人の持つ自然治癒力を活性化させれば怪我が治る、もしくは治りが早くなるんじゃないかと思う。
「上手くイメージが出来たら、使えると思うの」
「でも、突然治癒の魔法だなんてどうしたのだわ?」
「あぁ、この集落のエルフ達を見てな。結構、怪我をしてる人達がいただろ?」
「広場にいっぱいいたの」
「……怪我をしてるのに私をジロジロ見るのは辞めて欲しいのだわ」
そういえば、広場でエルサが大きくなった時、どれだけひどい怪我をしていてもエルフ達は皆エルサを見て感動してた。
足を折ってると見える、添え木をしたエルフがエルサに跪こうとして痛みに悶えてるとかもあったな……。
まぁ、それはともかく。
「明日にでも、怪我をしたエルフ達を治療してあげたいと思ったんだ。そうすれば、魔物達が襲って来た時、エルフ達も戦えるだろ?」
「リクは戦わないのだわ?」
「もちろん俺も戦うさ。でも、魔物がどれだけいるかまだわからないしな。戦力は多い方が良いと思う」
「皆で一緒に戦うの!」
「……リクが一人で魔物が出て来てる洞窟に行って全部倒せばいいのだわ」
「いやいや、俺一人で行っても無謀なだけだろ。溢れる程いる魔物に囲まれて終わりだ」
「……はぁ」
何故かエルサに溜め息を吐かれた……何でだ?
「とにかく、今言った治癒魔法を明日エルフ達に試してみようと思う」
「皆元気になるの!」
「リクの好きにするのだわ」
俺は、明日にでも怪我をしたエルフ達を助ける決心をした。
治癒魔法がこの世界に無いなら、いくらイメージで魔法が使えるとは言え出来無い可能性が高かったと思うけど、神様であるユノがあるって言うんだ、それならイメージさえ出来れば成功するはずだ。
というか、ユノって色々しってるのは神様だからわかるけど、見た目通りの精神年齢になって話す事が多くなって来たな……。
ノリで喋ってるような感じだ。
まぁ、ユノが楽しいならそれでいいんだけどな。
それと、まだ寝る前にやる事がある。
「ユノ、エルサ、ちょっと手伝って欲しい事があるんだ」
「何なの?」
「何を手伝うのだわ?」
「治癒魔法がある事はわかったし、イメージの仕方次第で成功するだろうというのもわかった。けど、いきなり怪我をしたエルフ達に実験するわけにもいかないだろ?」
「もしかしてなの……」
「……だわ……」
そう、成功するかどうかわからない魔法を、きっと成功するだろうと考えて怪我をしたエルフに使うのは危険だ。
だからエルサとユノにはちょっとだけ手伝ってもらおうと思う。
「私、モニカの所で寝るの!」
「私も行くのだわ!」
「ははは。エルサもユノもまだ寝るには早いぞー(本当はもう寝てるくらいの時間だけど)。少しでいいから付き合ってくれ」
「実験は嫌なのー」
「リクの魔法は失敗すると危険なのだわー」
俺は右手にエルサ、左手にユノを捕まえて、逃がさないようにしながら魔法のイメージを始めた。
「離してなのー」
「待ってなのだわー」
「大丈夫、魔力は出来るだけ小さくして、ちゃんと影響は最小限にするから」
「あぁぁぁぁぁぁ」
「だわぁぁぁぁぁ」
出来るだけ小さく、イメージでは針で刺した程度の傷を治すくらい活性化させるイメージで……。
魔法名は……ゲームとかであった名前でいいや、イメージしやすいし。
「ヒーリング」
「あ……」
「だわ……」
それからしばらく、ユノとエルサは俺の治癒魔法実験を手伝ってもらった。
結果から言えば成功。
途中、色々と活性化しすぎて、ユノの髪が足元まで伸びたり、エルサの爪が小さい姿のままでも俺の腕くらい伸びたりと色々あったけど、何とか使う事が出来るようになった。
後は、明日エルフ達の怪我を治してあげるだけだ。
あ、ちなみにユノの髪はちゃんと切り揃えて元の長さに、エルサの爪は固かったけどヘルサルの街で買った剣をのこぎりの要領で使って切り取った。
寝る時になると、エルサもユノも俺を睨んで、同じベッドなのに俺から離れるようにして寝たのはちょっと寂しかった……俺もエルサをモフモフしながら寝たいのに……。
――――――――――――――――――――
翌朝、皆が起き出して居間に集まる。
「あら、ユノちゃん。髪が綺麗になってない?」
「ほんとだな。切り揃えられてるな」
「……昨日、リクの魔法で実験されたの」
ユノは不貞腐れた様にモニカさんとソフィーさんに答えた。
まだ昨日の治癒魔法を実験する時、試しに使う相手をユノとエルサにした事に対して拗ねてるようだ。
……身近に頼めるのはユノとエルサしかいなかったんだよ。
モニカさんとソフィーさんは失敗した時が恐そうだからなぁ……。
「リクさんの魔法? 髪を綺麗にする魔法なの?」
モニカさんは興味を持ったようで聞いて来るけど、違う。
髪を綺麗にするんじゃなくて、怪我を綺麗に治療するための魔法だ。
ちょっと失敗して髪が伸びて、切り揃えたから綺麗に見えるだけだと思う。
「……違うの。リクが魔法を失敗して私の髪が床に付くくらい伸びたから切っただけなの」
「それで、毛先が切り揃えられてるのか」
「……成る程ね……リクさん、ユノちゃんで実験しては駄目よ? かわいそうでしょ?」
「……はい……すみません」
ここは素直に謝っておこう。
女性の髪は大事な物だ。
実験で失敗するとそうなるとは考えて無かったとは言え、異常な程短期間で伸びて切ってなんて、嬉しい事じゃないだろう。
……次別の魔法を思いついたら、他の人に頼もう。
モニカさんに怒られないように……。
「おはよう、皆」
「おはよう、フィリーナ」
そんな話をしていると、俺達の世話をするという名目でこの石の家に泊まったフィリーナも起きて来た。
フィリーナはこの集落に家があるはずなんだけど、帰らなくても良いのだろうか?
その後、フィリーナと同じく泊まったアルネも起きて来て、全員が今に集まった。
昨日と同じく一旦フィリーナが席を外し、しばらくして朝食を運び込んで来た。
昨日はさすがに全部食べ切れなかったのを見てるからか、朝食の量は控えめだ。
エルサ用のキューも用意してあって、エルサもご満悦。
これで昨夜の事を忘れてくれると嬉しいんだけどな。
俺はエルサがキューに夢中で昨夜の事を根に持たれない事を願いつつ、朝食を食べた。
11
お気に入りに追加
2,152
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる