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リクが使うドラゴンの魔法
しおりを挟む魔力が視覚化した。
本来魔力は透明で目に見える物ではないと聞いた。
だけど、俺の魔力は目で見えている。
何故だろう……いや、理由はわかる。
理由がわかる事がわからないだけで、何故目に見えているのかはわかっている
俺の魔力が濃《・》過ぎるからだ。
本来人間の魔力はこんなに濃くならない。
いや、魔力濃度と言う物を上げれば見えるようになるが、そんな考えがまず無いし、それが出来るだけの魔力量を持つことが出来ない。
魔力濃度を上げれば今の人間が使う魔法はもっと威力が上がり、種類も増やす事が出来るはずだけど、それが出来ないのだから仕方がない。
少量を濃くして魔法の威力を上げる事は出来るみたいで、それが魔法に対する魔力を多く使って効果を増幅させる事になるようだけど、それに対する今の人間の認識はただ魔力量を多く使うという事だけで、魔力を練って濃くしていくという考えはされていない。
だけど、俺の魔力は見えている。
俺の魔力量が多過ぎる事に加え、魔力を練って濃度を上げるという事を知っているからだろう。
何故なのか、俺にはそれが分かった。
誰かに聞いたわけでもないのに……。
何故なんだろう?
俺はそんな疑問を思い浮かべながら、魔力を練っていく。
俺の周囲に噴き出した魔力は白い色を持って吹き荒れていた。
魔力探査の要領で、吹き荒れている魔力に触れた周辺を探る。
ゴブリン達は軍勢で押し込もうとしているけど、俺の魔力が壁のような役割をして進めないでいる。
魔物は自然の魔力から生まれた生物のはず、魔力から生まれたために魔力感知能力が人間よりも高い。
頭で考えて魔力を判別するのではなく、体で本能的に判別し、魔力に触れるような感覚があるようだ。
だからゴブリン達は俺の魔力の壁に押し止められ、こちらに向かって来る事が出来ないでいる。
俺の後ろ、ヘルサルの街側では、マックスさん達が門の中に入って行ったようだ。
門から突撃しようとしていた第2部隊は二の足を踏むように止まってはいるが、こちらへ向かって来ようとしている。
外壁上の遠距離部隊も様子を窺っているのが分かった。
マックスさん達が街に入ってしばらく、少しずつだけど人が門から離れて街中央へと移動してく。
外壁にいる部隊も数が減ったようだ。
マックスさん、マリーさん、モニカさん、ソフィーさんの四人が必死で声を張り上げて皆を門から出ないよう、西門から離れるように言っているのが聞こえた気がした。
「ありがとう、皆」
俺が何をするのか、何が出来るのかは知らないのに、俺が言った事を守ろうとしている。
まだ出会って2か月も経っていない人達だけど、俺の事を信頼して行動してくれる。
俺が何も出来なかった場合、状況は確実に悪化するのはわかってうえで、俺の事を信頼してくれた。
それだけで俺はこれから行う事への躊躇は無くなった。
マックスさん達が呼び掛けても、叫んでも、モニカさんが泣いても、それでもまだ門や外壁上にいる人達がいた。
俺とはほとんど面識がないから信頼をしてくれていない人だろう。
まあ、ほとんど見た事のない奴が一人で、10万のゴブリン達(第1陣の攻撃で多少は減っていても誤差だろう)に何が出来るのかというのはわかる。
だけど、俺がこれからやる事に巻き込むわけにはいかない。
お願いだから門から早く離れて欲しい。
もう、あまり時間がない。
地面が揺れた。
後ろで大きな物が地面に落ちたような音と振動。
俺は魔力を抑えながら練るのに必死で、後ろを向く事は出来ないけど、探査の魔法を使っているからそれが何か分かった。
エルサだ。
エルサが本来の数十メートルある巨大な姿に戻っていた。
巨大なその体で足を踏みしめるだけで、地面が揺れる。
「エルサ、森で見た大きな姿はまだ控えめだったんだな。本当のお前は大きいなぁ」
俺の呟きが聞こえたのか、こちらを見て笑ったような気がしたが、気のせいだったかもしれない。
エルサはその姿でヘルサルの街を見下ろし、吠えた。
反対方向のはずの俺でさえ、音の振動でビリビリ来る程の咆哮だった。
門の近くにいる人達、外壁上にいる人達はたまったものじゃないと思う。
外壁上にいる人達、衝撃で落ちてないといいけど。
エルサの姿を見て、その咆哮を浴びて、皆が逃げていくのが分かった。
門も閉められた。
これならそろそろ大丈夫そうだ。
「ありがとうエルサ。お前も危ないかもしれないから離れてくれ」
これで大丈夫。
誰も人を巻き込む事はなくなった。
あとは俺が失敗しなければそれでこの戦は終わる。
俺はもう躊躇しない。
俺を守ろうとして誰かが傷付く事はもう、いらない。
三回目なんてもう起こさせない!
