深い青を愛してる

あおなゆみ

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誰かの今を確認できないこと

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 彼の引退は話題になった。
色んな説があり、そのどれもが勝手な推測や、面白おかしく書かれた記事だった。
もちろん彼を本当に知らない私には、それを真実として受け取る事もできた。 
でも…
 私にはそのどれもを信じない力が備わっている。
むしろ、彼が作った曲を聴いた事により心に出来た、自分で判断する力とでも言うのだろうか。
そんな力が備わっている。
 
 私はただ、深い青が思い浮かぶ夜があれば。
その夜に彼の声を聴けるのであれば。
そして、彼が曲を書き続けるという未来があれば。
その三つの要素があれば良いと思っていた。
 彼が引退し、未来に関する一つの要素を失った事で、私は余計に彼の曲を求めた。
曲を聴けば涙が溢れ、曲を止めても、残響に涙を流した。


 願えば叶うなんて言葉は好きじゃない。
そんな台詞を聞けば、冷めていく心があった。
昼に探す四つ葉のクローバーも、夜に探す流れ星も求めていなかった。
多分。
本当は分からない。
今以上の何かを望んでいないフリして、望んでいる自分は存在したのかもしれない。
今を現実だと認めたくない自分をうまく隠してきただけかもしれない。


 そんな私の人生に、何かを通した存在としてではなく、実際に触れられる距離という意味で、彼が現れた。
私の愛する青い夜、私の一日、私の感情や心。
私の全てに関わってくる彼の音楽、彼の声、彼の言葉、そして彼という存在。

 すぐ近くにいる彼を見た時、私は動揺を隠せなかった。
高校3年の夏。
彼が引退してから半年ほど経った頃だ。
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