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リクの魔法実験(危険はありません)

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「それなんだけどな……こういうのはどうだ?」
「どんなのなの?」
「どんなのだわ?」

 エルサのモフモフの毛はもう既に乾いていつものように見事なモフモフになってる。
 ドライヤーもどきの魔法は既に止めてある。
 エルサもユノも興味津々なのか、眠気も忘れて俺が話す事に耳を傾けた。

「人って、軽い傷なら放っておいても治るだろ? 自然治癒力って言うんだけど、それを高めるようにするなら出来るんじゃないかと思ってな」
「自然治癒力……」
「確かに致命傷とかじゃないなら怪我は勝手に治るのだわ」

 傷を塞いだりするイメージは、実際に傷の手当をよくしてるイメージのしやすい人……それこそ医者とかなら簡単なのかもしれない。
 でも俺は医者じゃない。
 これまで生きて来て、自分が大きな怪我をした事も無ければ、傷を縫った事も経験に無いんだ、色んな種類の怪我を治すイメージは難しいだろう。
 だけど、人の持つ自然治癒力を高めて自然に治るのならイメージはしやすいと思うんだ。

「つまり、人の怪我を治そうとする力を増幅してあげれば良いんだ」
「でも、どうやって増幅するの?」
「医学的な事にはあまり詳しくは無いんだけど……例えば、人にエネルギーを与えるイメージで、体内に備わる機能を活性化させるようにすれば怪我の治りは速くなるんじゃないかと思う」
「……リクが以前いた地球の考え方に似てるの」

 まぁ、聞きかじった医学知識で考えてるからね。
 詳しい事は知らないけど、人の持つ自然治癒力を活性化させれば怪我が治る、もしくは治りが早くなるんじゃないかと思う。

「上手くイメージが出来たら、使えると思うの」
「でも、突然治癒の魔法だなんてどうしたのだわ?」
「あぁ、この集落のエルフ達を見てな。結構、怪我をしてる人達がいただろ?」
「広場にいっぱいいたの」
「……怪我をしてるのに私をジロジロ見るのは辞めて欲しいのだわ」

 そういえば、広場でエルサが大きくなった時、どれだけひどい怪我をしていてもエルフ達は皆エルサを見て感動してた。
 足を折ってると見える、添え木をしたエルフがエルサに跪こうとして痛みに悶えてるとかもあったな……。
 まぁ、それはともかく。

「明日にでも、怪我をしたエルフ達を治療してあげたいと思ったんだ。そうすれば、魔物達が襲って来た時、エルフ達も戦えるだろ?」
「リクは戦わないのだわ?」
「もちろん俺も戦うさ。でも、魔物がどれだけいるかまだわからないしな。戦力は多い方が良いと思う」
「皆で一緒に戦うの!」
「……リクが一人で魔物が出て来てる洞窟に行って全部倒せばいいのだわ」
「いやいや、俺一人で行っても無謀なだけだろ。溢れる程いる魔物に囲まれて終わりだ」
「……はぁ」

 何故かエルサに溜め息を吐かれた……何でだ?

「とにかく、今言った治癒魔法を明日エルフ達に試してみようと思う」
「皆元気になるの!」
「リクの好きにするのだわ」

 俺は、明日にでも怪我をしたエルフ達を助ける決心をした。
 治癒魔法がこの世界に無いなら、いくらイメージで魔法が使えるとは言え出来無い可能性が高かったと思うけど、神様であるユノがあるって言うんだ、それならイメージさえ出来れば成功するはずだ。
 というか、ユノって色々しってるのは神様だからわかるけど、見た目通りの精神年齢になって話す事が多くなって来たな……。
 ノリで喋ってるような感じだ。
 まぁ、ユノが楽しいならそれでいいんだけどな。
 それと、まだ寝る前にやる事がある。

「ユノ、エルサ、ちょっと手伝って欲しい事があるんだ」
「何なの?」
「何を手伝うのだわ?」
「治癒魔法がある事はわかったし、イメージの仕方次第で成功するだろうというのもわかった。けど、いきなり怪我をしたエルフ達に実験するわけにもいかないだろ?」
「もしかしてなの……」
「……だわ……」

