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疲労

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 翌朝…
寝ている理人を起こさないように、私は洗面所へ向かう

 左肋骨のタトゥーの所だけをボディーソープでそーっと洗い流すためにシャワーを浴びた

 …ちょっとでも触れるとヒリヒリと痛い
頑張ってタオルでそっと拭いた後、専用のクリームを薄く伸ばした


 「…ふぅ~ん、そーゆーこと…」

漫画みたいにビクッ!ってなってしまった 
理人め…起きていたのか…

    引戸を乱暴に開けて入ってくる理人

    「…なんでっ!こんなモノ入れたの?!」

こんなモノって…?
そんなの、タトゥーだらけの人にだけは言われたくない言葉NO.1だよ!

 まさかいくらなんでもこんな風に言われるとは想定外過ぎた


    「理人には…関係ないでしょ…」

私は理人の横をすり抜けて寝室へと戻った

   なんでもいいから外に出られる格好に着替えたい
バスローブを床に投げ捨て、下着を付ける
それから衣装ケースを開けて1番上にあったデニムとニットを着た

   昨日持ち歩いていたバッグに必要なものは入っている、そこにスマホだけ突っこんで玄関に向かう


   「ちょ…慶さん!どこ行くの?!」

廊下で理人に捕まってしまった
掴まれた腕が痛い

   「今は話したくないからどいて」

   「行ったら帰ってこないでしょ?」

   「…嫌っ!理人と居たくない!!」

掴まれた腕をどんなに引いても、体重をかけても、離して貰えなかった…

    暴れる私をもう片方の腕で簡単に押さえ込む理人
    掴まれた片腕を払いのけることも出来ない非力な自分が情けなくなって床にしゃがみ込んだ
    

   「慶さん…ごめん……」

なにに対してのごめんなのよ
私は悔しいのと悲しいのとで涙が溢れた

   理人が少し腕を緩めた、瞬間…
私はベッドへ走った、そして掛け布団の中に逃げ込んだ

   私は喧嘩なんてしたくない

   こんな小さなタトゥーのことであんな言い方をされて…今の理人とは絶対に話したくなんかない!!!

   自分の気持ちを落ち着けようと、目を閉じて深呼吸を続けた





ーーーーーーーーーー





    お腹減ったなぁ…

    目を開けると私は布団を被ったままだった、暑い
寝ちゃってたのか…けっこう余裕だな私は…

   理人があんなに怒った理由はなんだろう?

   私はタトゥーによって生じる不便を理人と一緒に感じたかった、そうしたら理人の気持ちが少しは理解できるのかもしれないと思った

   ただそれだけだった


   単純にタトゥーを入れるような女が嫌なのかな?
   ない話では無い、自分が喫煙者であっても「煙草を吸うオンナは無理」という男を実際に見たことがある

   煙草ねぇ…
私は布団から出てベランダへ向かった

   部屋に理人は居なかった

   さっきは人の事を逃がさなかったくせに自分は逃げたんだ、まったく勝手なんだから


 このままここに居たら、そのうち理人が帰ってくるだろう
そしたら私が謝らなきゃいけない…?
 それとも向こうが切り出して結局重たい空気で話をしなきゃいけないのかな…

 話すことなんてあるのか?
自分がしたことを拒否されたから悲しかった、なんて子供みたいにわざわざ相手に話すことでもない…


  
 昨日まで楽しかったのに今日は最悪という感情のジェットコースターに今はただ疲れていた

 なにも考えたくなかった

  
  

    


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