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Episode2
秋
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目が覚める、軽く伸びをする。
部屋の掛け時計を見ると、午前6時だった。
この街に引っ越してきて一ヶ月が過ぎ、今日はアルバイトの初出勤の日だった。
夏が終わり少し涼しくなって、だいぶ過ごしやすい気温だ。
私は大学を卒業後、就職はせず、コーヒー屋さんで3年間アルバイトをした。
大学は音楽学科で、作曲を専攻していた。
幼い頃から日本のいわゆるjpopが好きで良く聴いていた。
物心ついた時にふとこの曲達は誰かが作ったものだと気付く。
中学生だった。
今思えば気付くのが遅い。
誰かが作ったメロディーや紡がれた言葉に生まれて初めての気持ちになった。
夢見がちな私はあっという間に曲や詞をを作る事に夢中になった。
大学にいる時は、先生に聴いてもらったりしたのだが、卒業すると聴いてもらう人がいなくなった。
あまりにも臆病な私は結局、大きな舞台を目指す事すら出来ず、曲や詞を作っては自分の世界に留めていた。
はざまにいた。
伝える事をすれば、きっと良い方向に向かえるという前向きな気持ち。
それとは別に、今までの物が全て傷つけられてしまうのではないかという下向きな気持ち。
何か出来るはずと就職はしなかった。
結局は言い訳だけれど。
引っ越して来てからの一ヶ月は街を歩いて気になるお店に入ったり、部屋で曲を作ったりした。
公園で木々の音を録音したりもした。
気になるお店というのにはもちろん働いてみたいお店という意味もあって、その中に駅の近くの花屋さんがあった。
花が特別好きという訳ではなかったのだけれど、母の影響が少しあった。
母は花が好きだった。
「依子。お花は綺麗とか可愛いだけじゃないの。凄く現実を語ってくるのよ。それにお手入れも大変」
と言っていたのは覚えている。
「それに、お花ってあまりに純粋だから守ってあげたくなっちゃう」
とも言っていた。
父が亡くなるまで、母は仕事をしていなかったので、幼い私とずっと一緒にいた。
花の朝昼晩それぞれの姿を必ず眺めていた。
私もそれが当たり前だと思って、花と花を眺める母を見つめていた。
母は少しの言葉と柔らかい表情で、私に穏やかな気持ちを与えてくれる人だった。
またその気持ちを思い出したいと、花屋の面接を受け、無事に採用された。
薄手のカーディガンを羽織って丁度良い季節。
7時に家を出た。
お店に着くと店長さんともう一人の従業員の園田さんが丁寧に仕事を教えてくれた。
仕事内容が想像より大変で驚いた。
それでも親切に教えてくれる二人の役に早く立ちたいと一生懸命働いた。
仕事を始めて最初の休日。
目が覚めると、もうお昼過ぎだった。
いつもは後悔するところだけど、今日は幸せだなと感じた。
とりあえずありもので昼食を済ませ、ぼーっとテレビ見る。
それから、なんとなく外の空気が吸いたくなり散歩する事にした。
平日の夕方で、子供達の声となんとなくざわざわした空気があった。
港付近をゆっくり歩くと、カップルやママ友、そして子供がいた。
ベンチを探して辺りを見渡すと、前に行った公園から港に向かう広い階段を見つけた。
するとそこに白色のTシャツにジーンズという格好をしたあの日の男の人がいた。
男の人は右隣にコーヒーらしきものを置き、左隣にカメラを置いていた。
詳しい事は分からないけれど、高そうなしっかりとしたカメラのようだった。
私がその斜め上辺りのベンチで休憩している間、ただただ遠くを眺めていた。
眺めているというより、遠くに見える街のさらに奥を見ようとしているような。
不思議な表情だった。
きっとこの時から、私はその男の人の視線の先に見えているものが気になりだしたのだと思う。
もしかしたら、初めて会ったあの日から。
だから何かしらの力が働いて、あんな真夜中に知らない人を心配するだけでなく、声を掛ける事が出来たのかもしれない。
