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新生活

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 伊之助さんと音楽活動を始めて半年が過ぎていた。
私は変わらずにスーパーでバイトを続け、伊之助さんは新聞配達と、コールセンターのバイトをしている。

「伊之助、声は良いし、聞き取りやすいって褒められたらしいよ。割と向いてるみたい。伊之助がよく深夜に観てた通販番組のところなの」

自分の事のように喜ぶ和美さんが教えてくれた。
確かに最近の伊之助さんは生き生きしている気がする。
まあ、出会った時から生き生きはしていたけれど、自信が見られるようになった気がする。
動じない男らしさが生まれたのかもしれない。

「最近どう?なんか変わった事ある?」

和美さんの左手薬指には婚約指輪がある。
そういう事だ。

「そうだ。妹の結婚式に一緒に来ませんか?和美さんの結婚式の参考にしてもいいですし」

「え?会った事ないのにいいのかな?」

「はい。許可は得てます」

「嬉しい!楽しみ!」

「実は、妹の為に歌おうと思っていて」

「伊之助も?」

「はい。承諾してくれました」

「最近、伊之助も人前に慣れてきたよね。最初のオーディションの時なんか、練習でさえ言葉はスラスラ出てこないし、おどおどしてたから」

私たちは頻繁にライブをしていた。
ライブハウスだったり、カフェだったり。
デモテープも作った。

「頼りにしてます。伊之助さんがいると、あまり緊張せずにいられるから」

「本当に二人は出会うべくして出会ったと思うよ」

「そうですか?」

「うん。二人の声が合わさった時、鳥肌がたったもん!感動した。妹さんの結婚式も楽しみだな~」

「撮影だけお願いします。始めて歌う曲だから」

「任せて!」

 
 和美さんの次は妹とカフェで待ち合わせしていた。

「お姉ちゃん!こっち!」

妹が窓際の席から手を振る。

「お待たせ。あれ?みな香、また綺麗になった?それ以上綺麗になってどうするの?」

妹は式が近づくに連れて綺麗になってゆく。
少し痩せたのもあるだろう。
結婚式をするのは大変と聞くけれど、疲れは見受けられなかった。

「お姉ちゃんさ。すっごい明るくなったよね」

「本当?前からじゃない?じゃ...ないよね...?」

「そうだね。前も暗いわけじゃないけど、そんなに明るくなかったよね。誰がお姉ちゃんを変えたわけ?ん?」

「音楽だよ。みな香にビシッと言われて、目が覚めたの」

「まあ、お姉ちゃんを変えた人に結婚式で会えるからいいけど~」

「楽しみにしてて。本当に素敵な声だから。それに、良い人だし...」

「うん。本当に楽しみにしてる」


 半年で私の生活は変わった。
単純に、努力する事を始めただけなのかもしれない。
そして、恋するという事。
前向きでいる事。
一緒に進む人がいる事。
ドラマみたいだ。
これまでは、ドラマに逃げていたけれど、今は一生懸命生きて、ドラマのように輝いている。

「お姉ちゃん、なんか手振ってる人いるけど...」

「え?」

窓の外を見ると、伊之助さんがこっちに向かって手を振っていた。
少しずつ近づいてくる。

「もしかして、お姉ちゃんを変えた...」

「そうそう。私を変えた人」

「良い笑顔だね」

「でしょ。この笑顔は反則でしょ」

伊之助さんは何やらチラシを持ってこっちに見せている。
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