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時間を掛けるのは勿体ない
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「お待たせしました」
「ありがとうございます」
「果物のアレルギーないですか?キウイジュースなんですけど」
「果物はなんでも好きです。わあ、美味しそう。ありがとうございます」
「いいえ。冷たいうちにどうぞ」
僕は何か一方的ではないものを感じていたのかもしれない。
でも初めてだったから、それが一方的かもしれない可能性も捨てきれなかった。
「美味しいですね。お店どこですか?」
「あっ、えーと、この右側を2本に行った道の、あのー、あ!アウトドアショップの裏の方にあるんです」
説明が下手なので、たどたどしく、大人の余裕がない。
「そこまで行ってくれたんですか?」
「思ってるより近いですよ!すぐです」
「宗四郎さん、本当に」
「はい」
「一目惚れでした」
「え?」
「私達だけの言葉で言うなら、宗四郎さんはひと目見てロマンスでした。私にとってのロマンスになる人じゃないかって思ってしまいました」
僕はどんな顔をすべきか、何を言えばいいのか分からなかった。
普通の状況でも、何を話すかままならないのに、こんな素敵で驚きが隠せない状況ではもっと困る。
「私も驚いているんですよ。ついに『ダーティー・ロマンティック・ナイト』を借りる人に会えたと思ったら、一瞬で、恋を、して、しまって」
こんな事もあるんだなと思った。
やっぱりあるんだなと。
僕らは同時に恋に落ちていたという事だろうか。
それも映画じゃなく、現実で。
僕はこういう瞬間を信じて、夢見て生きてきた。
誰にも言わず、心の中で大切に信じて。
26歳の男が信じていたのだ。
やっぱりあった。
信じ続けて良かった。
「僕は、その。ええと。天使かと思いました」
「天使?」
「夏絵さんが天使かと思いました」
「え?天使ですか?宗四郎さん、変わってますね」
「いや、本当にそんな感覚だったんです」
「それは褒められてると思って良いんですか?」
「もちろん。一目惚れでした」
「なんか、照れますね。映画の中の死神のセリフと一緒ですよね」
「僕達、影響されてるんですかね」
「そうかもしれないです」
僕らは3秒ほど見つめ合った。
意図的にではなく、自然に。
先に目を逸らしたのは僕だった。
情けない。
でも、恥ずかし過ぎるから仕方がない。
「帰りますか?」
「え?あ、はい」
天使から別れが告げられる。
「良いムードなのは分かってるんですけど、今日は私の心臓がもたないです」
「そうですね。僕もです。一度、落ち着きたいです」
「じゃあ、また。失礼します」
「お、送らなくて大丈夫ですか?」
「はい。まだ明るいので。それに、心臓が」
「そうでしたね。じゃあ、また。気をつけて」
彼女の後ろ姿を見送る。
曲がり角のところで振り返った。
にっこりと可愛い笑顔。
僕はまたしても、反射的に手を振り返したせいで、クールさがゼロだ。
きっと喜びが溢れてしまっているだろう。
家に帰り、鏡を見た。
少し落ち着くと、なぜ僕に一目惚れしたのかという疑問が浮かぶ。
一目惚れは顔が全てではない。
もし、夏絵さんの醸し出す空気感や性格が違うものなら好きになっていない。
だから顔が良いから一目惚れというのは僕の中では間違いだ。
彼女にメールした。
『明日の夜ごはん、一緒に食べませんか?』
すぐに返事が来る。
『食べましょう。中華料理はどうですか?よく行くお店があるんですけど』
彼女のよく行くお店に行けるとは。
『普段あまり食べないので、食べたいです。また18時でも良いですか?』
『はい。じゃあ、お店の住所送りますね。おやすみなさい』
僕は迷わずに
『おやすみなさい』
と送った。
成長した。
彼女の”おやすみなさい”への僕の”おやすみなさい”。
これはロマンスだ。
届いたメールを見返して、ニヤケて、ベッドに倒れ込み、足をバタバタさせるというドラマ王道パターンの行動をしてしまう。
楽しくて仕方がない。
