本当の涙を愛しています

 17歳でデビューし、10年目になった女優の青川優子は、鏡の前で一人で涙を流すことによって、女優としてまだ生きていられると安心感を得ていた。

 ある日、映画の撮影。
30秒にも満たないキスシーンで、涙を流した無名俳優に出会い、優子は心奪われる。
そのシーンはそもそも、誰も涙を求めていないシーンだった。
カットがかかり、涙を拭いてすぐに立ち去ってしまったその俳優を追いかけると、彼はまた泣いていた。
優子まで泣きそうになる。

「これは愛とかじゃなくて、大切な人を慰める時みたいなハグです」

優子は自然にそう言い、思わず彼を抱きしめてしまう。
驚きながらも、その抱擁を受け入れた彼は

「青川さんに伝えたいことがあった気がします。今度、思い出したら伝えに来ます」

と言い、再び立ち去った。
無名俳優との再会を望み続ける優子。
 
 そんな優子は死んだ恋人の文孝が幽霊となって現れ続けることにも悩んでいて、文孝は家には現れず、外にだけ現れる。

 俳優を目指していた文孝は、出会ったばかりの頃

「どうか、待っていてほしい。有名な俳優になってみせます」

と誓ったものの、夢との距離は近づかず、自暴自棄になっていった。
そんな文孝を優子はもう、愛していなかった。

 結局、台詞だと思えば、簡単に言えたであろう

「別れよう」

を言わなかったせいで、恋人を亡くすという経験をすることになってしまう。
 未練があるのか、文孝は幽霊になり、姿を現し続けるのだった。


 しかし、家に現れないことが唯一の救いだった文孝が、ついに家にまで現れ、そこで本音で打ち明けた優子は、ようやく文孝と別れて新たな恋をできると思ったのだが・・・

 
 もう愛していなかった死んだ恋人の幽霊に、忘れられない涙を流した無名の俳優、相変わらず鏡の前で一人泣く優子。
涙の真実を知った時、本当の涙を流すことになる。


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