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温度
しおりを挟むお父様はピッチピチのスウェットで2晩ほど泊まってくれた
朝はご飯を作ってくれて、昼間は一緒に散歩に出た
夕方はエマちゃんの様子を見に行って、夜は息子と晩酌をして…
私もなんだか以前から家族だったような感覚になった
こうして迎え入れてくれたお父様はいつでも自然体でいて素敵な人だ
お母様が不在の期間はこうして泊まってくれたら嬉しい
その間にもテオさんから定期的に報告が入り、予定通りに退院が出来ると言っていた
テオさんは退院後はエマちゃんを家で休ませたいとのことで、お父様と私たちはエマちゃんの家にお邪魔することにした
家にお邪魔すると、お父様は最初にエマちゃんとテオさんを労った
そしてベッドの中で自分の手をパヤパヤと伸ばしているレオンくんを抱き上げると、しばらく楽しそうに話しかけていた
「エマちゃん、これから忙しくなるんだね~」
私はママとして先輩のエマちゃんと話をした
陣痛はどんな感じで始まったとか、入院中にどんな生活をしたかなど、数か月先に私も迎えるイベントだ
「ねぇ慶ちゃん、世のお母さんたち全員が通ったんだから大丈夫だよ!」
エマちゃんはさも簡単そうにそう言った
でもそう言ってくれたおかげで、あまり神経質に身構えなくてもいいのだと思えた
その後、理人と2人でレオンくんを抱かせてもらった
あったかい小さな体で大きなあくびをしていた
まだ目も見えていないレオンくん、パパとママの顔を覚えるのはいつ頃だろうか
この世界に誕生することで、どれだけの感動をみんなに与えたことか
ただ今は「生まれてきてくれてありがとう」と幸せな気持ちになった
お父様はこのままゆっくりして今日は自分の家に帰るというので、私たちは先に失礼した
「…レオンくん、可愛いかったね」
車の中でなんとなく話した
「うん、でもまだ小さくてちょっと緊張しちゃった」
と言う理人
確かにそれはそう、あんなに小さい身体で生まれてくるんだもん
自分たちの不注意で怪我をさせてしまうのではないかと最初は緊張もするだろう
自分たちは親として立派に子育てが出来るだろうかと、そんなことを考える
駐車場に到着すると
「はい!ドア開けるから待ってね~」
と、大事にされる私
「普通の生活は大丈夫ですぅ~!」
と言い返したが、理人は黙って私の荷物を持ちエレベーターまで歩いた
部屋に戻ると、我が家に帰ったぁ~!という気持ちになる
すっかり我が家となった理人の部屋
そして私は、今や短時間のお出かけでも少々疲れるのである
「慶……さん、お昼寝しな」
最近は私が眠くてウトウト昼寝をすることが普通になった
理人は文句も言わないで一緒に居てくれる
「一緒に寝てくれなきゃ寝れない」
ちょっと甘えるつもりで言ってみてから思ったが
これから母になろうという人間が、レオンくんを見て幼児返りとは笑えないよなぁ…
「いいよ、慶…一緒に寝よう」
理人に手を引かれベッドへ移動する
しかもなにげに「慶」呼び…いいぞ理人!
自分の呼び方なんて理人が好きに呼んでくれたらいいと思っていたが、こうして敬称ナシになるとグッと距離が近くなる…
改めて「男」として意識しちゃうというか、この人に任せていいんだという気持ちになる不思議
腕枕に頭を乗せると、おでこに優しいキスをする理人
「…今日レオン見て思ったけどさぁ」
「うん」
「もうちょっとしたら、うちにもベイビーが誕生するじゃん?」
「うん、そうね」
「俺、嬉し過ぎて死んじゃうかも…って」
「生きて!」
気持ちは分からなくは無いがスタートで死んでもらっては困る
こっちも死ぬ思いで産むわけですし
…でも正直ご対面したら嬉し過ぎて死んじゃうかもしれないと、大袈裟じゃなく私も思う
「私は老後もこうして、理人と一緒に過ごしていたい」
「うん、ずっと慶のこと離さないからね~」
きっと理人は娘に甘々なパパになって、毎日細かいことを叱る私が悪者になるんだと
自分の両親のことを思い出してそう思った
女子の思春期には必ず「パパを嫌悪する期間」もやってくるだろうけど、理人は泣いてしまうだろうなぁ
そんな未来をぼんやり考えながら、理人の腕の中で眠りに落ちる…
長いこと時間はかかったけれど
私を愛してくれる人と一緒に居ることで、私も心を許すことが出来るようになった
人生に焦ってベッドに誘うというあの時の暴挙も今や懐かしい…恥
こういう存在が有るというのはなんともくすぐったいが
こんな気持ちは理人が居なければ死ぬまで知ることは無かったのだと思う
…この先も、この愛する人と
互いの温度を感じる距離で生きていくのだという安心感を手に入れた、私の話…
ーーー完ーーー
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