俺は魔力を練り続け、濃く、そして量を増やしていく。
魔力は出来るだけ西へ、街の方には向かわせない。
溢れた魔力が一部街の方へ流れはするが大した量じゃない、これなら被害はほぼ無いだろう。
西へ、ゴブリンの軍へ……。
ゴブリン達は密集しているけど、数があまりにも多いため軍が展開している範囲は広かった。
多分、ヘルサルの街そのものと同じくらいの範囲になってるんじゃないかと思う。
その展開しているゴブリン達を囲むように……。
出来るだけその外側へは魔力が漏れないように。
ゴブリン達は俺の魔力に囲まれ身動きが取れなくなっていた。
こちらへ押し込むことも、逃げる事も出来ない。
人間で言うと、門や通り道のない高さ10メートル、幅5メートルの分厚く高い壁に囲われてる状態。
壊せない、飛び越えられない。
絶対に逃げ出せない監獄を作り出す。
俺から見える場所にいるゴブリン達は、怯えた目をしていた。
さあ、あとはイメージだ。
今は俺自身冷静な状態じゃない。
この状態で冷たい氷をイメージするのは難しい。
怒り。
この怒りをそのままイメージに変えるために、火をイメージする。
燃え盛る炎のイメージ。
爆発はしない。
この規模で爆発が起こったら、近くにあるヘルサルも無事では済まないから。
ただひたすら囲まれた魔力の内側が燃え盛るイメージをする。
目に見えていた魔力の色が変わった。
白色から赤い炎のような色へ。
魔力の変換が行われているからだろう。
イメージを具象化するために魔力は次々と色を変えて行く。
……そろそろだ。
イメージは出来た。
魔力も可能な限り練った。
あとは発動させるだけだ。
イメージを固定化するための魔法名は決めていない。
おそらくもうこの魔法を使う事は無いと思うから。
使うような状況が無い事を願う。
一応、これが終わったら名前を考える事くらいはしておこう、念のため。
イメージを阻害しない部分でそんな事を考えながら、発動の準備を終える。
さあ、今!
「っ!!」
魔法を発動。
以前辺りを凍らせた時より激しい喪失感に襲われるけど、それでも大丈夫だ、俺はこれくらいなんともない。
やがて喪失感が薄れ消える頃に魔法は発動した。
音はあったのだろうか、あまりにも音が大きいために耳が聞くことを拒んだのかもしれない。
魔力で包んだ範囲に大きな、エルサよりも遥かに大きい火柱が立った。
それはゴブリンを焼き、大地を焼き尽くしてなお燃え続けた。
火柱は高く、高く燃え上がり、天にまで届いた。
火柱というのは本当に正しいのだろうか、燃え盛っている炎は白い。
燃えるというより、溶かしているように全てが消滅していく。
熱は感じない。
俺は自分の魔力を纏って熱を遮断させている。
元々俺の魔力から発生している炎だから、俺に同調しやすいためか遮断するのは簡単だった。
でも、相当な熱なのだろう。
街の外壁が溶け始める。
石の外壁が溶ける。
石って溶けるんだな、なんて俺はそれを見ていた。
しばらく、およそ5分程度だろうか、炎が燃え盛った後急激に勢いを無くして消えて行った。
炎が消えた後には、広大な範囲がガラス化した地面以外には何も残っていなかった。
「……やりすぎたかね」
この大きさのガラスはこの世界の文化的にもちょっと、と何故か俺はそう考え再び魔法発動。
先程までの大規模な物ではないけど、範囲は広く、ガラスの地面を小さい爆発で砕いて土と混ぜ、地面に手を付け土を動かしてガラス化していた場所にかぶせる。
これでガラス生産に関して変に狂わせる事も無いだろう、とかなんとか考えながら、体の力が抜け急速に意識が遮断されその場に倒れた。
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