 そう、成功するかどうかわからない魔法を、きっと成功するだろうと考えて怪我をしたエルフに使うのは危険だ。
 だからエルサとユノにはちょっとだけ手伝ってもらおうと思う。

「私、モニカの所で寝るの!」
「私も行くのだわ!」
「ははは。エルサもユノもまだ寝るには早いぞー(本当はもう寝てるくらいの時間だけど)。少しでいいから付き合ってくれ」
「実験は嫌なのー」
「リクの魔法は失敗すると危険なのだわー」

 俺は右手にエルサ、左手にユノを捕まえて、逃がさないようにしながら魔法のイメージを始めた。

「離してなのー」
「待ってなのだわー」
「大丈夫、魔力は出来るだけ小さくして、ちゃんと影響は最小限にするから」
「あぁぁぁぁぁぁ」
「だわぁぁぁぁぁ」

 出来るだけ小さく、イメージでは針で刺した程度の傷を治すくらい活性化させるイメージで……。
 魔法名は……ゲームとかであった名前でいいや、イメージしやすいし。

「ヒーリング」
「あ……」
「だわ……」

 それからしばらく、ユノとエルサは俺の治癒魔法実験を手伝ってもらった。
 結果から言えば成功。
 途中、色々と活性化しすぎて、ユノの髪が足元まで伸びたり、エルサの爪が小さい姿のままでも俺の腕くらい伸びたりと色々あったけど、何とか使う事が出来るようになった。
 後は、明日エルフ達の怪我を治してあげるだけだ。
 あ、ちなみにユノの髪はちゃんと切り揃えて元の長さに、エルサの爪は固かったけどヘルサルの街で買った剣をのこぎりの要領で使って切り取った。
 寝る時になると、エルサもユノも俺を睨んで、同じベッドなのに俺から離れるようにして寝たのはちょっと寂しかった……俺もエルサをモフモフしながら寝たいのに……。

――――――――――――――――――――

 翌朝、皆が起き出して居間に集まる。

「あら、ユノちゃん。髪が綺麗になってない?」
「ほんとだな。切り揃えられてるな」
「……昨日、リクの魔法で実験されたの」

 ユノは不貞腐れた様にモニカさんとソフィーさんに答えた。
 まだ昨日の治癒魔法を実験する時、試しに使う相手をユノとエルサにした事に対して拗ねてるようだ。
 ……身近に頼めるのはユノとエルサしかいなかったんだよ。
 モニカさんとソフィーさんは失敗した時が恐そうだからなぁ……。

「リクさんの魔法? 髪を綺麗にする魔法なの?」

 モニカさんは興味を持ったようで聞いて来るけど、違う。
 髪を綺麗にするんじゃなくて、怪我を綺麗に治療するための魔法だ。
 ちょっと失敗して髪が伸びて、切り揃えたから綺麗に見えるだけだと思う。

「……違うの。リクが魔法を失敗して私の髪が床に付くくらい伸びたから切っただけなの」
「それで、毛先が切り揃えられてるのか」
「……成る程ね……リクさん、ユノちゃんで実験しては駄目よ? かわいそうでしょ?」
「……はい……すみません」

 ここは素直に謝っておこう。
 女性の髪は大事な物だ。
 実験で失敗するとそうなるとは考えて無かったとは言え、異常な程短期間で伸びて切ってなんて、嬉しい事じゃないだろう。
 ……次別の魔法を思いついたら、他の人に頼もう。
 モニカさんに怒られないように……。

「おはよう、皆」
「おはよう、フィリーナ」

 そんな話をしていると、俺達の世話をするという名目でこの石の家に泊まったフィリーナも起きて来た。
 フィリーナはこの集落に家があるはずなんだけど、帰らなくても良いのだろうか?
 その後、フィリーナと同じく泊まったアルネも起きて来て、全員が今に集まった。
 昨日と同じく一旦フィリーナが席を外し、しばらくして朝食を運び込んで来た。
 昨日はさすがに全部食べ切れなかったのを見てるからか、朝食の量は控えめだ。
 エルサ用のキューも用意してあって、エルサもご満悦。
 これで昨夜の事を忘れてくれると嬉しいんだけどな。
 俺はエルサがキューに夢中で昨夜の事を根に持たれない事を願いつつ、朝食を食べた。


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