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勲章と騎士爵と報奨金
しおりを挟む「では、こちらがBランクの冒険者カードになります。今までのCランクカードは返却願います」
「……はい」
ヤンさんからBランクのカードを受け取り、今まで持っていたCランクカードを渡す。
「それとですが、モニカさんもCランク昇格となりましたので、こちらのカードを」
「え? 私もですか?」
「はい。元々戦闘技術はCランク相当というのは登録試験の時に話したと思いますが、今回の防衛参加、戦闘経過を見た所、早々にCランクに上げても良いだろうとギルドマスターと私が判断いたしました。もちろん、他のギルド支部の許可は取ってあります」
「おめでとう、モニカさん」
「モニカがCランクか。早いもんだなぁ」
モニカさんが戸惑いながらもカードの受け渡しをする。
俺がBランクになれたんだから、モニカさんがCランクになれてもおかしくないよね。
マックスさんとの特訓は頑張ってたし、防衛戦でも活躍してたからね。
「さて、私の話しはこんなところですかね。次は代官様が話すのでしたね。時間を取らせてしまって申し訳ありません」
「いえ、時間は大丈夫ですよ。リク様が活躍した評価を報酬と言う形で支払われるのを見るのは興味深かったですし」
「クラウス様、時間は有限です。この件が済みましたら、執務室で仕事が待っております」
「……」
ヤンさんの話しが終わり、次はクラウスさんなんだけど……トニさんに指摘されてから顔が固まってるんだけど、大丈夫だろうか。
「えっと、クラウスさん。大丈夫ですか?」
「……ええ、大丈夫ですよ。リク様と話せるのでしたら、この後どれだけの仕事が待っていようと平気で御座います!」
「はあ」
無理矢理テンションを上げるように言い切って、クラウスさんは俺と向き合い話し始めた。
というか何かこの人異様に下手に出るような喋り方だけど、代官って事はこの街で一番偉いはずだよね?
俺と話せるならって、俺と話してもそんなに面白くないんじゃないかな……。
「ええと、この度のヘルサルの街防衛戦の参加、及びゴブリン軍殲滅、ありがとうございました。おかげさまでこの街は人的被害も無いという奇跡で守られ平穏を取り戻すことが出来ました」
「いえ、防衛戦の参加はこの街を守りたかっただけですし、俺だけが成し遂げたわけではありませんよ。皆がいたから守れたんだと思います」
「謙遜しますなあ。それで、街を守った事の褒賞なのですが、リク様以外の戦闘に参加した方々は冒険者ギルドを通して既に金銭褒賞という形で支払っております」
防衛戦参加者にはそれぞれお金が支払われたみたいだ。
金額はわからないけど、ちゃんと支払われたのなら皆が頑張った甲斐があったんだろうね。
「リク様に関しましては、ゴブリンをほとんど一人で殲滅されましたので、他の方と同じ褒賞と言うわけには参りません」
「そうなんですか?」
「ええ。金額を多少増やしてもあれだけの戦果です。おそらく街の人々も兵士達すらも納得しないでしょう」
「……別に同じような物でいいのになぁ」
「リク、あれだけの事をしておいて皆と同じわけにはいかんだろう」
「そうよリクさん。街の皆がリクさんに感謝してるわ。それなのに皆と同じ報酬なんて私も納得しないわよ」
そんなもんなのか。
目が覚めてからずっとそうだけど、俺一人が活躍して街を守ったとは思えないんだよな。
獅子亭の皆がいたから、防衛戦に参加しようと思ったし、準備の時街の人達と協力したから街を守ろうと思って頑張った、ただそれだけ。
しかもゴブリンを殲滅した時なんかは、マックスさんが怪我をした事に怒って、ゴブリン達にその怒りをぶつけただけだし……英雄とか言われても実感が湧かないよね。
「まず一つ目の褒賞としまして、金貨100枚を」
「……またお金が増えた」
「儲かってるな、リク」
マックスさんが苦笑してるけど、これだけの金額をいきなり渡されてもどう使うかなんて考えられない。
……貯金しとこう。
トニさんから金貨の入った袋を受け取ったクラウスさんが、俺にそれを渡す。
受け取った俺はそのままモニカさんへパス。
すいません、数えておいてください。
「……私、リクさんと一緒にいると金庫番のようになりそうね」
「……すみません」
モニカさんが金貨を数え終わり、クラウスさんと次の話しに移る。
褒賞が何個もっていいのかなぁ。
「二つ目の褒賞ですが……リク様は冒険者なので国の機関に召し抱えたりといった事が出来ません。本来なら最低でも私に代わってこの街の代官になってもらうか、王都で役職に就くという事もあり得たのですけどね」
「代官とか、忙しそうですね……」
