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マックスさんの心構え講座

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「そうか、センテからの帰りは馬車を使わず歩いて帰って来たのか」
「はい。森に入るために馬車は使いませんでした」

 皆で遅めの昼食を取った後、俺はセンテへ行ってから帰るまでの事を話していた。
 エルサはキューをたらふく食べて満足したのか、今はモニカさんの膝の上でモフモフを撫でられている。
 俺もモフモフしたいけど、今はまずマックスさん達に報告をしなきゃな。

「しかし森の中に何も情報を持たずに入るとはなぁ」
「そうねえ、あの森は魔物が多いから危ないんだけどねえ」
「え、魔物とは一切会いませんでしたけど……」
「……あの森に1日いて魔物と会わない事がそもそも異常だな」

 そんなに異常なのだろうか?
 野盗はいたが魔物は影も形も見なかったんだが……。
 まあ、エルサと会う前に魔物と遭遇しなくて良かったけど。

「俺はこの店を始める前は冒険者をやっててな。あの森にも何度か入った事はあるが、少し奥に入っただけで魔物と出会うし、群れと遭遇する事もあったぞ」
「え、マックスさん元冒険者だったんですか?」
「ああそうだ。一応これでもBランクで結構名の知れた冒険者だんたんだ」
「モニカが産まれる前よね、辞めたのは」
「まあ、子供が産まれるってのに冒険者なんて危ない仕事をいつまでもやっていられなかったからな。すっぱり辞めてこの店を始めた」

 そうだったのか。
 こんなに近くに冒険者だった人がいたんだ。
 センテの街で冒険者について調べたけど、初めからマックスさんに聞けば良かった……。
 色んな人と話して楽しかったからいいんだけどね。

「じゃあ行きがけに貸してくれた剣は」
「あれは冒険者時代に使ってた物だな。結構良い剣だぞ」
「あの剣があったおかげで野盗に襲われても何とかなりました。ありがとうございます」
「野盗か……」
「その、ほんとなの?野盗の集団を一人で撃退したっていうのは」
「ええまあ。エルサと契約したおかげでなんとか」
「あんな野盗程度なんでもないのだわ」
「リクは戦闘等は出来るようには見えなかったんだが……。まあ今も見た目だけで言うなら見えないが。ただ、センテに行く前より少し雰囲気というか気配が変わったな」

 元冒険者のマックスさんには、はっきりとではないけど少しは何かわかるらしい。

「それで……ですね」
「うん?」
「なんだい?」
「野盗を一人、勢い余って……その……」
「ふむ……そうか、殺したか」
「……」
「……ええ、気絶させたり吹き飛ばしたりして、命は取らないようには気を付けていたんですが……」
「その吹き飛ばすっていうのがちょっと気になるが、まあ仕方ないだろう。襲って来た相手が野盗だ。模擬戦なんかじゃない、実戦だからな。やるかやられるかの場面では甘い事は言ってられないだろう」
「そうね、リクが負けてたら逆に殺されてたと思うわ」
「……まあ、そうなんですが……。頭ではわかっていてもですね、なんていうか……まだ気持ちの整理がつかなくて」

 そう言って俺はテーブルの下に隠していた手を持ち上げる。
 自分でも納得しようとしたし、あの時はエルサのおかげで落ちつけた。
 けど、あの野盗と切った時の場面と感触を思い出してしまうと、どうしても手が震えてしまう。

「……リクさん」

 モニカさんが心配そうな目をしているので、笑顔を返しておいた。
 ちょっと力ない笑いで、逆に心配させてしまったかもしれない。

「そうか……。いいか、リク。そうやって人を殺す事に躊躇してるとお前が殺されるぞ。戦いの基本はやられる前にやれ!だ。俺は冒険者だったから、色々な仕事をやって来た。魔物もそうだが人相手の仕事もあるからな。もちろん、野盗等の盗賊を相手にしたこともある。そんな時躊躇して剣が鈍ったり、戦えなかったりしたら冒険者なんてやっていけない」
「……そうですよね。それはわか……」
「だが!」

