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第71話 勇者、ドラゴンと会う
しおりを挟む「何を驚いているのだ?」
「いや、えっと……こんな小さな魔物がいるとは思わなかったから……」
小さい魔物自体はいる。
だが、地面を揺らしながら声を響かせるような魔物は、見た事も聞いた事も無い。
それにこの見た目……もしかして……。
「……ドラゴン?」
「いかにも。妾はこの草原を管理するドラゴンだ」
「……可愛い」
「こんなに小さいドラゴンがいるのか?」
「お主の目の前にいるであろう?」
俺の足元にいるドラゴンは、2本足で立ち右前足……というより右手か……を上げ、ドラゴンである事を主張している。
その姿に、チックハーゼを見た時と同じ反応をするフラン。
……確かに可愛い見た目だが、本当にドラゴンなら小さくても戦闘力はかなりの物だろう。
トカゲっぽい体と尻尾に、二足歩行、背中には体と不釣り合いな大きさの翼、口と手には鋭い牙と爪……大きささえ考えなければ、ドラゴンの見た目そのままだ。
「お主達は何をしにここへ来たのだ? 草花を荒らしに来たと言うのであれば、容赦はせぬぞ?」
「いや、俺達はアルベーリ……魔王に頼まれてな。ドラゴンの話し相手になるために来たんだが……」
「なんと、そうであったか。お主達がアルベーリの寄越した者達か」
「あぁ、そうだ。……けど、こんなに小さいとは想像してなかったな……まだ子供なのか?」
「失礼な! 妾はこれでもれっきとした成獣じゃ!」
「成獣でその大きさなのか……」
手のひらサイズの成獣ドラゴンとか、見た事も聞いた事も無い。
ドラゴンは基本、人を踏み潰すのも容易な巨体なはずだ。
こんな小さなドラゴンなんているわけが……と考えても、実際目の前にいるのだから、現実とはかくも奇妙なものだ。
「そなたらがアルベーリの寄越した者達ならば、当然妾の事は聞いているであろう? ならば、これからする事もわかっておろうな?」
「まぁ、な。腕試しをするんだろ?」
「そうじゃ。妾と見合う力の持ち主でないと、妾は話をする気にならんからな! そりゃっ!」
このドラゴンが、どれだけの力を持っているのかは知らないが……普通、ドラゴンに見合う力を持っている人なんてほぼいないと言って良い。
それなのに、こいつはそれを求めてるのか……話し相手が欲しい寂しがり屋のくせに、ふるいにかけるってどれだけ我が儘なんだよ。
……ドラゴンは元来、我が儘か。
「なんとっ!?」
話は終わりとばかりに、フランに向かって飛び掛かったドラゴンは、俺の張った盾によって弾き返された。
地面に落ちて、べちゃっとなったドラゴンを見てフランがうっとりしてるが、チックハーゼの時みたく、おかしな行動は慎んで欲しい。
小さいとは言え、このドラゴンはまだ未知数だから、そこを動いたら危険かもしれないからな。
「何という事じゃ……妾の突進を弾き返すとは……中々やるのう、そこの女!」
「はぁ……可愛い……」
「……実際は、俺が張った魔法なんだけどな」
落ちた地面から立ち上がり、背中の翼を使ってふわりと浮かび上がる妾ドラゴン。
好敵手を見つけた様な雰囲気でフランを見てるが、実際は何もしていない。
うっとりして妾ドラゴンを見ているだけだ。
しかし、さっきあれだけ威勢の良い事を言って、威嚇していたのに……俺が魔法を掛けたのを見てなかったのか?
……小さいから、草花に隠れて見えなかったのかもしれないな。
「ほぉ、お主が魔法を掛けたのか……中々男前な面構え……さてはお主、次の魔王じゃな? 道理で、アルベーリがここに寄越すわけじゃ」
「魔王なんて面倒な事しねぇよ。俺は単なる人間だしな。魔族でも無い」
魔王になんてなりたいとも思わない、面倒な事この上ないからな。
まぁ、アルベーリを見ていたら、かなり自由な職業のように見えるから不思議だ……ロラント王国の国王はそれなりに忙しそうにしていたのを、何度か見た事があるんだけどなぁ。
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