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大量の料理を運んで来るフィリーナ
しおりを挟む「それでも、二人を集落から出したんですか?」
「はい。全滅するよりかは、例え二人だけであろうと生き残ってくれればと考えていました。ですが……まさかこんなに早く帰って来て、さらにリクさんのような方を連れて来てくれるとは思ってませんでした。ははは」
「ははは……」
そんな持ち上げられても困るんだけどね……。
「まぁそれはともかく、エヴァルト、私達が集落を出た時より怪我人が多かったように見えたけど?」
「ああ。今朝魔物が集団で襲って来てな。しかも森の外からだ。集落の中まで入り込まれて戦闘になった」
俺が見た建物や柵が壊れてたのはこれだろうね。
「ウッドイーターを何とかしないと森が無くなってしまいます。しかし周りにいる魔物達からの攻撃をしのぐので精一杯なのが現状です」
「……そうみたいですね」
「フィリーナとアルネからは、リクさん達がこの集落を守るためにここに来たと聞きました」
「はい」
「改めて、私からお願いします。この集落を守るためにそのお力を貸していただけませんか?」
「私からもお願い、リク。この集落は私達エルフの拠り所なの」
「俺からも頼む」
エヴァルトさんに続き、フィリーナさん、アルネさんが椅子から立ち上がって俺に頭を下げた。
それを見た俺は、ユノから話を聞いた時以上にこの集落を守らないといけないという使命感に駆られた。
「頭を上げて下さい、エヴァルトさん。フィリーナとアルネも。元々この集落を守るために来たんです。俺が出来る事なら協力しますよ!」
「私も協力するわ!」
「大量の魔物か……どこまで出来るかわからんが、私も力になろう」
「ユノも頑張るの!」
「……私は……リクがやるのなら一緒にやるのだわ」
「リクさん、モニカさん、ソフィーさん、ユノさん、エルサ様……皆さん、ありがとうございます」
「ありがとう」
「リクはこの集落の救世主だな」
アルネ……救世主は辞めてくれ。
ただでさえ、ヘルサルでは英雄って言われて戸惑ってるんだから……。
「それでは、今日はこの集落に来たばかりでお疲れでしょう。集落を上げてリクさんを歓迎したいところですが……」
「それはまたの方がいいわね。いつ魔物が襲って来るかわからないし」
「そうだな。だからリク、今日は美味い物でも食べてゆっくり休んでくれ」
「ありがとう。お言葉に甘える事にするよ」
その後、エヴァルトさんは俺達が本当に集落を守る戦いに参加してくれる事をエルフ達に伝えに行き、フィリーナは何かの用意をするといって部屋を出た。
残ったアルネの案内で、今俺達がいる石造りの建物を見て回り、各自寝泊まりする部屋を決めて荷物を降ろした。
ちなみに部屋は10部屋以上有り、獅子亭の厨房より広い厨房。
さっきまで話してた会議室のような部屋とは別に、皆が集まるための広い部屋があったので、そこに皆が集まって談笑してる。
地球で言う、リビングとダイニングのような……というかその二つを合わせた部屋だね。
ソファーのような大きくて数人が座れる椅子の他、10人以上が座って食事を取れる大きいテーブルなんかもあった。
案内したアルネが言うには、ここはエルフの建築技術を集結して造った実験的な建物である事の他に、集落にとっての要人をもてなす場所として使われてるようだ。
「まぁ、今まで実際に要人が来た事も無ければ、使われた事も無いんだけどな」
と笑って言ってたアルネ。
宝の持ち腐れではないけど、これだけ立派な建物が使われないのはもったいないね。
でも……さすがにここに来るまでの複雑な道筋は何とか考えた方が良いんじゃないかと思う。
俺達はしばらく、広い部屋……居間で良いか……でエルサを撫で回したり、モニカさんがユノに構って世話を焼こうとしてるのを眺めたりして過ごしていた。
問題のエルフの集落に着いたけど、こんなにのんびりしてていいのかと疑問に思うくらいのんびりした。
まぁ俺は少し考えてる事があるので、寝る前にでもエルサやユノと話そうと思う。
そうしてしばらくすると、何かの用で出ていたフィリーナが戻って来た。
……何人かのエルフ達と一緒に、持ってるのが不思議なくらい大量の料理を持って。
「盛大な歓迎会は出来ないけど、今日はリク達がこの集落に来たんだから、出来る限りのもてなしをするわよ!」
そう言って、持ち運ばれてくる大量の料理に呆気に取られてる俺達を置いて、フィリーネはアルネも参加して連れて来たエルフ達とテーブルに料理の載った皿や果物なんかを並べる。
……10人以上が余裕を持って座れるテーブルが、フィリーネの持って来た料理達で溢れそうになってる……全部食べられるかな……?
