温度

さいこ

文字の大きさ
上 下
38 / 76

しおりを挟む





   父の様子を見て拍子抜けした私はリビングへ戻った

 母が夕飯の心配をしていたので私はスマホでサッとデリバリーを頼んで

 「お寿司が届くから大丈夫」

と伝えた
 
 …もし私がここから通勤するとなったら移動時間はメチャメチャ長くなるけど
 きっと毎日母の作るご飯が用意されていて、夜は家族で晩酌になるんだろうなぁ

 私も1人部屋で寂しくなったりしないでいいな、と思った


 しばらくするとデリバリーが届いた

 「あれ?お支払いは?」

と言う母に、先に済ませてあるよと伝え、私は父を呼びに行った

 母もついさっきまで父を「隔離」していたくせに、父が顔を出しても別になにも言わなかった
 お正月以来の両親との夕飯だった


 「…おい、ご馳走になったからお返しにボトルでも開けるか」

と父が言う
 父はキッチンへ向かうとウイスキーのボトルを出して来た

 「せっかくだから外で飲もう」

と言う父は、絶対に煙草が吸いたいだけだと思う
 きっと母には体調が回復するまではやめろと言われていたのだろう


  
 「…ゆうのこと、ありがとうなぁ」

 それは別に、私にとっても可愛い弟だから自分が応援したかっただけのこと

 「そんで?お前、彼氏が居るってな?」

 どうせ…それが聞きたいんでしょ…
ついでだから、私も話しておきたいことがある


 「…彼氏にしてもいいかな?って思ってたんだけど、その人ハーフでさ…、いっぱいタトゥーが入ってんの」

 まずは感触を探りつつ
ちゃんと個人で仕事をしている事、立派な生活をしている事を伝える

 「で、それについての社会的な不都合ってものを考えてみてたのよ…」
 
 私も思うところがあっての事案だとふんわり匂わせる
 そのうえで自分もタトゥーを実際にいれてみたこと、それを知られるなり怒鳴られたこと、そして今日は逃亡してきたことなどを話した


 「まぁ…男の立場としちゃあ分からなくもないなぁ」

とまさかのコメントが父から飛び出た

 「え?擁護派?!」

父は私の味方だと思い込んでいたので意外だった

 「いやお前、そりゃあそうだろ?男心も分かってやれよ~」

…そう?
 だとしても、人の話も聞かずに怒鳴るのは違うんじゃない?


 てゆーかパパ…

相手のタトゥーのことも私のタトゥーのことも、そこに関してはなにも言わないんだね
 もっとこう、なんてことしたんだ!勘当だ!みたいな感じになるんじゃないかと予想していたのに


 「まぁな、もちろんお前の気持ちも分かるよ」

…そう言ってくれた父の声に安心した
 
 ちょっと理人に否定されたくらいで動揺した自分の心理を考える
 この先は世間から否定されることもあるというのに、たかが理人1人に慌てていてはどうしようもない

 自分はこの不都合を理人と共有したかったんだから逃げてる場合じゃないよな…と改めて思った



 「…ねぇ今、優から姉ちゃんそっち行ってる?って電話があったけど…」

母が外に出て来てそう知らせてくれた
 あぁ…「優」からの確認の電話、ね…


 「おい、慶…今日は嵐が来そうだなw」

ソワソワし始めた父の顔が楽しそうだった…







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...