私たちは、夢を叶えないまま死んだらしい

あおなゆみ

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理由を求めずに

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 どうして自分が案内人という役割を果たすようになったのか。
その理由は分からない。
でも、いつの日からか、自分が案内人であると、誇りを持って名乗れるようになった・・・


「あなたの努力は認められました。さあ、あなたは、誰の見る世界が見たいですか」

そう言って始まる仕事は、努力が認められた人の数だけ存在する。
死者数に比べると、その人数は物凄く少なくて、生きてる間にできる努力を怠る場合がほとんどだ。
でも、本人が努力だと気づいていなくても、努力として続けられていることは意外と多く、些細なことから、重大なことまで種類は様々だ。

 最後のチャンスを与えられた人には、自分が死んだ理由は知らされない。
そもそも、死んだ理由を知りたいという感情さえ失われているのだ。
 ただ、この前は違った。
一人の少女が、自分の死因を知りたがったし、自殺だったのではないかと疑った。
初めてのパターンで驚いてしまったものの、彼女は私の反応を見ると、それ以上何も聞かず、でも最後に、自分が自殺ではなかったということに気づいたのだった。
 少女は、生きている間に、一人の青年に希望を与えていた。
反対に青年も、選んだ場所が常識的には正しいとは言えないが、勇気を出して人前で踊る努力をしたことで、少女に希望を与えていた。
そういう出来事が、生きていれば起きるのだ。
少女にとって、青年にとって、お互いの存在は、まるで奇跡のようなものだったはずだ。

 案内人を続けていると、そういった人生においての素晴らしい瞬間を見届けることができる。
それぞれの、憧れの人、会いたい人、大切な人。
そして、自分以外の誰の世界も見ないという選択。
いくつもの物語が、いくつもの景色が、人々の人生を彩り、時を繋いでいく。

 そして、気づかされる。
いつだってそこにあったのは勇気だということに。
夢を叶えようとする勇気、外に出て人前に立つ勇気、感動を言葉にする勇気。
誰かを許す勇気、告白する勇気、愛を貫く勇気、愛の物語を残す勇気。
その結果として、美しい涙がある。
この案内人としての役割を始めてから、涙の美しさを知った。
涙は美しくて、涙を流せることも美しくて・・・
彼ら、彼女らが流す涙に、心を揺さぶられた。

 心・・・
人のことばかりで、自分のことを真剣に考えなくなってからしばらく経つ。
これまで、勇気を持って何かをした試しがあっただろうか。
勇気を持って、誰かに想いを伝えたことがあっただろうか。
曖昧だから、今こうやって、沢山の人の最後のチャンスを見届けることになったのだろうか。

 いつまでこうして、この役割を果たしていけるのかは分からない。
もしも、自分の努力が認められて、最後のチャンスが与えられるのなら。
一体、誰の見る世界を見たいだろうか。
他者に問いかけるばかりで、自分はその問いに答える勇気があるのかも分からないままだ。


「案内人さん」

数え切れないほどの光が集まった、コンサート会場。
本当の最後のアンコール曲の前。
彼女は泣きながらも、笑顔でこう言った。

「もし、これが夢だとしても、こんなに幸せな夢なら、案内人さんは本当に凄い人だと思います」

案内人を始めてから、そんなことを言われたのは初めてだった。
そして、憧れの人の見る世界を見ている彼女は、とても儚かった。

「言いましたよね?あなたの努力がこの経験を可能にしていると。だから、もしこれが夢だとしても、案内人という存在を創り出したのさえ、あなたの努力ですよ」

「私、案内人さんみたいな優しい人がこの世にもっと増えてほしいです。もちろん、彼みたいな優しい音楽を届ける人も、彼みたいに優しい涙を流す人ももっと増えてほしいです」

「そうですね」

そんな言葉を聞いたからと、彼女を特別扱いしたりはしない。
でも、彼女のような人には、もっと長く生きてほしかった。
そう思ってしまったのは、紛れもない事実だ。


 どうして自分が案内人という役割を果たすようになったのか。
その理由は分からない。
でも、今は。
理由を求めずに、努力が認められた人たちの最後のチャンスを見届けよう。
そう、誓った。
そして、私はまた問いかける。

「さあ、あなたは、誰の見る世界が見たいですか?」
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