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後日談:1 ベビーシッター
しおりを挟むさて、無事我が家に女の子が誕生し、初めての子育てに奮闘する毎日を送っている
ベイビーという生き物を理解するのはなかなかに苦労する
理人にもおむつ替えやミルクの作り方、お風呂の入れ方などを伝授してなんとか2人でやっている
最初の1週間ほどは母に甘えて手伝いに来てもらったが、まぁ「疲れる」ということでお帰りいただいた…のだが…
「お母さん!本当に帰っちゃうんですかぁ?!」
と、ベテランの退場を不安がって理人が食い下がっていた姿を思い出す
それでもそんなへっぴり腰の新米パパは、娘に素敵な名前を考えてくれた
「…これでどうでしょうか」
と理人がスマホを見せるので、覗くとそこには「利奈」という文字が表示されていた
ちょうど臨月に入る頃だった
「平川 利奈…どうかな?」
「りな…」
今までベイビー、天使、プリンセスと呼びかけていたこの子を「利奈」と声に出して呼んでみた
「…可愛いと思う」
理人が長いこと難しい顔をして考えた名前だし響きもいいし、私は好きだと思った
その日から、まだお腹の中にいる利奈に「利奈~」と話すようになった
利奈の出産は、朝方に陣痛の始まりがあって、その流れで真っ昼間に生まれた
理人には「子供が出てくる画角」は見ないように立ち会ってもらった
そうして私は入院となり理人は1人家に帰された
おそらく…
いや、間違いなくその間はマスターの所に行って話を聞いてもらっていたのだろうと想像がついた
入院中は柏木家、平川家の面々も百海も様子を見に来てくれた
母子ともに健康だったため予定通りの退院となり家へ戻った
退院して数日の頃
「後で誉さんが顔出すって言ってたよ」
と言う理人
うん、マスターね…
まぁ理人がお世話になっていただろうからお礼は言わなきゃとは思ったが
わざわざうちに来るなんて、人んちの子供に興味なんてあるのか?と私は疑った
過去に離婚歴があるとはいえお子さんの話なんてしていなかったし、マスターの部屋にはそういう影も見えなかった…
そんなおひとり様を貫いている人が子供に興味があるとは思えなかったけれど
その日の夕方マスターがやってきた
利奈を抱っこしていた私を見るや否や
「…嘘つき」
と言うマスター…
へ???とポカーンとした私に
「全然連絡くれなかったじゃん、嘘つき」
と…
あ~…、確かに?
なにかあったら連絡よこせ、と言ってくれては居たよね?
でもマスターに連絡を入れるような緊急事態が全くなかったんだから、それは別に嘘とかじゃないじゃん…
「めっきり店には来ないし連絡もないし…はぁぁ~」
いやいやいや、出産を頑張った人にため息は無くない?!
どうしたマスター?!
私たちの「スマートなマスター」を返せ!!
「え?誉さん…慶さんに会えなくて寂しかったの~?」
理人のナイスカットイン…こういうとこ助かる~
「そんなんじゃないよ、はいおめでとう」
マスターはそう言って、手に持っていた紙袋を理人に渡した
理人がなんだろう?という顔で袋の中身を確認すると
「慶さん!見て、ゆめかわ!!」
と理人が中身をパッと広げると、フワフワモコモコな素材のロンパースだった
フードには小さな猫耳が付いている…
「これ…誉さんが選んでくれたの?」
と私は思わず確認してしまった
「そりゃあそうでしょーよ…」
…マスター、いや、この歩いているだけで女子が振り返るようなフェロモン男が
おそらく出産祝いのギフトコーナーで、ベビー用品を吟味する様が想像できるだろうか…
そしてこんなにフワフワなロンパースを選んだと…!
ある意味非常にエモいとは思うが、私は笑いを堪えるのに必死だった
「ちょっと、それ抱っこさせてよ」
抱っこしたいと??
彼の意外な言葉に驚いたがおそるおそるマスターへ利奈をパスする
マスターはすんなりと利奈の頭の下に自身の腕を差し込んで支え、もう片方の腕で利奈の小さな手を触った
さてはお主、心得があるな…
私でさえ自分の子を初めて抱かされたとき、どこを支えればいいのか分からず教えてもらったのだから
これは知っている人だと確信した
「…えぇ?誉さんなんで赤ちゃん抱っこ出来るの?」
理人は目ん玉が飛び出ていた
もちろん理人だって我が子が誕生してやっと覚えたことだ
それが、お子の居ない独身男性にサラッとやられたら目ん玉も飛び出るわなぁ…
「俺さぁ、若いときにベビーシッターやってたのよ」
そのマスターの言葉に私も目ん玉が飛び出た
意外性ナンバーワンだよあんた!!
「ちゃんと認定ベビーシッターだからさ、任せてよ♡」
…我が子を預けても大丈夫なスキルの持ち主だということは分かった
しかし以前はマスターの顔しか知らなかったし
最近は逆に誉さんの顔しか見ていないけれど…
この人はまだ色んな顔があるのではないかと思えてしょうがない
フリーズしている私たちをほったらかして
誉さんは上機嫌で利奈を観察していたのだった
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