「王軍や領主軍がこの街に来た時も言いましたが、リクさんは冒険者であり、冒険者ギルドが保護します。国に引き渡すようなことはしませんよ」
「ええ、それはよくわかっております」
ヤンさんがクラウスさんを軽く睨みながら言っているのをクラウスさんはにこやかに流してる。
まぁ、国に仕えるとか面倒な事が多そうだし、代官はクラウスさんを見る限り忙しそうだからな。
堅苦しいのは遠慮したい。
「そこでですね、国には仕えていませんが国に対して多大な貢献をしましたので、勲章を授けようとの話が出ました」
「……勲章ですか?」
「はい。それと勲章に付随しまして、騎士爵も叙爵すると王都が言って来ております」
「騎士爵……爵位ですか……」
「ええ。騎士爵なので、一代限りの爵位ではありますが……貴族として取り立てようとの事です。国としてはリクさんをこの国で活躍させたいようですな」
「国の思惑は面倒そうだな」
「はい、本当に面倒なのです。リク様は冒険者なので、これを断る事が出来ます」
「断る事も出来るのですか。……騎士爵を受けた時、利点と不利点はわかりますか?」
「……偉くなればキューがもらえるのだわ?」
エルサはちょっと黙っておこうねー、ほんとにキューしか頭に無いようだ……。
まあ、勲章を俺が貰うのも偉そうで遠慮したいけど、爵位かー。
貴族になるって楽しそうじゃないんだけどなぁ、しかもマックスさんが言ってるけど国の思惑とかもあるみたいだし……本当に面倒そうだ。
一応利点と不利点、メリットデメリットだけど爵位をもらう事でこれから先の良い事と悪い事を聞いてから判断しよう。
「まず、利点としまして。騎士爵を叙爵されますと、何もしなくとも国からの給金が出ます。金額は年金貨100枚ですが、リク様なら冒険者としてこれ以上を稼ぐくらいは簡単でしょう。他には国内の街や村への出入りが簡単になります。爵位を持っている事で身元の証明がされているという事ですな」
「……ふむふむ」
その他騎士爵をもらった時のメリットデメリットを説明してもらった。
メリットは正直あんまり魅力じゃないかな。
平民よりは確かに階級としてみたら上なんだろうけど、人を見下すとかしたくはないから平民のままでも構わない。
お金は働かなくても稼げるってのは魅力ではあるけど、せっかくこの世界に来たんだから、働くというより色々したい。
冒険者は色んな依頼があるみたいだから、それをこなしていればお金は入るし、色んな事を体験できる。
しかもついさっき使い道に困る程のお金が入ったばかりだから、これも結局はたいして魅力的じゃない。
デメリットに関しては、国外に出る場合に審査が必要になる事、これは国の貴族が国外への流出を防いだり情報が漏れる事への警戒だそうだ。
その他、冒険者であっても貴族という事で国からの命令が下される場合があり、今よりもそれが断りにくくなるという事。
他にもいくつかデメリットはあった、まあそこまで嫌な事じゃないけど……やっぱり貴族になる事に魅力は感じないね。
「せっかくのお話ですが、騎士爵に関しては辞退させて下さい」
「……そうですか。ここで話して人となりを見る限りではありますが、何となくそうなるだろうとは予想しておりました」
「そうなんですか?」
「はい。リク様一人の戦果は凄まじい物なのです。ですがそれを誇る事もせず、偉ぶったりする事が全くない。私個人の意見ではございますが、国の思惑はあれこれあれど、リク様は冒険者として活動してもらった方が結果的に国、というよりもこの街や人間というものに対して利点が多そうだと思います」
「クラウスさんは俺が爵位を受けるのは反対なんですか?」
「どちらとも言えないのですが……代官としてなら国のため、騎士爵を受けた方が良いと言えます。ですがこの街の発展も含めて個人的な意見を含むと反対とも言えるのです」
「だから国の思惑や利点不利点をはっきり言ったのですね。代官様は国側の意見として言わなくて良いような事まで言ってました」
「はい。私はどちら側かと言われますと、はっきりとリク様側と答えます」
クラウスさんは俺が断る事を予想していたみたいだ。
まあ、爵位の話になってから俺があまりいい顔をしてないのを見てたのもあるんだろう。
ヤンさんの言葉に俺側と答えるクラウスさん……というか……俺側って何?
「私はリク様のファンなんです! ゴブリンを殲滅した時から……今こうして話してさらにファンになりました!」
クラウスさんの衝撃発言に、獅子亭にいた皆が固まった。
あ、冷静なヤンさんまで固まってる……。
えっと……初老に差し掛かるくらいのおっさんに目を輝かせて見つめられてファンって言われても……俺苦笑いしか出来ないよ……。
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