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初めての事
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夜更かしをして曲を作っていた。
凡城さん。
彼の声の事ばかり考えていた。
そして可愛らしい笑顔。
今までに作った事のないような明るい曲が出来た。
ただ明るいだけの曲じゃない。
弱いからこその明るさのような、不器用な明るさを表現した。
メロディーと歌詞が出来たのがもう朝だった。
それでも私の中で最短で出来た曲だ。
彼がいなかったら生まれなかったであろう世界観。
一息付こうとコーヒーを淹れている時にふと思った。
この曲をどうしようと。
いつも私は自分で作った曲を、天才だ!と思い聴いてた。
でもそれを外に出そうとしないのは、結局自信がないからだった。
本当に凄い曲だと思ったなら、誰かに聴かせたいと思うはずだった。
「まあ、とりあえず~」
そう言ってパンを焼いて、またドラマを観ることにした。
家にいる休日。
この世で一番の幸せ。
その幸せの中にいるはずだった。
何かがいつもと違う。
もちろん幸せだけど、なんだろう?
それ以上の何かがある気がした。
あの声だ。
彼の声を求めているんだ。
彼の声を聞きたいのか?
彼と話したいのか。
彼に会いたいのか。
分からない。
このままでは何者でもない私に、何かが待っているのだろうか。
「行ってきまーす!」
隣の部屋から聞こえてきた。
今までが静かすぎたのか、違和感がある。
「夜ご飯何がいいか、連絡してね」
凡城さんの声だ。
この会話だけ聞くと、恋人みたいだなと思った。
なんか嫌だな。
廊下からハイヒールの音が聞こえる。
大きい音。
一瞬、部屋の前で止まったように感じた。
まるで私に何かを訴えているようだった。
彼女がいなくなると、なんだか凄く隣の部屋を意識してしまう。
声が聞けただけで嬉しかった。
その後はドラマを楽しめた。
いつもより感情移入していたかもしれない。
主人公の二人を、私と隣の彼に変換していた。
そのままダラダラと楽しい時間を過ごしていた。
するとインターホンが鳴った。
私はすぐに何かを期待した。
隣からの来客。
昨日のハンバーグの感想を言いたかった。
ドアを開けると、そこに居たのは母と妹だった。
「あ!」
約束した事を忘れていた。
こんな事は初めてだった。
私は約束を忘れられる側の人間だったから。
小学生の頃、来週のこの日遊ぼうね!と約束すると、次の週にはもう私との約束を覚えていないという子が何人もいた。
あれはわざとだったのか?と今思うけど、それならその後も遊んでくれないはずだから違う。
私は何かを約束すると、その事が頭の一番真ん中に来て、他の事が薄れるくらいだった。
楽しみな事も嫌な事も両方だ。
嫌な事なら、それに囚われすぎて、全てが暗いものに変わってしまうのだ。
だから約束というのが好きではない。
家から出ない休日に突然の来客、そして彼ではなかったという残念さでなんとなく不機嫌になっている。
それをバレないように、母と妹に謝罪し、とりあえず部屋に招いた。
「本当ごめんね。今お茶淹れるから座ってて」
「にな絵が約束忘れるなんて珍しいね。みな香はよくあるけどね」
「本当、お姉ちゃん珍しいね。何かあった?」
「別に何にもないよ。そんな珍しい?」
そう言いながら、途中で止めたドラマの続きが気になっている。
「あ、みな香!結婚おめでとうね」
姉として祝福を送る。