 マックスさんは俺が納得しようとする返事を遮って言葉を続ける。

「それが悪い事だとは俺は思わねえ。人を殺すことに躊躇いを無くす事は人の心を無くす事なのかもしれん。いざという時に動けなければいけないのはもちろんだが、リクは今のまま人の心を持った人間でいて欲しい。俺の願望だがな」
「……マックスさん。ありがとうございます」

 難しい事だけど、これから冒険者になるならないは関係なく、この世界で生きていくために考えていこう。
 躊躇なく人を殺して、人の心を無くしてしまったら、それでユノに楽しい世界を見せる事なんてできないだろうから。

「そういえば、ドラゴン……エルサちゃんに乗ったのよね、リク」

 マリーさんが重くなった雰囲気を変えようとしてか、別の話題で割り込む。

「ええ、森から出た後エルサに乗って帰って来ました」
「モニカに撫でられてる姿を見ると、人を乗せて飛ぶ想像が出来ないわ」
「今は小さい姿ですけど、エルサは大きさを自由に変えられるみたいで、飛ぶときはこの店よりも大きい姿になりますよ」
「リクさん、空を飛ぶってどんな感じでしたか!?」

 モニカさんは飛ぶ事に興味があるようだ。
 普通に生活してたら飛ぶ事なんて体験できないから仕方ないのかもしれない。

「最初はちょっと怖かったんだけどね、実際飛んでみるとエルサが結界を張ってくれたおかげで、風もほぼ無いし揺れる事も無く安定してて、ゆったりとした空の旅だったよ。すごい速さだったから時間は短かったけどね」
「へー。乗ってみたいなあ」
「機会があれば乗せてあげるのだわ」
「ほんと!?約束よ」

 エルサもモニカさんに懐いたか。
 キューも出て来たし、モフモフを撫でる加減も良く気持ち良さそうにしているからかもしれない。
 ……モフモフを撫でる腕前は負けないぞ!

「すごい速さってどれくらいなのかしら?」
「森を出てからヘルサルまで10分程度で着きましたね」
「……森からこの街までその程度とは、さすがはドラゴンと言ったところか」
「馬でもその時間じゃ無理よね」
「すごい早いんだね、エルサちゃん」
「あのくらいは簡単な事なのだわ。もっと早くしようとすれば出来るのだわ。けどオススメしないのだわ」
「どうしてオススメしないの?」
「人間がその速さで落ちたら死んじゃうのだわ。全力を出すと結界が張れなくなるのだわ。乗ってる人間が飛ばされる事もあるかもしれないのだわ」
「……」
「……」
「……」

 皆尋常じゃないスピードで空を飛んでいるドラゴンから振り落とされる想像をして、ちょっと顔が引きつった。
 もちろん、俺も。

「エルサ、今後人を乗せる時は安全な速度で頼む」
「わかってるのだわ。それはそうとリク」
「どうした?」
「魔法の練習はどうするのだわ?」
「魔法か……使ってみたいな」
「使うならまず広い所で試した方がいいのだわ。練習して慣れないといけないのだわ」
「リクは魔法が使えたのか?」
「いえ、エルサ曰く魔力は多いみたいですけど、今まで魔法を使ったことはないですね。ですが、どうやら契約とやらのおかげで使えるようになったので、試してみたいなと」
「魔法って契約が必要なものじゃなかったよな?リクは魔法についてどのくらい知ってる?」
「えーと、魔力を使って魔法を使うって漠然としたものしか知りません」
「ほとんど知らないも同然って事かしら。まあ、一般の人でも使えるはずだけど、実際使えたり魔法の原理を知ってるのは裕福な層か冒険者くらいのはずだしね。まず説明からしようかね」
「そうだね、母さんは魔法が使えるから教わるのにいいかもね」

 マリーさんは魔法が使えるのか。
 今まで見た事が無かったが、魔法に関して知ることが出来るいい機会だ、しっかり教わっておこう。
 こうして、俺の報告会は俺への魔法講義となった。



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