明日聞けそうだったら聞こう。
なぜ僕に一目惚れしたのか。
そして、恋人になる為に、言葉にしなければならない。
人生初の告白だ。
朝起きて、鏡を見る。
この顔は良く言って、中の中。
評価の理由は、両親からの評価と、学生時代に一人の女の子が僕に告白してくれたという経験に基づく。
唯一僕が付き合った子だ。
それ以外に褒められたりした事がないから、中の中。
目を擦り、一重にしてみたけれど、それはそれでイマイチだった。
仕事を終わらせ、夏絵さんと待ち合わせの中華料理屋さんへ向かう。
店に入ると奥の席にすぐに見つける事が出来た。
天使が僕を待っている。
近付く僕を見ている夏絵さんに
「お待たせしました!」
と言った自分の声が、あまりにも弾んでいたので恥ずかしくなった。
「お疲れ様です。座ってください」
「はい」
「メニューどうぞ。全部美味しいですよ」
夏絵さんはいつもより、くつろいでいるように見えた。
その理由はこの店で、中国人の店員のおばさんと親しそうに話していた。
「常連さんなんですね?」
「一人でもよく来ますし、友達と飲む時も来ます」
「そういうお店があるの、凄くいいですね」
にっこり。
今日の夏絵さんのにっこりはいつもより砕けていて、親しみやすさを感じた。
「おまたせ~」
料理が運ばれる。
色合いも明るく、どれも美味しそうだ。
「いただきます」
「いただきます」
麻婆豆腐、エビマヨ、春巻き、チャーハン。
それに今日は初めて夏絵さんとお酒を飲む。
「どうですか?」
思ったよりお酒のペースが速い夏絵さんは、表情一つ変えずに聞く。
「凄く美味しいです。麻婆豆腐は辛いですね。口が痛いです」
「宗四郎さん、口が腫れてます」
「本当ですか?口か熱いんですよ」
夏絵さんが僕の唇をじっと見ている。
それに僕はなんだか酔っている気がする。
「僕に一目惚れするなんて、変わってますよ」
ついに気になっていた事を口にした。
彼女は目を丸くして不思議そうな顔をする。
「なんでですか?」
「この顔のどこが?」
少しだけ悲観的な感情になるのはお酒のせいなのか。
僕は嫌な男だ。
一目惚れしたと言ってくれたのだから、それでいいのに。
「優しい雰囲気が伝わってきたんです。それに目が綺麗です。鼻も可愛い。耳も少し大きめで良いです。眉毛もスッとしてるし」
「本当ですか?」
「はい。本当です」
口だけじゃなく、顔も熱くなる。
「唇は、今くらい厚くてもセクシーですよ。普段の唇は、女の人より魅力的だからズルいです」
「じゃあ毎日、麻婆豆腐食べます」
「冗談ですよ。まだ痛いですか?」
「痛いです」
「フフッ。赤くて、厚くて、セクシーですよ」
「やっぱり毎日辛いの食べます」
「面白いですね。宗四郎さん」
「面白いって言われるの、嬉しいですね」
「面白いです」
なんて、恋人みたいな会話だろうと思った。
映画の中の恋人。
こういう事もあるんだな。
まだ会った回数は、4回。
僕はお酒のせいもあるけれど、自然な振る舞いをしている。
緊張しながらも、思った事をそのまま話せるほど、彼女を信頼している。
これはやはりまさに、ロマンスなのか。
時間を掛けるのが勿体ないと思っていた。
いつも勇気がなくて、憧れた物事に対して丁寧に時間を掛けるフリして、そのまま何もなかったかのように逃げていた。
「夏絵ちゃん、これサービスするよ。恋人記念にね」
中国人のおばさんの店員さんが餃子をサービスしてくれた。
「恋人でしょ?」
僕に聞いてきたので
「はい!」
と答えた。
「若いのいいねー。戻りたいねー。楽しんでー」
ニヤニヤしながら、厨房の方に戻っていくおばさんに感謝した。
「恋人って事で大丈夫でした?」
一瞬でお酒が抜けた僕は夏絵さんに確認を取る。
こういう告白をする予定ではなかったけれど、これでもかなり勇気を出して「はい!」と言ったのだ。
「大丈夫です。宗四郎さんこそ、大丈夫ですか?」
「はい。もちろんです。僕は夏絵さんと目線がビビッとあってしまったのが始めりでした」
昨日から考えてた告白の言葉を我慢できずに伝えた。
「!!!」
声にならない、驚きの表情で僕を見る夏絵さんは3秒後に笑顔になった。
