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横断歩道を渡る時は右見て左見て青信号を確認してから
しおりを挟むごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
…………………………………
…………………………………………………
……暗い場所……。
……後悔と謝罪だけが繰り返される空間……。
……動こうにも、動けず……。
……周りからは暗い影のようなものが這い出て纏わり着いてくる……。
……次第に体は影に埋もれ、腕も足も動かなくなっていく……。
……やがて首まで影のようなものに埋もれてしまう……。
助けを求めるように周りを見回すが、辺りには何もなく、何も見えない。
いや、暗い影だけがそこにあり、唯一見えるものだった。
「……うぅ……」
何とか呻き声のようなものを発する事は出来たが、ただそれだけ。
それに対する何かの反応もなければ、それで動けるようになるものでもない。
「……ぁ」
ふと、どこからか声が聞こえた。
しかしどこからかわからない。
首はもう影に埋まり動かせない。
眼だけを動かすことで周りを見、声の主を探るがそこには何もない空間が見えるだけ。
いや、見えるのではく、ただただ暗く先も見えない空間だけしかわからなかった。
「……ぁぁ……」
また、聞こえた。
助けが期待できるような声ではない。
助けを呼ぶ誰かの声でもない。
ただただ苦しみだけを訴えるような声。
もう、影は顎まで上り口元近くまで来ている。
「……あぁぁぁ」
先程より少しだけはっきりと声が聞こえる。
この声はどこからだろう、何を言おうとしているのだろう。
自分が影に飲み込まれようとしているのにも関わらず、声の主を探し、それが何なのかを確かめようとしていた。
ふと目を下にやると、自分の腰の高さくらいの所にある影が揺れていた。
揺れている影を見ていると、それは少しずつ形をはっきりとさせてくる。
最初は鼻。
次は口。
最後に目が現れ人の顔になる。
それを認識した瞬間、眩暈を覚えるほどの後悔が浮かんでくる。
そこにある人の顔が動く、いや、目はこちらを凝視し口だけを動かしている。
「……あぁぁぁぁぁ」
先程の苦しみの声だ。
「……お……え……せ……だ」
苦しみの声だけでなく、言葉を発する。
「……つ……な……お…………のつ……をつ…………え」
その言葉は途切れ途切れで、はっきりと何かを言っているかはわからない。
だが、分かってしまった。
何を言っているのか分かってしまった。
ツグナエオマエノツミヲツグナエ
あれは恨みの声だ。
犯してしまった罪への贖罪を求める声だ。
……もう、影は目元まで来ている……、
顔の半分以上を覆われてしまい、声を出すどころか呼吸もできない。
だが、不思議と苦しさはなかった。
影に埋もれ始めても、何故か苦しさはなかったのだ。
だが、声に対して何も出来ない。
何も出来ない事に対する後悔。
どうすることもできない。
ただ、声にならない声で、心の中でずっと謝る事を繰り返すだけ。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ついに影は全てを飲み込み、そこにあるのはただ暗い空間だけだった……。
…………………………………
…………………………………………………
「あ……あああああああ!」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
また、あの夢か……。
「はぁ」
ようやく息が整ったな。
「まったく、昨日シーツを洗ったばかりだってのに、汗だくじゃないか」
替えのシーツにして、これはまた洗うしかないな。
しかし。
「何度同じ夢を見たんだ?」
これが初めての夢じゃない。
昔から何度も見てきた。
まぁ、とはいえもうすでに夢の記憶は曖昧になってきてるんだが。
「嫌な夢だな」
そういう認識でしかなかった。
特に意味のある夢だとも思っていないからなぁ。
ただ……。
「汗で気持ち悪い……」
いつもあの夢を見た後はこうだ。
全身汗だく、気持ち悪いし、洗濯物も増える。
「はぁ…シャワーでも浴びて出るか」
今日も学校かぁ、面倒だ。
時間は、7時半か。
まぁ、サッと浴びれば間に合うだろう。
「ん~、これなら間に合うな」
汗だくで起きた後、学校に向かうのはかなり億劫だなぁ
。
「しゃーないか、これも学生のお仕事ってね」
なんて軽口を一人呟きながらいつもの道を歩く。
学校は家から徒歩20分程度の場所。
いつものように適当に授業を受け、適当にクラスメイト達と馬鹿話をして帰るとしますか。
「今日の晩飯は何にするかなぁ」
とか考えているうちに、校門が見えてきた。
夢のおかげで、まだ少し頭がぼんやりしているので、ぼーっとしながら横断歩道の信号待ちで止まった。
同年代の男女が挨拶や笑い話等をしながら校門へと吸い込まれて行く。
「ちょうど朝のラッシュってとこかな」
遅すぎず、早すぎず、人が一番集まる時間帯についたようだ。
だが、あまりゆっくり見ていられる時間もそろそろ無くなってきた。
「……ん?」
ふと、多くの人が集まっている校門前に違和感があった。
「あれは?」
一人だけ、ポツンと女の子がいるな。
明らかに小さいし、小学生くらいか?
「子供?」
誰かの妹が勝手に着いて来ちまったのかな?
一人でいるから、誰かが連れてきたってわけでもなさそうだけど。
迷子なら保護しなきゃいけないが……。
まぁ、このご時世、多少違和感があるからって女の子に不用意に声をかけたらこっちが危ないか。
「それに学校だし、守衛さんか教師あたりが見つけて何とかなるだろう」
そう結論付け、信号が青になり横断歩道を渡るため少し早めに歩き出す。
少しだけ、時間がギリギリになってきたからな。
横断歩道を渡り、女の子の横を通ろうとした時、何故か、後ろが気になった。
「何だ?」
時間は危ないが、気になってしまったものはしょうがないと後ろを振り向く。
「あれ?」
さっきまで近くにいた女の子が後ろに、こちらに背を向けていた。
家に帰るのかな?
そう思いながらももう少しだけ女の子の方を見ていた。
タッタッタッタ
女の子はそのまま校門とは逆方向に走って行った。
「気を付けて帰れよー」
聞こえないとは思ったが軽くそう声をかけ、校門へ振り返ろうとした。
そろそろ時間が本格的にマズイな。
しかし、振り返ろうとした体の動きが止まる。
「おい!待て!」
女の子が周りも見ず、道路へ走って行くの見て思わず声を出す。
横断歩道へと向かっているが、信号は赤。
ちょっと待て、このままじゃ……!
女の子を止めようとそちらへ走り出す。
ちょうどその時、右側から大きいトラックが突っ込んで来た。
あぁ、あのトラックじゃ運転席から見えねぇだろ!
トラックは速度を落とすことなく、女の子も何故かトラックを見ることなく走って行く。
このままじゃ轢かれる!
そう思ったと同時、いや、思いながらも体を動かす。
「くっそぉぉぉぉ!」
全身の力を振り絞り、女の子のもとへ走る。
「間っに合えぇぇぇ!」
ドンッ!
女の子を走り込んだそのままの勢いで横断歩道の向こう側へと押し出した。
だが。
自分はそのままトラックの前にいる。
トラックは速度を落とさない。
女の子はこちらを振り返り驚いた目でこちらを見ている。
「あぁ、何か、どっかで見たことのあるような光景だなぁ」
突然の出来事に、先の事への実感も何もなくそんな事を呟いていた。
ドガッッッ!キィィィィィィ!
トラックに何かがぶつかる音と、けたたましいブレーキ音が響く。
突き飛ばされた女の子は目の前の光景にただただ驚いた顔をしていた。
その両目から溢れる涙をそのままに……
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