「さぁ、どんどん食べてね!」
フィリーナが良い笑顔で俺達に食べるよう促すけど、こんな歓迎されて良いのかな……。
「えっと……ちょっと……料理が多過ぎないか?」
「……こんなに食べ切れないわよ」
「食べられるだけ食べようじゃないか」
「いっぱい食べられるの!」
「まだまだあるわよ。どんどん食べて頂戴!」
フィリーネ曰く、料理はまだまだあるようだ……。
「諦めろリク。フィリーナもそうだが、エルフ達がリクを歓待したがってるんだ。まぁ……食べ切れなければ残せばいいさ……はぁ……」
「……それで良いのか?」
アルネが溜め息を吐きながら諦めたように言って来るが、それで良いんだろうか……。
もちろん、歓迎されて嬉しくない事は無いが、それにしたってこの食べ切れない程大量の料理は……。
「……キューが無いのだわ……キューを要求するのだわ!」
俺の頭で運ばれてくる料理を見ていたエルサが、突然叫んだ。
エルサの叫びに、フィリーナを含めて料理を運んで来ていたエルフ達が固まる。
「エルサ様……? キューとは……あのキューですか?」
「キューはキューなのだわ!」
フィリーナがエルサに問いかけると、エルサは早く出せとばかりに答える。
「フィリーナ、エルサはキューが大好物なんだ。エルフの集落では作ってないのか?」
「……あるにはあるけど……」
「あるなら早く出すのだわ!」
「エルサはちょっと落ち着け」
「……リクに言われたから待ってやるのだわ……」
「フィリーナ、すまないけどエルサのためにキューを用意してくれないか?」
「……わかったわ。何もしていないただのキューならいくらでもあるから、すぐに用意するわ」
エルサを落ち着かせ、フィリーナに頼んでキューを用意してもらうようにする。
フィリーナは首を傾げながら居間は出て行き、少しして戻って来た。
「……持って来たわよ。本当にこれでエルサ様は満足するの?」
「ああ。ほらエルサ、キューが来たぞ」
「キューなのだわ! いっぱい食べるのだわ!」
俺の頭から飛び立ち、フィリーナが持って来たキューが積まれてる皿に飛び込んだ。
「……本当にキューが好きなのね。手の込んだ料理でも無いのに……」
「エルサはキューがあれば満足するからな。一応他の料理とかも食べるけどな」
「そうなのね……ドラゴンの好み……わからないわ……」
フィリーナも他のエルフ達もキューを幸せそうに齧るエルサを見て戸惑ってる。
「フィリーナ達はリク達をエルフが丹精込めて作った料理で歓待したいんだ。何も手の加えて無いキューで満足するとは思って無かったからな」
「そうなのか」
アルネが俺の横でボソッと呟いて教えてくれた。
エルフ達にとっては、手の込んだ料理を作って歓待してる事を示したかったんだろう。
ただ収穫しただけのキューで満足してもらえるとも思って無かっただろうから、仕方がない。
まぁ、エルサのおかげでフィリーナ達が運んで来る料理が止まったから、今のうちに食べ始めよう。
さっきから良い匂いがして、食べてと言わんばかりの目でエルフ達が見て来てたけど、さすがに料理が次から次へと運ばれて来る光景に圧倒されて食べる事が出来なかったから。
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