「宗四郎さんって、結構肉食系ですか?」
「違います違います。なんというか、言わないと後悔しそうというか。寝る前に『言えば良かったな~』って思いそうで。僕は『言わなければ良かった~』って思った事もほとんどなくて。言葉を心で留めちゃって…臆病過ぎて嫌になるんです。言いたい事も言えない。映画の中みたいに素敵な事を言ってみたいし、本心をぶつけてみたいし、告白だってしたいんですよ。映画みたいな出会いだったから勘違いしてるんですかね?」
夏絵さんは真剣な表情になり、僕の頬にそっと触れる。
「その目はズルいですよ。綺麗過ぎます。私だけのものにしたくなる」
「夏絵さんこそ、肉食系ですか?あ、サラリーマンの人、今こっち見ましたよ」
冷静を装いながら、僕の心臓はどうにかしそうだった。
「宗四郎さん。映画の中なら、そんな事気にしないですよ。あーあ。独り占めしたいけど、それも勿体無いな」
夏絵さんは僕の頬から手を離しそうになった。
「独り占めして下さいよ!」
僕の一言でその手はまた頬に戻ってきた。
「今の、素敵な言葉ですね。映画みたいですよ。言えましたね、素敵な事。それと、手が疲れるので、離しますね」
彼女が触れていた頬に彼女の手の感触が残る。
やはり酔っているのだろうか。
まだ触れられているみたいだ。
「”周りから見れば恥ずかしくても、当事者にとってはロマンス”。この言葉どう思います?」
夏絵さんはこれまでにないほど真剣な表情だった。
僕の答えを待ちに待っている。
「良いですね。その通りですね。今初めて体感しましたけど、これは世界中の全ての人に体感して欲しいです。周りが見えなくなるほどの、恋…みたいな」
「良いですよね?当事者にとってはロマンス。今、思い付きました」
「おお!映画のテーマみたいですね」
「そうです、映画のテーマにします」
「するんですか?」
「はい。だから、独り占めしない事にします」
「どういう意味ですか?」
「独り占めする瞬間もあるけれど、他の人にも体感してもらわないと」
「ん?なんの話です?」
「宗四郎さん、映画の中に行きたいですか?」
「それは、よく思います」
「じゃあ、行きましょう」
「はい?」
「ありがとうございます」
「果物のアレルギーないですか?キウイジュースなんですけど」
「果物はなんでも好きです。わあ、美味しそう。ありがとうございます」
「いいえ。冷たいうちにどうぞ」
僕は何か一方的ではないものを感じていたのかもしれない。
でも初めてだったから、それが一方的かもしれない可能性も捨てきれなかった。
「美味しいですね。お店どこですか?」
「あっ、えーと、この右側を2本に行った道の、あのー、あ!アウトドアショップの裏の方にあるんです」
説明が下手なので、たどたどしく、大人の余裕がない。
「そこまで行ってくれたんですか?」
「思ってるより近いですよ!すぐです」
「宗四郎さん、本当に」
「はい」
「一目惚れでした」
「え?」
「私達だけの言葉で言うなら、宗四郎さんはひと目見てロマンスでした。私にとってのロマンスになる人じゃないかって思ってしまいました」
僕はどんな顔をすべきか、何を言えばいいのか分からなかった。
普通の状況でも、何を話すかままならないのに、こんな素敵で驚きが隠せない状況ではもっと困る。
「私も驚いているんですよ。ついに『ダーティー・ロマンティック・ナイト』を借りる人に会えたと思ったら、一瞬で、恋を、して、しまって」
こんな事もあるんだなと思った。
やっぱりあるんだなと。
僕らは同時に恋に落ちていたという事だろうか。
それも映画じゃなく、現実で。
僕はこういう瞬間を信じて、夢見て生きてきた。
誰にも言わず、心の中で大切に信じて。
26歳の男が信じていたのだ。
やっぱりあった。
信じ続けて良かった。
「僕は、その。ええと。天使かと思いました」
「天使?」
「夏絵さんが天使かと思いました」
「え?天使ですか?宗四郎さん、変わってますね」
「いや、本当にそんな感覚だったんです」
「それは褒められてると思って良いんですか?」
「もちろん。一目惚れでした」
「なんか、照れますね。映画の中の死神のセリフと一緒ですよね」
「僕達、影響されてるんですかね」
「そうかもしれないです」
僕らは3秒ほど見つめ合った。
意図的にではなく、自然に。
先に目を逸らしたのは僕だった。
情けない。
でも、恥ずかし過ぎるから仕方がない。
「帰りますか?」
「え?あ、はい」
天使から別れが告げられる。
「良いムードなのは分かってるんですけど、今日は私の心臓がもたないです」
「そうですね。僕もです。一度、落ち着きたいです」
「じゃあ、また。失礼します」
「お、送らなくて大丈夫ですか?」
「はい。まだ明るいので。それに、心臓が」
「そうでしたね。じゃあ、また。気をつけて」
彼女の後ろ姿を見送る。
曲がり角のところで振り返った。
にっこりと可愛い笑顔。
僕はまたしても、反射的に手を振り返したせいで、クールさがゼロだ。
きっと喜びが溢れてしまっているだろう。
家に帰り、鏡を見た。
少し落ち着くと、なぜ僕に一目惚れしたのかという疑問が浮かぶ。
一目惚れは顔が全てではない。
もし、夏絵さんの醸し出す空気感や性格が違うものなら好きになっていない。
だから顔が良いから一目惚れというのは僕の中では間違いだ。
彼女にメールした。
『明日の夜ごはん、一緒に食べませんか?』
すぐに返事が来る。
『食べましょう。中華料理はどうですか?よく行くお店があるんですけど』
彼女のよく行くお店に行けるとは。
『普段あまり食べないので、食べたいです。また18時でも良いですか?』
『はい。じゃあ、お店の住所送りますね。おやすみなさい』
僕は迷わずに
『おやすみなさい』
と送った。
成長した。
彼女の”おやすみなさい”への僕の”おやすみなさい”。
これはロマンスだ。
届いたメールを見返して、ニヤケて、ベッドに倒れ込み、足をバタバタさせるというドラマ王道パターンの行動をしてしまう。
楽しくて仕方がない。
明日聞けそうだったら聞こう。
なぜ僕に一目惚れしたのか。
そして、恋人になる為に、言葉にしなければならない。
人生初の告白だ。
朝起きて、鏡を見る。
この顔は良く言って、中の中。
評価の理由は、両親からの評価と、学生時代に一人の女の子が僕に告白してくれたという経験に基づく。
唯一僕が付き合った子だ。
それ以外に褒められたりした事がないから、中の中。
目を擦り、一重にしてみたけれど、それはそれでイマイチだった。
仕事を終わらせ、夏絵さんと待ち合わせの中華料理屋さんへ向かう。
店に入ると奥の席にすぐに見つける事が出来た。
天使が僕を待っている。
近付く僕を見ている夏絵さんに
「お待たせしました!」
と言った自分の声が、あまりにも弾んでいたので恥ずかしくなった。
「お疲れ様です。座ってください」
「はい」
「メニューどうぞ。全部美味しいですよ」
夏絵さんはいつもより、くつろいでいるように見えた。
その理由はこの店で、中国人の店員のおばさんと親しそうに話していた。
「常連さんなんですね?」
「一人でもよく来ますし、友達と飲む時も来ます」
「そういうお店があるの、凄くいいですね」
にっこり。
今日の夏絵さんのにっこりはいつもより砕けていて、親しみやすさを感じた。
「おまたせ~」
料理が運ばれる。
色合いも明るく、どれも美味しそうだ。
「いただきます」
「いただきます」
麻婆豆腐、エビマヨ、春巻き、チャーハン。
それに今日は初めて夏絵さんとお酒を飲む。
「どうですか?」
思ったよりお酒のペースが速い夏絵さんは、表情一つ変えずに聞く。
「凄く美味しいです。麻婆豆腐は辛いですね。口が痛いです」
「宗四郎さん、口が腫れてます」
「本当ですか?口か熱いんですよ」
夏絵さんが僕の唇をじっと見ている。
それに僕はなんだか酔っている気がする。
「僕に一目惚れするなんて、変わってますよ」
ついに気になっていた事を口にした。
彼女は目を丸くして不思議そうな顔をする。
「なんでですか?」
「この顔のどこが?」
少しだけ悲観的な感情になるのはお酒のせいなのか。
僕は嫌な男だ。
一目惚れしたと言ってくれたのだから、それでいいのに。
「優しい雰囲気が伝わってきたんです。それに目が綺麗です。鼻も可愛い。耳も少し大きめで良いです。眉毛もスッとしてるし」
