温度

さいこ

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   父の様子を見て拍子抜けした私はリビングへ戻った

 母が夕飯の心配をしていたので私はスマホでサッとデリバリーを頼んで

 「お寿司が届くから大丈夫」

と伝えた
 
 …もし私がここから通勤するとなったら移動時間はメチャメチャ長くなるけど
 きっと毎日母の作るご飯が用意されていて、夜は家族で晩酌になるんだろうなぁ

 私も1人部屋で寂しくなったりしないでいいな、と思った


 しばらくするとデリバリーが届いた

 「あれ?お支払いは?」

と言う母に、先に済ませてあるよと伝え、私は父を呼びに行った

 母もついさっきまで父を「隔離」していたくせに、父が顔を出しても別になにも言わなかった
 お正月以来の両親との夕飯だった


 「…おい、ご馳走になったからお返しにボトルでも開けるか」

と父が言う
 父はキッチンへ向かうとウイスキーのボトルを出して来た

 「せっかくだから外で飲もう」

と言う父は、絶対に煙草が吸いたいだけだと思う
 きっと母には体調が回復するまではやめろと言われていたのだろう


  
 「…ゆうのこと、ありがとうなぁ」

 それは別に、私にとっても可愛い弟だから自分が応援したかっただけのこと

 「そんで?お前、彼氏が居るってな?」

 どうせ…それが聞きたいんでしょ…
ついでだから、私も話しておきたいことがある


 「…彼氏にしてもいいかな?って思ってたんだけど、その人ハーフでさ…、いっぱいタトゥーが入ってんの」

 まずは感触を探りつつ
ちゃんと個人で仕事をしている事、立派な生活をしている事を伝える

 「で、それについての社会的な不都合ってものを考えてみてたのよ…」
 
 私も思うところがあっての事案だとふんわり匂わせる
 そのうえで自分もタトゥーを実際にいれてみたこと、それを知られるなり怒鳴られたこと、そして今日は逃亡してきたことなどを話した


 「まぁ…男の立場としちゃあ分からなくもないなぁ」

とまさかのコメントが父から飛び出た

 「え?擁護派?!」

父は私の味方だと思い込んでいたので意外だった

 「いやお前、そりゃあそうだろ?男心も分かってやれよ~」

…そう?
 だとしても、人の話も聞かずに怒鳴るのは違うんじゃない?


 てゆーかパパ…

相手のタトゥーのことも私のタトゥーのことも、そこに関してはなにも言わないんだね
 もっとこう、なんてことしたんだ!勘当だ!みたいな感じになるんじゃないかと予想していたのに


 「まぁな、もちろんお前の気持ちも分かるよ」

…そう言ってくれた父の声に安心した
 
 ちょっと理人に否定されたくらいで動揺した自分の心理を考える
 この先は世間から否定されることもあるというのに、たかが理人1人に慌てていてはどうしようもない

 自分はこの不都合を理人と共有したかったんだから逃げてる場合じゃないよな…と改めて思った



 「…ねぇ今、優から姉ちゃんそっち行ってる?って電話があったけど…」

母が外に出て来てそう知らせてくれた
 あぁ…「優」からの確認の電話、ね…


 「おい、慶…今日は嵐が来そうだなw」

ソワソワし始めた父の顔が楽しそうだった…







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