温度

クマさん

　理人は相変わらず9：00～17：00という日中に仕事をこなしている
　切りのいいところでランチに下りてくる、という感じだ

　私はストレッチをしたり、ゆっくり時間をかけて家事を済ませる
　用事があるときは理人が時間を融通できるのでとても助かっている

　私は初期にあれだけ吐き気に襲われたわりに、今となってはなんの「つわり」らしい症状も無く快適に普通の毎日を過ごしていた


　ブー、ブー、ブー、ブー、ブー…
　テーブルに置いてある私のスマホが鳴った

　「もしもし」

　と慌てて出ると

　「慶、今から行くけど買い物の用事ある？」

　と、お父様だった
　お父様はきっとエマちゃんの病院の帰りで、私のことも気にして顔を見に寄ってくれるのだ

　「なにもないから大丈夫、お父様の顔を見たら元気になるし！」

　そう伝え「オーケー」とのお父様の返事で通話を終えた

　
　まぁ家の中も散らかってるわけじゃないし、お父様に出す珈琲だけ用意しておこう
　エマちゃんとレオンくんは特に異常が無ければ退院するのは明後日の予定だ　

　そうしたらレオンくんを抱っこ出来るかなぁ…
　少しならちゅっちゅしてもいいかな…
　早く触りたいなぁ～！


　ーピンポーン…ー

　
　脳内でレオンくんに夢中になっているうちにお父様が到着した
　玄関の鍵を開けると、重そうなショッピングバッグを抱えたお父様が立っていた

　「やぁ、先に手を洗ってくるよ」

　お父様は一旦キッチンにバッグを降ろすと手を洗いに行ってしまった
　そうしてリビングに戻り、大きな身体でハグをして
　
　「またプリンセスは大きくなったみたいだね」
　
　と、お腹を撫でた
　タイミングよくお腹をポコポコと蹴るうちのプリンセス

　「これはエマと一緒だぁ、あまり蹴るようならちゃんと叱りなさいね」

　とお父様が笑う
　
　
　私は珈琲を出してから、あの大きいバッグは何かと聞く
　お父様は適当に食材を買ってきてくれたようだ
　
　「運動に散歩なんかはいいけど、買い物して重たいものを持つんじゃないよ」

　と言った
　
　お母様のお腹に理人がいた頃、たまには1人で買い物に行こうと自転車で近所のスーパーへ向かったお母様

　帰りには買ったものをかごに入れて、その重みでフラフラとハンドルが取られたようで車道側へ転倒したという、心臓がギュッとなる恐怖体験を聞かされた…

　とくにお腹に異変も無く、お母様は「なんともない！」と言い、お父様が気になるので無理矢理病院へ連行したという話だった、もちろん異常は無かったそうだが


　「…だから慶は必ず理人を連れて歩いてよ？」

　と念を押された

　すると玄関の開く音がして、理人が戻ってきた

　「あれ？親父来てたの…」

　「ねぇ、お父様が買い物してきてくれたんだ」

　と、差し入れをいただいたことを伝えた
　理人もお父様に「助かる～」と言い喜んでいた
　

　「あれ…お父様、今お母様出張でしょ？泊まってけばいいのに」

　と、そういえばお母様が不在にするということを言っていたのを思い出す
　お父様は「いやぁ帰るよ」と気まずそうにするが

　「…このお腹見てよ、セックスとかしないって～！」

　というノンデリ炸裂ジョークを叩きつける理人…

　　　　　　　　　　　　　
　あなたの育てた息子さんですよ？


　「まぁ…じゃあ泊まろうか…」
　
　と、お父様が泊まってくれることになった
　私はクマさんみたいに大きくて優しいお父様がだ～い好きなのである

　やっぱり親子だから、理人と似た空気感があるというか…
　頼れる安心感と癒しオーラが共存していると思う

　
　こうしてお父様と一緒に夕飯の支度をして、理人とお父様の晩酌に付き合いお喋りをした
　お父様には来客用の大きいマットレスを出してベッド代わりにしてもらった

　ただ…

　理人のぶかぶかのスウェットを出しても、お父様にはピッチピチになってしまったことが申し訳なかった…

　「これ以上あがんない…」

　と、腰パンみたいに…なってて…
　しばらく笑いがこみ上げて寝付けなかったことはナイショだ