「本当ですか?」
「はい。本当です」
口だけじゃなく、顔も熱くなる。
「唇は、今くらい厚くてもセクシーですよ。普段の唇は、女の人より魅力的だからズルいです」
「じゃあ毎日、麻婆豆腐食べます」
「冗談ですよ。まだ痛いですか?」
「痛いです」
「フフッ。赤くて、厚くて、セクシーですよ」
「やっぱり毎日辛いの食べます」
「面白いですね。宗四郎さん」
「面白いって言われるの、嬉しいですね」
「面白いです」
なんて、恋人みたいな会話だろうと思った。
映画の中の恋人。
こういう事もあるんだな。
まだ会った回数は、4回。
僕はお酒のせいもあるけれど、自然な振る舞いをしている。
緊張しながらも、思った事をそのまま話せるほど、彼女を信頼している。
これはやはりまさに、ロマンスなのか。
時間を掛けるのが勿体ないと思っていた。
いつも勇気がなくて、憧れた物事に対して丁寧に時間を掛けるフリして、そのまま何もなかったかのように逃げていた。
「夏絵ちゃん、これサービスするよ。恋人記念にね」
中国人のおばさんの店員さんが餃子をサービスしてくれた。
「恋人でしょ?」
僕に聞いてきたので
「はい!」
と答えた。
「若いのいいねー。戻りたいねー。楽しんでー」
ニヤニヤしながら、厨房の方に戻っていくおばさんに感謝した。
「恋人って事で大丈夫でした?」
一瞬でお酒が抜けた僕は夏絵さんに確認を取る。
こういう告白をする予定ではなかったけれど、これでもかなり勇気を出して「はい!」と言ったのだ。
「大丈夫です。宗四郎さんこそ、大丈夫ですか?」
「はい。もちろんです。僕は夏絵さんと目線がビビッとあってしまったのが始めりでした」
昨日から考えてた告白の言葉を我慢できずに伝えた。
「!!!」
声にならない、驚きの表情で僕を見る夏絵さんは3秒後に笑顔になった。
「宗四郎さんって、結構肉食系ですか?」
「違います違います。なんというか、言わないと後悔しそうというか。寝る前に『言えば良かったな~』って思いそうで。僕は『言わなければ良かった~』って思った事もほとんどなくて。言葉を心で留めちゃって…臆病過ぎて嫌になるんです。言いたい事も言えない。映画の中みたいに素敵な事を言ってみたいし、本心をぶつけてみたいし、告白だってしたいんですよ。映画みたいな出会いだったから勘違いしてるんですかね?」
夏絵さんは真剣な表情になり、僕の頬にそっと触れる。
「その目はズルいですよ。綺麗過ぎます。私だけのものにしたくなる」
「夏絵さんこそ、肉食系ですか?あ、サラリーマンの人、今こっち見ましたよ」
冷静を装いながら、僕の心臓はどうにかしそうだった。
「宗四郎さん。映画の中なら、そんな事気にしないですよ。あーあ。独り占めしたいけど、それも勿体無いな」
夏絵さんは僕の頬から手を離しそうになった。
「独り占めして下さいよ!」
僕の一言でその手はまた頬に戻ってきた。
「今の、素敵な言葉ですね。映画みたいですよ。言えましたね、素敵な事。それと、手が疲れるので、離しますね」
彼女が触れていた頬に彼女の手の感触が残る。
やはり酔っているのだろうか。
まだ触れられているみたいだ。
「”周りから見れば恥ずかしくても、当事者にとってはロマンス”。この言葉どう思います?」
夏絵さんはこれまでにないほど真剣な表情だった。
僕の答えを待ちに待っている。
「良いですね。その通りですね。今初めて体感しましたけど、これは世界中の全ての人に体感して欲しいです。周りが見えなくなるほどの、恋…みたいな」
「良いですよね?当事者にとってはロマンス。今、思い付きました」
「おお!映画のテーマみたいですね」
「そうです、映画のテーマにします」
「するんですか?」
「はい。だから、独り占めしない事にします」
「どういう意味ですか?」
「独り占めする瞬間もあるけれど、他の人にも体感してもらわないと」
「ん?なんの話です?」
「宗四郎さん、映画の中に行きたいですか?」
「それは、よく思います」
「じゃあ、行きましょう」
「はい?」
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