17 / 22
名医
しおりを挟む
元から何だか顔色が悪くて、元から何だか唇の色が薄くて。
その上、自分で言うのも何だが、かなり我慢強い。
もちろん、痛みは人と比べられないし、自分の痛みを他の人が感じた場合、大した痛みではない可能性もある。
でも、自分基準で言うと、我慢強かった。
中学3年。
ある日、午前中の体調不良を見抜いた、名医みたいなクラスメイトがいた。
「大丈夫?」
席は近くだけど、ほとんど話したことのないその子は心配そうに、ただこっちを見つめていた。
「どうしてそう思ったの?」
反射的につい、そんなことを聞いてしまう。
どうせ「いつも顔色が悪いから」と、答えられるんだろうなと思った。
いつも顔色が悪いせいで、いつも具合が悪いと勘違いされるどころか、本当に具合が悪い時に気付いてもらえない始末なのだ。
でも、違った。
「目を見れば分かるよ」
「目?」
「うん。目は口ほどに物を言うってことわざあるでしょ?」
「うん、あるね」
「まあ、いつも何も言わないタイプだから、目で分かっただけなんだけどね。で、大丈夫?」
私の目は、そんなに分かりやすかっただろうか。
「大丈夫?」と聞かれるのが、こんなに嬉しいと知らなかった。
弱さを見破られたことが、何だか自分がズルい人間になった気がしながらも、正直嬉しい。
「大丈夫。もうちょっと様子見る」
「そっか。何かあったら言ってよ。って、別にしてあげられることもないとは思うけど・・・」
「ううん、ありがとう」
気付いてくれただけで嬉しかったし、声を掛けてくれて嬉しかった。
体調不良を隠し通すのって結構大変で、気付いていないだけで、痛みを隠して生きている人が沢山いるような気もしてくる。
反対に、自分以外はみんな痛みを抱えていないように思える、そんな日もある。
この時は・・・
気付いてくれた人がいるという事実だけで・・・少し楽になった。
名医だった。
こんな近くに、名医がいたのだ。
元から何だか顔色が悪くて、元から何だか唇の色が薄くて。
そんな自分でも誰かの為になってみたくて、名医にまではなれなかったけれど、痛みに気付ける人になる努力をしていた。
もちろん、全てを透視するように分かることはできないし、大きな役に立てているとは思えない。
でも、些細な気付きは、いつか大きな気付きになると信じている。
名医ではなくても、白衣を着るようになってからしばらく経った。
ある日、午前中の診察に、見覚えのある人がやって来た。
すぐに誰なのか分かる。
同時に、相手も気付いたようだった。
「元気?」
先に声を掛けてくれたのは、あの日、「大丈夫?」と聞いてくれた、あの子だった。
大人になったあの子は相変わらず、先に相手に問いかけてくれる、とても素敵な人だった。
「元気です。久しぶりだね」
「白衣、似合うね」
「ありがとう、なのかな?うん、ありがとう」
「ごめんね。気まずいよね。苗字、違ったから気付かなかった」
白衣に付けられた名札を見て、あの子は申し訳なさそうにしていた。
その申し訳なさを否定したくて、
「ああ、色々とあって」
と慌てて答えた。
「そっか。まあ、色々とあるよね・・・」
あの子は頷きながらも、少し遠くを見るような目をした。
「はい・・・」
ここからどうしようと悩んでしまう。
自分にとってのあの日の名医が、ここに来た意味を考える。
あの子は、こんなに情けない、白衣を着ているだけの自分に言った。
「話を・・・聞いてもらえますか?誰かに話さないと、多分、ダメになっちゃいそうで・・・知らない人なら誰でも良かったんだけど、少しだけ知ってるあなたなら、もっと良いかもしれない」
「はい」
あの日、もしかすると、痛みを抱えていたのは自分だけじゃなかったのかもしれない。
再会してそんな風に思った。
だって、痛みを感じてこそ、誰かの痛みに敏感に気付けるから。
そして、優しく声を掛ける勇気を得られるから。
あの子は今にも泣きそうになった。
大人になったあの子に今、気付いてあげたい。
存在も、痛みも、苦しみも。
少しずつで良いから。
積み重ねていけばいいから。
「あの時・・・大丈夫?って、聞いてくれてありがとう」
それを急いで伝えてしまったのは、この日まで、その出来事にどれだけ救われたかを表しているとして、どうか許してほしい。
もう、ちゃんと、冷静さを取り戻すから。
名医になりたいと願ったのは、あの日だった。
「大丈夫?」と聞いてくれた、あの時だった。
だから、名医の名医になりたいと誓う。
どうか、優しいあの子を、優しさで救いたい。
そう誓った日が、少しでも早く過去になり、二人が会わない日が来ることを祈り続けた・・・
その上、自分で言うのも何だが、かなり我慢強い。
もちろん、痛みは人と比べられないし、自分の痛みを他の人が感じた場合、大した痛みではない可能性もある。
でも、自分基準で言うと、我慢強かった。
中学3年。
ある日、午前中の体調不良を見抜いた、名医みたいなクラスメイトがいた。
「大丈夫?」
席は近くだけど、ほとんど話したことのないその子は心配そうに、ただこっちを見つめていた。
「どうしてそう思ったの?」
反射的につい、そんなことを聞いてしまう。
どうせ「いつも顔色が悪いから」と、答えられるんだろうなと思った。
いつも顔色が悪いせいで、いつも具合が悪いと勘違いされるどころか、本当に具合が悪い時に気付いてもらえない始末なのだ。
でも、違った。
「目を見れば分かるよ」
「目?」
「うん。目は口ほどに物を言うってことわざあるでしょ?」
「うん、あるね」
