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後日談:3 噂のあの人

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   今日は久々にネイルサロンに行く予定だった
   産後はしばらくお休みしていたけれど、少し育児にも慣れて自分のことを気にする余裕が出来たのだと思う

   利奈のことはパパとベビーシッターさんにお任せしてある          
   ただ、ベビーシッターさんが気を利かせて

   「ネイル終わったら2人でデートでもして来いよ」

   なんて提案をしてくれたので、おネイルが終わったら理人と合流することになった


   「慶さん、お久しぶりです~」

   毎月通っていたネイルサロンに約3ヶ月空けてお邪魔したのだ
   サロンで働く若い女子たちも結婚・出産ネタは食い付きが良かった

   「少し前に、ご主人様と歩いているのを見かけたんですよ~!ほんと素敵!!」   

 …女子ばかりのトークはめちゃくちゃ楽しかった!
   こうして1人で外に出るのは久しぶりだったから余計にそう感じたのかもしれない
 
 サロンを出たら理人に連絡を入れようかと外に出ると、そこにはすでに理人が居た


    「あれ?いつから待ってたの…?」

    「あ、いや…なんかソワソワしちゃって…」

    ふーん、ソワソワしちゃって待てずに家を出てきたと
    まぁ可愛いから許そうじゃないか

    「買い物でもする?」

    「うん!」

    理人と2人で外を歩くなんて本当に久しぶりだった
    買い物でもなんでも、お喋りをしながら同じ景色を見てゆっくりと過ごす時間にときめいた


    デパートを出ると日も傾いていた
    そろそろベビーシッターさんを解放してあげないといけない時間だと思った
 
    手を繋いで私の先を歩く理人が、デパート前の階段を降り歩道に出た瞬間…

    歩いていた人にぶつかってしまった

    
    「おっ!と、すいません…」

    と理人が謝ると、その人も立ち止まった

    「こちらこそ申し訳…ない…」

    顔をこちらに向けたその男性に私は見覚えがある

    「…内山さん?」


    過去に私と不毛な関係を続けた元同僚の内山だった


    「あぁ柏木さん、お久しぶりです!」

   内山は営業スマイルを決め込んだが、以前のような嫌味っぽさは無いように感じた
 当時は重めにしていた髪型もスッキリと軽やかなカットにしていて、それで以前より柔らかく見えたのだろうか…

   「あ、そういえば事務に新しい方が入られたって聞きましたけど…」

   と、私は意味の無い会話を少し交わして別れ、理人と家に向かって歩き出した


   「会社の人?送別会のとき居たかなぁ~」

   理人が同席した送別会にも彼は居た

   「いや居たけど、お喋りじゃないから目に止まらなかったんでしょ~」

    なにも隠すようなことでは無い、けれど、今さら理人に知られたくも無いこと…
    繋いだ手から私の緊張が伝わってしまわないか少し心配になった



   部屋に戻るとベビーシッターさんにお土産を渡した
 誉さんはご機嫌の利奈にお別れのチュッチュをしてから

    「もう少し利奈が俺に慣れたら、お泊りでも行ってきなね♡」

 などと言い残して帰っていった
 そんなベビーシッターさんをお見送りしてリビングに戻ると 

 テーブルの上に紙が置いてあるのに気が付いて、誉さんの忘れ物かと思い見ると「利奈の様子」と書かれていた


 何時にミルクやおむつ替えをしたとか、昼寝した・起きた時間、その時のご機嫌や○○の音に興味を示すなど、預かっている間の様子が分かるメモだった

 「理人、これ見て!」

 過去に仕事でやっていたのだから彼としては普通のことなのだろうが
 私からすれば、それは嬉しいメモだった
 
 「わぁ…誉さん几帳面だなぁ~」

 と理人も感動していた


 しかしマスターのハイスペックぶりには恐ろしくなる
 なにをやらしても完璧にこなす人間なのだきっと…

 彼が独身でいる理由が少し見えた気がして…目を逸らした
 あ、今は恋人も居るみたいだし問題ないよね!



 お風呂を済ませベッドで横になる
 理人の肩に頭を乗せ、今日は久々に身軽で外に出たという開放感を思い返す

 利奈がもう少し大きくなったら、それこそ一緒に遊びに出られる
 今は焦らず親子3人でお家時間を楽しもうじゃないか

 それに…
 まぁ元職場が近いわけだから、駅前に行けばああして内山に会ってしまったりもする…
 場所的に避けきれないよこれは


 しかし内山は私と迷走していた時よりも明るくなったんじゃないか
 久しぶりに声を聞いて元気そうで良かったとも思った

 恋愛感情のようなものは無いがそれでも
 今日見た内山が、以前より空っぽでは無いのだと分かって嬉しかった

 
 「慶?俺がぶつかった人のこと考えてる?」

 「え…なんでそんなピンポイントなの…?」

 こんなときは以心伝心じゃなくていいんだけどな…
 でもこれが今の私と理人の心の距離で、きっと呼吸ひとつで分かってしまうんだ

 だから変に隠したりはしたくない


 「あれさぁ、懐かしいけど噂のメンヘラ彼氏よ…」

 「…はぁ?!うっわ、すっかり忘れてたわ!」

 と、当時の記憶が蘇った理人

 
 「ふ~ん…でもそんなメンヘラっぽい感じとか全然しなかったけど」

 「うん、どうやらそうなんだよねぇ…」

 私もそう思っていたところなんだよ理人くん
 

 「私が理人に救われたみたいに、あの人にもいい出会いがあったのかもね…」

 そう言葉にしながら、それが本当だったらいいと思った

 「ちょっと~…まだ好きとかじゃ無いよねぇ…?」

 「はぁ?…そんなわけ無いじゃん、旦那さんしっかりしてよ!」

 
 口ではそう言っても理人はぎゅっと抱きしめてくれる
 

 
 内山と、互いに「よう分からんなぁ…」と思いながら過ごした1年も、私の人生の1ページであると今なら思える

 ま…本当に暗黒期だったなぁ~とは思ってるけど
 そういうのが経験できたんだから、内山の未来も明るくあって欲しいものだ








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