第一声で言わなかったことを後悔する。
「ありがとう。今度挨拶したいって言ってたから会ってくれる?」
「あー、うん。お母さんは会ったの?」
「会ったわよ。本当に良い人。それに顔もイケメン。年の差と、付き合いが短いのが気になってたけどそんなの関係ない。本当に良い人。お母さん、嬉しい」
姉の私への嫌みに聞こえた。
私はまだ24歳だ。
結婚なんて早すぎる。
私だけの人生を楽しむ期間だ。
「でも、別にまだ結婚しなくても良かったのに。高校卒業して就職して、まだ2年くらいでしょ?仕事は?何か年の差以外にもあったの?」
私の言い方が悪かったと思う。
妹が表情を曇らせるのが分かった。
「そんな理由がどうとかじゃなくて、ずっと一緒にいたいと思ったから。それだけ」
「そっか。いやー、お姉ちゃん経験不足で何も分からなくてさ。ごめんね」
「お姉ちゃんはずっとこのままのつもりなの?仕事とか。恋人はいる?」
「みな香。別にお姉ちゃんはお姉ちゃんなんだから良いじゃない」
お母さんが私の顔色を伺っている。
「私は、このままだよ。きっとこのまま死んでいく。うん、ダメ人間なの。ごめん。今日は一回帰って。私がダメなだけだから。ちょっと色々あって。本当ごめん。今度ちゃんとしてから会うから」
なんで私は感情的になっているのだろう。
いつもはこんなんじゃないのに。
誰も傷付けずに、迷惑をかけない事が私の中の大切な事なのに。
迷惑掛けっぱなしだ。
「お姉ちゃん。ずっと思ってたけど、お姉ちゃんの本当の言葉を一度も聞いた事ない気がする。いつも一枚壁があるような気がしてた。だから私もお姉ちゃんに本当の事を話した事ないかも。でも別に20歳で結婚する事は悪い事じゃない。ずっと一緒にいたいって事だけは本当だから」
みな香は出て行った。
「にな絵...」
「お母さん。こんなフリーターの娘、嫌だよね。夢も追いかけてるんだか追いかけてないんだか分からない状況もごめんね」
「そんな...」
「ごめん。今日は帰って。みな香をよろしく」
「みな香、マリッジブルーなのよ。私もそうだったもん。また電話するから」
静かになった部屋。
激しくなくても、こんな嫌な空気が家族の中で流れた事はなかった。
本当の言葉。
本音。
上部だけでの仲の良さだったのかもしれない。
痛い部分、暗い部分は見ないように。
綺麗な部分だけで過ごしてきたこれまで。
何も考えないように、ドラマの続きを見た。
ドラマの中に行きたい。
それだけでいいのに、叶えられない。
叶わない願いなんだよな...
凡城さん。
彼の声の事ばかり考えていた。
そして可愛らしい笑顔。
今までに作った事のないような明るい曲が出来た。
ただ明るいだけの曲じゃない。
弱いからこその明るさのような、不器用な明るさを表現した。
メロディーと歌詞が出来たのがもう朝だった。
それでも私の中で最短で出来た曲だ。
彼がいなかったら生まれなかったであろう世界観。
一息付こうとコーヒーを淹れている時にふと思った。
この曲をどうしようと。
いつも私は自分で作った曲を、天才だ!と思い聴いてた。
でもそれを外に出そうとしないのは、結局自信がないからだった。
本当に凄い曲だと思ったなら、誰かに聴かせたいと思うはずだった。
「まあ、とりあえず~」
そう言ってパンを焼いて、またドラマを観ることにした。
家にいる休日。
この世で一番の幸せ。
その幸せの中にいるはずだった。
何かがいつもと違う。
もちろん幸せだけど、なんだろう?
それ以上の何かがある気がした。
あの声だ。
彼の声を求めているんだ。
彼の声を聞きたいのか?
彼と話したいのか。
彼に会いたいのか。
分からない。
このままでは何者でもない私に、何かが待っているのだろうか。
「行ってきまーす!」
隣の部屋から聞こえてきた。
今までが静かすぎたのか、違和感がある。
「夜ご飯何がいいか、連絡してね」
凡城さんの声だ。
この会話だけ聞くと、恋人みたいだなと思った。
なんか嫌だな。
廊下からハイヒールの音が聞こえる。
大きい音。
一瞬、部屋の前で止まったように感じた。
まるで私に何かを訴えているようだった。
彼女がいなくなると、なんだか凄く隣の部屋を意識してしまう。
声が聞けただけで嬉しかった。
その後はドラマを楽しめた。
いつもより感情移入していたかもしれない。
主人公の二人を、私と隣の彼に変換していた。
そのままダラダラと楽しい時間を過ごしていた。
するとインターホンが鳴った。
私はすぐに何かを期待した。
隣からの来客。
昨日のハンバーグの感想を言いたかった。
ドアを開けると、そこに居たのは母と妹だった。
「あ!」
約束した事を忘れていた。
こんな事は初めてだった。
私は約束を忘れられる側の人間だったから。
小学生の頃、来週のこの日遊ぼうね!と約束すると、次の週にはもう私との約束を覚えていないという子が何人もいた。
あれはわざとだったのか?と今思うけど、それならその後も遊んでくれないはずだから違う。
私は何かを約束すると、その事が頭の一番真ん中に来て、他の事が薄れるくらいだった。
楽しみな事も嫌な事も両方だ。
嫌な事なら、それに囚われすぎて、全てが暗いものに変わってしまうのだ。
だから約束というのが好きではない。
家から出ない休日に突然の来客、そして彼ではなかったという残念さでなんとなく不機嫌になっている。
それをバレないように、母と妹に謝罪し、とりあえず部屋に招いた。
「本当ごめんね。今お茶淹れるから座ってて」
「にな絵が約束忘れるなんて珍しいね。みな香はよくあるけどね」
「本当、お姉ちゃん珍しいね。何かあった?」
「別に何にもないよ。そんな珍しい?」
そう言いながら、途中で止めたドラマの続きが気になっている。
「あ、みな香!結婚おめでとうね」
姉として祝福を送る。
第一声で言わなかったことを後悔する。
「ありがとう。今度挨拶したいって言ってたから会ってくれる?」
「あー、うん。お母さんは会ったの?」
「会ったわよ。本当に良い人。それに顔もイケメン。年の差と、付き合いが短いのが気になってたけどそんなの関係ない。本当に良い人。お母さん、嬉しい」
姉の私への嫌みに聞こえた。
私はまだ24歳だ。
結婚なんて早すぎる。
私だけの人生を楽しむ期間だ。
「でも、別にまだ結婚しなくても良かったのに。高校卒業して就職して、まだ2年くらいでしょ?仕事は?何か年の差以外にもあったの?」
私の言い方が悪かったと思う。
妹が表情を曇らせるのが分かった。
「そんな理由がどうとかじゃなくて、ずっと一緒にいたいと思ったから。それだけ」
「そっか。いやー、お姉ちゃん経験不足で何も分からなくてさ。ごめんね」
「お姉ちゃんはずっとこのままのつもりなの?仕事とか。恋人はいる?」
「みな香。別にお姉ちゃんはお姉ちゃんなんだから良いじゃない」
お母さんが私の顔色を伺っている。
「私は、このままだよ。きっとこのまま死んでいく。うん、ダメ人間なの。ごめん。今日は一回帰って。私がダメなだけだから。ちょっと色々あって。本当ごめん。今度ちゃんとしてから会うから」
なんで私は感情的になっているのだろう。
いつもはこんなんじゃないのに。
誰も傷付けずに、迷惑をかけない事が私の中の大切な事なのに。
迷惑掛けっぱなしだ。
「お姉ちゃん。ずっと思ってたけど、お姉ちゃんの本当の言葉を一度も聞いた事ない気がする。いつも一枚壁があるような気がしてた。だから私もお姉ちゃんに本当の事を話した事ないかも。でも別に20歳で結婚する事は悪い事じゃない。ずっと一緒にいたいって事だけは本当だから」
みな香は出て行った。
「にな絵...」
「お母さん。こんなフリーターの娘、嫌だよね。夢も追いかけてるんだか追いかけてないんだか分からない状況もごめんね」
「そんな...」
「ごめん。今日は帰って。みな香をよろしく」
「みな香、マリッジブルーなのよ。私もそうだったもん。また電話するから」
静かになった部屋。
激しくなくても、こんな嫌な空気が家族の中で流れた事はなかった。
本当の言葉。
本音。
上部だけでの仲の良さだったのかもしれない。
痛い部分、暗い部分は見ないように。
綺麗な部分だけで過ごしてきたこれまで。
何も考えないように、ドラマの続きを見た。
ドラマの中に行きたい。
それだけでいいのに、叶えられない。
叶わない願いなんだよな...
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