「まあ、いつも何も言わないタイプだから、目で分かっただけなんだけどね。で、大丈夫?」
私の目は、そんなに分かりやすかっただろうか。
「大丈夫?」と聞かれるのが、こんなに嬉しいと知らなかった。
弱さを見破られたことが、何だか自分がズルい人間になった気がしながらも、正直嬉しい。
「大丈夫。もうちょっと様子見る」
「そっか。何かあったら言ってよ。って、別にしてあげられることもないとは思うけど・・・」
「ううん、ありがとう」
気付いてくれただけで嬉しかったし、声を掛けてくれて嬉しかった。
体調不良を隠し通すのって結構大変で、気付いていないだけで、痛みを隠して生きている人が沢山いるような気もしてくる。
反対に、自分以外はみんな痛みを抱えていないように思える、そんな日もある。
この時は・・・
気付いてくれた人がいるという事実だけで・・・少し楽になった。
名医だった。
こんな近くに、名医がいたのだ。
元から何だか顔色が悪くて、元から何だか唇の色が薄くて。
そんな自分でも誰かの為になってみたくて、名医にまではなれなかったけれど、痛みに気付ける人になる努力をしていた。
もちろん、全てを透視するように分かることはできないし、大きな役に立てているとは思えない。
でも、些細な気付きは、いつか大きな気付きになると信じている。
名医ではなくても、白衣を着るようになってからしばらく経った。
ある日、午前中の診察に、見覚えのある人がやって来た。
すぐに誰なのか分かる。
同時に、相手も気付いたようだった。
「元気?」
先に声を掛けてくれたのは、あの日、「大丈夫?」と聞いてくれた、あの子だった。
大人になったあの子は相変わらず、先に相手に問いかけてくれる、とても素敵な人だった。
「元気です。久しぶりだね」
「白衣、似合うね」
「ありがとう、なのかな?うん、ありがとう」
「ごめんね。気まずいよね。苗字、違ったから気付かなかった」
白衣に付けられた名札を見て、あの子は申し訳なさそうにしていた。
その申し訳なさを否定したくて、
「ああ、色々とあって」
と慌てて答えた。
「そっか。まあ、色々とあるよね・・・」
あの子は頷きながらも、少し遠くを見るような目をした。
「はい・・・」
ここからどうしようと悩んでしまう。
自分にとってのあの日の名医が、ここに来た意味を考える。
あの子は、こんなに情けない、白衣を着ているだけの自分に言った。
「話を・・・聞いてもらえますか?誰かに話さないと、多分、ダメになっちゃいそうで・・・知らない人なら誰でも良かったんだけど、少しだけ知ってるあなたなら、もっと良いかもしれない」
「はい」
あの日、もしかすると、痛みを抱えていたのは自分だけじゃなかったのかもしれない。
再会してそんな風に思った。
だって、痛みを感じてこそ、誰かの痛みに敏感に気付けるから。
そして、優しく声を掛ける勇気を得られるから。
あの子は今にも泣きそうになった。
大人になったあの子に今、気付いてあげたい。
存在も、痛みも、苦しみも。
少しずつで良いから。
積み重ねていけばいいから。
「あの時・・・大丈夫?って、聞いてくれてありがとう」
それを急いで伝えてしまったのは、この日まで、その出来事にどれだけ救われたかを表しているとして、どうか許してほしい。
もう、ちゃんと、冷静さを取り戻すから。
名医になりたいと願ったのは、あの日だった。
「大丈夫?」と聞いてくれた、あの時だった。
だから、名医の名医になりたいと誓う。
どうか、優しいあの子を、優しさで救いたい。
そう誓った日が、少しでも早く過去になり、二人が会わない日が来ることを祈り続けた・・・
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ヌードフォト
acolorofsugar
恋愛
「僕」は海と空以外に何もない海岸近くの小高い丘にいた。「僕」は、なぜ自分がそこにいるのかも、何者なのかもわからないまま、ただぼんやりと、目の前青い風景を。その中に溶け込みそうなくらいに見つめていたのっだった。だが、「僕」がふと思い立ち、丘の斜面を降り始めた時に聞こえてきた、謎の「声」。「僕」は、その声の予言のような「君は君に会う」と言う言葉に導かれ、砂浜を放浪するうちに、「思い出す」のであった。
それは、学生と転勤者の多く住むある地方都市の、九十年代半ばの頃のことだった。バブルが終わり、果てしなき不況の中に落ちて行く日本で、それでも落ちて行く者なりの浮遊感を楽しめた最後の時代。毎日毎日が、思い返せば特別で、濃密で、しかし飛ぶように過ぎていった日々。そんな毎日の中で、大学生ユウは、大音量のダンスミュージックに満ちたクラブSで、気のおけない友人や、気になる二人の女性、マイとサキに翻弄されながらも楽しく過ごしていたのだった。
しかし、そんな日々がしだいに終わって行く、そんなすべてを「僕」は思い出していくのだった……
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
5DAYS私はあなたを落としたい!
霜月@サブタイ改稿中
恋愛
白濱女子高等学校2年、夜山芽衣。私はこの学校の人気ナンバーワンイケメン教師、朝霞先生が好き!! イケメンこそ眼福。朝霞先生、尊し。先生にもっとお近づきになりたい!!! 私、朝霞先生と絶対に付き合う!!! 現代女子のNLラブコメディ! 芽衣は朝霞先生と付き合うことが出来るのか?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる