この上ない恋人

あおなゆみ

文字の大きさ
上 下
17 / 32

空の住人と遊園地

しおりを挟む
 君たちにとっての僕が空なら、僕にとっての空は君たちと君たちの世界だ。
君たちが僕を見上げるのなら、僕は君たちと君たちの世界を見上げるように眺めているよ。

 最初はもっと、君たちの近くにいたんだ。
今ほど高くはなかった。

 回る乗り物とか、物凄いスピードで動く乗り物とか。
反対に、物凄くゆっくり動く乗り物とか。

 他にする事もないから、飽きずに眺め続けていた。
それが僕にとって、唯一の気晴らしだったから。

 でも、少しずつ距離ができてしまった。
引き離されていったんだ。

 遠くなってしまっても、変わらずにする事はなくて、眺め続けていた。
そこには、僕には決して触れる事のできない輝きが存在するから。

 ここは広くて自由に見えて、羨ましいかい?
そっちには沢山の色や光があって、程よく広くて、僕には羨ましいよ。

 ここはあまりにも広すぎる。
迷子になったら元の場所に戻れない。

 ここには僕しか住人がいないんだ。
いつも一人で語ってばかりで、自分の声にも飽きてしまう。

 笑い声って、どんな声だった?
泣き声って、どんな声だった?

 僕は叫ばないんだ。
どうせ誰にも届かないから。

 そっちで誰かが風船を手放しても、僕を目掛けて飛んでくるわけじゃない。
その色を手にしてみたいけど、掴めない。

 風船が見えるのかって?
小さい点だけど、見えるんだ。

 私たちのことも見えるのかって?
それも、小さい点だけど見えるんだ。

 小さい点だからこそ、もっと近くで見てみたいんだ。
どんな姿だろう?

 楽しそうに笑っているのかな?
駄々をこねたりもするのかな?

 いいな、羨ましい。
僕も色んな感情になってみたい。

 動き回って、はしゃいでみたい。
誰かと一緒に走ってみたい。

 地上に足をつけてみたい。
大地を踏み締めてみたい。

 せめて声が届く距離。
贅沢は言わないからその距離まで近づけたら。

 君たちの色んな声を聞いて過ごしたい。
寂しさを紛らわす音が欲しい。

 そんな距離なら、僕も大きな声で君たちを呼んでみるよ。
頑張ったら会話できるかもしれない。

 喉が枯れて疲れちゃうかも。
それでも、挨拶だけでいいから交わしてくれる?

 交わせるうちに思う存分。
届かなくなるその日まで精一杯。

 僕は一体、どのくらいの高さまで上ってしまうのだろう。
どこに辿り着いてしまうのだろう。

 いつか、君たちの点さえも見えなくなってしまうのだろうか。
そうなったら、とても寂しいよ。

 君たちの世界を想像するしかなくなるんだ。
想像できるだけマシだと思う?

 でもいつか、想像する素材さえも失われるかもしれないんだよ?
記憶が薄れていくかもしれないんだよ?

 怖いんだ。
だから、今しっかりと、君たちと君たちの世界を眺めるんだ。

 君たちも少しだけ、僕に近づいてくれたらいいのに。
高い乗り物に乗る時だけ、ほんの少し近づくけどね。

 もっと高い乗り物を作ってよ。
僕らがいつか握手できるくらいの、高い乗り物。

 そういう希望を抱いていてもいいかな?
それくらいの想像、許してくれるかな?

 今のうち、想像力を鍛えるから。
もしも希望が叶わなくても、あまり寂しくなりすぎないように。

 でも、希望は捨てずに僕はここにいるんだ。
君たちが僕を見上げるのなら、僕は君たちと君たちの世界を見上げるように眺めているよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたはカエルの御曹司様

さくらぎしょう
恋愛
大手商社に勤める三十路手前の綾子は、思い描いた人生を歩むべく努力を惜しまず、一流企業に就職して充実した人生を送っていた。三十歳目前にハイスペックの広報課エースを捕まえたが、実は女遊びの激しい男であることが発覚し、あえなく破局。そんな時に社長の息子がアメリカの大学院を修了して入社することになり、綾子が教育担当に選ばれた。噂で聞く限り、かなりのイケメンハイスぺ男性。元カレよりもいい男と結婚しようと意気込む綾子は、社長の息子に期待して待っていたが、現れたのはマッシュルーム頭のぽっちゃりした、ふてぶてしい男だった。  「あの……美人が苦手で。顔に出ちゃってたらすいません」  「まずその口の利き方と、態度から教育しなおします」 ※R15。キスシーン有り〼苦手な方はご注意ください。他サイトでも投稿。 約6万6千字

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...