一目惚れと言うのかもしれない。
でも少し違う。
彼の空気感に魅力を感じていた。
部屋の掛け時計を見ると、午前6時だった。
この街に引っ越してきて一ヶ月が過ぎ、今日はアルバイトの初出勤の日だった。
夏が終わり少し涼しくなって、だいぶ過ごしやすい気温だ。
私は大学を卒業後、就職はせず、コーヒー屋さんで3年間アルバイトをした。
大学は音楽学科で、作曲を専攻していた。
幼い頃から日本のいわゆるjpopが好きで良く聴いていた。
物心ついた時にふとこの曲達は誰かが作ったものだと気付く。
中学生だった。
今思えば気付くのが遅い。
誰かが作ったメロディーや紡がれた言葉に生まれて初めての気持ちになった。
夢見がちな私はあっという間に曲や詞をを作る事に夢中になった。
大学にいる時は、先生に聴いてもらったりしたのだが、卒業すると聴いてもらう人がいなくなった。
あまりにも臆病な私は結局、大きな舞台を目指す事すら出来ず、曲や詞を作っては自分の世界に留めていた。
はざまにいた。
伝える事をすれば、きっと良い方向に向かえるという前向きな気持ち。
それとは別に、今までの物が全て傷つけられてしまうのではないかという下向きな気持ち。
何か出来るはずと就職はしなかった。
結局は言い訳だけれど。
引っ越して来てからの一ヶ月は街を歩いて気になるお店に入ったり、部屋で曲を作ったりした。
公園で木々の音を録音したりもした。
気になるお店というのにはもちろん働いてみたいお店という意味もあって、その中に駅の近くの花屋さんがあった。
花が特別好きという訳ではなかったのだけれど、母の影響が少しあった。
母は花が好きだった。
「依子。お花は綺麗とか可愛いだけじゃないの。凄く現実を語ってくるのよ。それにお手入れも大変」
と言っていたのは覚えている。
「それに、お花ってあまりに純粋だから守ってあげたくなっちゃう」
とも言っていた。
父が亡くなるまで、母は仕事をしていなかったので、幼い私とずっと一緒にいた。
花の朝昼晩それぞれの姿を必ず眺めていた。
私もそれが当たり前だと思って、花と花を眺める母を見つめていた。
母は少しの言葉と柔らかい表情で、私に穏やかな気持ちを与えてくれる人だった。
またその気持ちを思い出したいと、花屋の面接を受け、無事に採用された。
薄手のカーディガンを羽織って丁度良い季節。
7時に家を出た。
お店に着くと店長さんともう一人の従業員の園田さんが丁寧に仕事を教えてくれた。
仕事内容が想像より大変で驚いた。
それでも親切に教えてくれる二人の役に早く立ちたいと一生懸命働いた。
仕事を始めて最初の休日。
目が覚めると、もうお昼過ぎだった。
いつもは後悔するところだけど、今日は幸せだなと感じた。
とりあえずありもので昼食を済ませ、ぼーっとテレビ見る。
それから、なんとなく外の空気が吸いたくなり散歩する事にした。
平日の夕方で、子供達の声となんとなくざわざわした空気があった。
港付近をゆっくり歩くと、カップルやママ友、そして子供がいた。
ベンチを探して辺りを見渡すと、前に行った公園から港に向かう広い階段を見つけた。
するとそこに白色のTシャツにジーンズという格好をしたあの日の男の人がいた。
男の人は右隣にコーヒーらしきものを置き、左隣にカメラを置いていた。
詳しい事は分からないけれど、高そうなしっかりとしたカメラのようだった。
私がその斜め上辺りのベンチで休憩している間、ただただ遠くを眺めていた。
眺めているというより、遠くに見える街のさらに奥を見ようとしているような。
不思議な表情だった。
きっとこの時から、私はその男の人の視線の先に見えているものが気になりだしたのだと思う。
もしかしたら、初めて会ったあの日から。
だから何かしらの力が働いて、あんな真夜中に知らない人を心配するだけでなく、声を掛ける事が出来たのかもしれない。
一目惚れと言うのかもしれない。
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