12 / 21
Episode12
偶然
しおりを挟む
野島さんがいない間の映画館は、上映回数が減ったものの、高校生と大学生のお陰でほぼ通常営業といった感じだった。
ボランティアからアルバイトに昇格したらしい。
高校生に野島さんの体調が悪いのか聞いてみたが、
「僕達も詳しくは聞かされてないんですけど、体調の問題ではないと言ってました」
と詳しい事は結局誰にも分からなかった。
私は日々作曲をしていた。
時々公園に行き、迷惑にならない程度に歌ったりした。
ある日、小さな女の子が目の前で真剣に私の歌を聞いてくれた。
歌い終わると拍手をし、私に言った。
「ギター触ってみたいの」
「いいよ。あまり強く弾くと指、傷つけちゃうから気を付けてね」
女の子は満面の笑みで私の隣に座り、ギターをお琴のようにして弾いた。
私がコードを押さえて女の子が弦を一本ずつ鳴らした。
「綺麗な音」
女の子はとても嬉しそうだった。
すると
「ななこ~」
とお母さんらしき人がこちらに向かってきた。
私に向かい、会釈する。
「すみません。大切なギター、弾かせてもらったみたいで」
「いいえ。とっても喜んでくれたので、私も嬉しいです」
ななこちゃんはお母さんが側まで来ると、ギターの事はもう忘れたかのように、ギュッとお母さんを抱きしめた。
私は、辛かったあの日の母を抱きしめてあげたかった。
ななこちゃんのお母さんの表情をみてそう思った。
少ししてから、ななこちゃんは再びギターの方に戻り、お琴のように演奏を始めた。
お母さんは、ななこちゃんを優しく見守りながら、私に聞いた。
「最近何度かお見かけしていました。ご自分で作られた曲ですか?」
「はい。まだまだなんですけど...」
「最近は全然いないんですけど、この辺りは結構路上ライブしていたんですよ。十年前くらいに始めた人がいて、だんだん若い子がここで演奏するよになったんです。公園の中じゃなくて、港のある方ですけど。今度、そっちで演奏されたらいかがですか?」
「知らなかったです。ありがとうございます」
親子と別れ、私は公園のベンチでゆっくりしていた。
「ライブか...」
今やっている事はライブとは言えない。
もっと外に向けなければならない。
その時、後ろから
「ワン!」
と犬の鳴き声が聞こえた。
振り返ると蛍光グリーンのフリスビーがこちらに向かってきていて、犬はそれを必死に追いかけていた。
犬はフリスビーに追いつき、見事にキャッチ。
その犬はシェットランド・シープドッグだった。
見た事のある犬だ。
「おいで!持ってきて!」
聞こえた声に私は立ち上がる。
犬の走って行く先にいたのは、野島さんだった。
突然すぎてよく分からなくなった私は、感動がじわじわと体に流れ出すのを感じる。
私に気付いた野島さんは、丁寧にお辞儀し、ラッキーを連れ、こっちに向かって歩き出した。
ボランティアからアルバイトに昇格したらしい。
高校生に野島さんの体調が悪いのか聞いてみたが、
「僕達も詳しくは聞かされてないんですけど、体調の問題ではないと言ってました」
と詳しい事は結局誰にも分からなかった。
私は日々作曲をしていた。
時々公園に行き、迷惑にならない程度に歌ったりした。
ある日、小さな女の子が目の前で真剣に私の歌を聞いてくれた。
歌い終わると拍手をし、私に言った。
「ギター触ってみたいの」
「いいよ。あまり強く弾くと指、傷つけちゃうから気を付けてね」
女の子は満面の笑みで私の隣に座り、ギターをお琴のようにして弾いた。
私がコードを押さえて女の子が弦を一本ずつ鳴らした。
「綺麗な音」
女の子はとても嬉しそうだった。
すると
「ななこ~」
とお母さんらしき人がこちらに向かってきた。
私に向かい、会釈する。
「すみません。大切なギター、弾かせてもらったみたいで」
「いいえ。とっても喜んでくれたので、私も嬉しいです」
ななこちゃんはお母さんが側まで来ると、ギターの事はもう忘れたかのように、ギュッとお母さんを抱きしめた。
私は、辛かったあの日の母を抱きしめてあげたかった。
ななこちゃんのお母さんの表情をみてそう思った。
少ししてから、ななこちゃんは再びギターの方に戻り、お琴のように演奏を始めた。
お母さんは、ななこちゃんを優しく見守りながら、私に聞いた。
「最近何度かお見かけしていました。ご自分で作られた曲ですか?」
「はい。まだまだなんですけど...」
「最近は全然いないんですけど、この辺りは結構路上ライブしていたんですよ。十年前くらいに始めた人がいて、だんだん若い子がここで演奏するよになったんです。公園の中じゃなくて、港のある方ですけど。今度、そっちで演奏されたらいかがですか?」
「知らなかったです。ありがとうございます」
親子と別れ、私は公園のベンチでゆっくりしていた。
「ライブか...」
今やっている事はライブとは言えない。
もっと外に向けなければならない。
その時、後ろから
「ワン!」
と犬の鳴き声が聞こえた。
振り返ると蛍光グリーンのフリスビーがこちらに向かってきていて、犬はそれを必死に追いかけていた。
犬はフリスビーに追いつき、見事にキャッチ。
その犬はシェットランド・シープドッグだった。
見た事のある犬だ。
「おいで!持ってきて!」
聞こえた声に私は立ち上がる。
犬の走って行く先にいたのは、野島さんだった。
突然すぎてよく分からなくなった私は、感動がじわじわと体に流れ出すのを感じる。
私に気付いた野島さんは、丁寧にお辞儀し、ラッキーを連れ、こっちに向かって歩き出した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる