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心離れ
しおりを挟むいつの間にか理人との生活が普通になっていた
以前まで「若い彼氏の心変わり」に振り回されたくないと、恋愛対象は年上の男性と考えていた自分が懐かしい
しかし実際、理人は年下だけどその手の心変わりや浮気の疑いに苛まれたことは無かった
疑惑を探そうと思えば、平日の昼間に本当は何やってるんだろうね、とか
マスターにアリバイをお願いして別人と出かけている可能性、とかも無くは無い
けれど、こちらがそんな疑念を持たないほど「愛されている」という思いで満たされていた
…それに私の知っている人間、百海や優、マスター、互いの家族以外と接している理人を観察したことが無かった
仮に外で知らない女性に声をかけられたら、理人はどう対応するんだろう…
「…ねぇ、仕事で付き合いの長い人の中に女性もいるよね?」
なんとなしに聞いてみた
「ん~、仕事もそうだしゲーム仲間もいるし~」
出た!
百海・優の出会いのパターンね?
「聞き方が変だとは思うけど、好きになっちゃうような人は居ないの?」
「…え?まぁ長く付き合ってる人はみんな好きだけど…」
ああ、そういうね、人間的に好きなんだね
おそらく理人は本心でそう答えていると思われる
私が邪な気持ちをもって聞いた質問だとは思ってもいないのだろう
理人は無意識なのか、色恋に関してどこか「私以外は対象外」みたいな空気を纏っている
まぁ、私の想いも今は同じだと言える
理人は人をよく見ていて底抜けに明るくて優しいけど、通したいことがあれば自分のペースに持っていくのも上手い
思うことがあれば言うし、そういう素直なところに曇りが無いので信頼できる
…でも、この先に控えた「美女が集うかもしれないパーティー」を目前に私は怯え切っていた
怯える理由は2つ
①知らない女性と接している理人を見たことが無いので、耐えられるか不安
②魅力的な女性たちに対し自分が勝てるという自信がゼロ
自分でなにがそんなに気になるのかと分析してみた結果、おそらくこの2点が怖いのだと思った
「理人の仲間たちにも私を紹介して欲しいけど、普段集まったりしないの?」
「いや、俺が普段行かないだけで集まりはあるよ」
そう、こういうところは心配だ…
「家に居たいから」という理由で行かないならいいんだけど
「私に悪いから」とかいう折り合いを考えての行動だったとしたら、それはいつか爆発するものなんじゃないかと思う
「じゃあさ、週末に私のお披露目会してよ」
理人と付き合いのある人を見たい、というのがひとつ
そして、運良くその中に女性がいれば、パーティー前の実習という形で耐性を付けたい、というのがひとつ…
「…急になぁに~?まぁ声かけたら普通に集まるとは思うけど…」
メッセージ入れといてみるね、と理人はすんなり受け入れてくれた
私も自分で言っておいて緊張が走る
大きいイベントの前に、もうひとつイベントを発生させてしまったのだ
しかも自分の考え過ぎというか、自分の自信の無さからの提案であって
全くもって思いやりのない自分本位の行動だと思った
自信の無い大人でごめん…
隣でスヤスヤと寝息を立てている理人に心の中で謝った
こうして毎日セックスをして彼の腕に抱かれて眠りにつくというのに、どうしてこう不安を感じるのか…
最初は、理人に「ちゃんと彼氏になって」と言ったときは一緒に居られることが嬉しかった
そこから毎日が嬉しいし、楽しいし、自分を愛してくれる人を見つけられて心が温かかった
今では理人が一緒に居てくれることが当たり前になって
そうなると今度は「理人を失うこと」が怖くなった
私からの心離れが怖い…
世の恋人たちはこの恐怖とどう向き合っているんだろう
応援ありがとうございます!
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