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さいこ

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証人

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 ーーー日曜日
 
 朝はゆっくりでいいみたいだったのでアラームもかけなかった
 時計を見るともうすぐ11:00だ

 私は顔を洗ってから理人がいつ起きてもいいようにご飯の支度をしておく
 胃が空になると気持ち悪くなるのでひとりで先にご飯を食べた

 
 カフェインの摂取量には気を付けないといけないらしく、今ではデカフェを愛飲している
 
 そうだ…
 いつもは理人が好きなジャズを聴くことが多いけど…
 

 私は自分の好きなクラシックのプレイリストを流した
 自分の好きな音楽が天使にも聴こえてるんじゃないかとソファーに座る

 まぁ聴こえていたとしても好みが一緒とは限らないけど
 私の好きな曲を毎日色々聞かせるのはいい案かもしれない

 
 「…朝から優雅だね」

 理人が起きた

 「ごめん、うるさかった?」

 「いや、クラシックもいいね」

 「ほらあれよ、胎教」

 「…あ~…ね??」

 
 え?なんか…反応微妙じゃない?

 「なんでも聴かせるし、いっぱい話しかけるよ~」

 理人はまだぺったんこの私のお腹に顔を寄せてそう言った
 

 それからのんびり過ごしているけど、今日はお出かけなんじゃないのか…?
 時間も聞いてないけど…と考えていると

 「慶さん、17:00になったら出よう」

 と理人が言った
 
 「…おけ」

 なるほど、夕方のお出かけか
 ディナーに素敵なお店でも予約してくれてるのかな?

 私はメイクをして着るものを選んだ



 「…じゃあ行こうか」

 そう言う理人と部屋を出る
 エレベーターは地下駐車場へ直通だ、そこから車に乗るのかと思いきや、地上へ出る階段をあがる

 理人は今、階段にとても敏感だ
 登り階段は必ず私の後ろをカバー、下り階段は私の前を歩く、といった具合だ

 駐車場から地上に出ると、そのまま慣れた方向へと歩く理人

 「…え?今日、日曜日だよ?」

 マスターが好きすぎて、定休日にまでマスターの店に足が向いてしまっているのかと思い確認する
 
 「勘違いしてるんじゃないからね!」

 まぁそうか、定休日じゃなかったとしてもまだ店が開く時間でも無い
 そうして何度下りたか分からない、マスターの店へと続く階段を下りた


 理人が店のドアを開けると
 マスターがカウンターの中ではなく、カウンターの椅子に私服姿で座っていた

 「…待ってたよ」

 そう言いながら煙草の煙を吐き出した
 
  
 「ちょっと~!慶さん煙草我慢してるんだから!」

 とマスターに抗議する理人
 はいはいそうだった、と言いながら煙草の火を消すマスター…

 そもそも「いらっしゃいませ」じゃない第一声にこっちはパニックだって言うのに
 私服のマスター、煙草の煙を吐き出すマスター、タメ語ボイスという、普段お目にかかれない「SSR星5」みたいな姿を一気に見せられて私はポカーンとした

 「…はい、慶さんも座って」

 理人にそう言われて我に返った
 

 
 …そうか、今日はマスターはオフで、ただの「誉さん」なんだね
 だったらそう言っといてくれたら良かったのに!
 めちゃくちゃ慌てたじゃん…

 「はい…どうぞ」

 マスターはペットボトルの炭酸水を出してくれた
 
 「あ、ありがとう」

 「ごめんね?今日は仕事しな~い日」

    そう言ったマスターは、気だるげフェロモンダダ漏れのセクシーさだった

 …うん、マスターはきっとコッチの「の顔」を封印しないと仕事が大変なんだろうなぁ…と肌で感じてしまった
 


 「誉さん、今日はありがとね」

 と理人が言う
 しかしなんだってマスターを交えて3人なんだろう?

 「…そういうのはいいから腹括れよ、って」

 ニヤニヤしながらそう言うマスター
 なによ…2人して…


 「慶さん…」

 理人が私の方に向き直る
 さて、いよいよ私をここに連れてきた理由を話してくれるのだろうか

 「まぁ…今は一緒に生活しちゃってるから、なんか変な感じだけど…」

 「…うん」

 「俺はこのまま、死ぬまで慶さんと一緒に居たい」

 

 「だから俺の奥さんになって欲しい」


 あぁ…
 
 これ、プロポーズなんだ…

 死ぬまで一緒に居たいって理人がそう言ってくれている…だから奥さんになって欲しい、か
 
 素直に受けないと取り返しのつかないことになるぞ私
 でもそれでも、私も確認しておきたいことがある

 「…本当に私でいいの?」

 「俺、慶さんじゃなきゃダメだから」


 「はい」とすでに心は決まっているのに、声にしようと思った瞬間一気に色んな思いがこみ上げてくる
 
  
 「…ふぁい…」

 「俺の…奥さん…」

 嬉しい気持ちでいっぱいになって涙が溢れた
 理人がこの先もこうして抱きしめていてくれるという幸せがある

 
 「あ、そうそう」

 そう言って自分の着ているジャケットのポッケに手を伸ばす理人
 手にした小さな箱を開けると、中にはペアリングが並んでいた

 「…婚約指輪?っていうのかな…」

 私の左手を取り薬指にリングを通した
 そして「俺のもやって」というので、私も理人の薬指にリングを通した
 
 「なんか…慶さんと繋がってるっていう実感が…!」

 2人でしばし手を眺めた



 「それではお2人さん…」

 と、それまで黙って見守っていた誉さんが言う

 「俺がプロポーズの証人になったわけだけど、まぁひとまず上に行こうか」

 
 …上に?
 誉さんの店の上に一体何が待っているんだろう

  
 


 
 
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