温度

理人Side 2

　





　慶さんをこうして慌ててそばに置きたい理由

　まぁ好きだから離れて居たくない、ってこともあるけど
見えない場所にいる時間が不安で仕方ない

　別に信用してるとか信用してないとかの話では無く、俺のメンタルの問題だ

　

　学生時代の女関係なんて、ほとんどが思春期の好奇心だけで通過するものだと思う
　タイミングが合ったら付き合ったりセックスしたりするだけで、相手を好きかどうかなんて意識はなかった

    高校生の頃、仲間内で小遣い稼ぎに配信を始めるヤツが出始めた
投げ銭や応援してくれる人からの小遣いが目的だった

　俺は横目にそれを見ていたが、配信のために使う画像の加工やちょっとした動画の編集なんかが面白そうで、仲間を手伝うという形で手を出した


　二年間くらい夢中になってのめり込んだ
そうしているとき、じいちゃんが
　
　「うちの仕事を継ぐ人間が居ないからお前が勉強しなさい」

と言い出した

　母方のじいちゃんには子供が俺の母しか居なかったから
本当は母が継げば良かったんだろうが、母は自分で仕事を持っていて「絶対やらん！」と言っていた

　あるとき、じいちゃんの仕事場に連れていかれ、どんな内容の仕事をしているのか説明を受けた
　不動産の話なんてガキの俺には理解しきれなかったが、もし俺がやらなかったらどうするの？と質問すると

  「お前が継がなかったら全部手放すしかないだろうなぁ、俺の代で終わりにするよ…」

　じいちゃんはそう言った
継ぐ人が居なければ全部がなくなると聞いて、すごく悲しいことだと思ってしまった
　じいちゃんが守って来たものが無くなってしまうと

　それまで趣味だけに没頭していた俺は、この時経営や経済を学ぼうと進学を考え始めた
　 

　そんな中、仲間たちは配信を通じてSNSで繋がった女を片っ端から食い漁ることに夢中になっていた
　まぁ思春期の男子なんてそんなもんだ

　俺は俺で動画という趣味は細々続けていたが
今までおろそかにしていた勉強も始め、なんとか大学への進学が決まった



　進学しても俺は、女という存在に好きとかいう感情が湧かず、適当に遊んではサヨウナラを繰り返していた
　
　特に、よく知らない女から「好きです」「付き合ってください」と言われても
俺と話したことも無い人間が、俺の何を好きになるんだ？と考えると嫌悪感すら覚えた
　だってそれって「見た目とか顔がタイプ」みたいな話で、別に俺という中身でなくてもいいわけだ

　いい加減「彼女が居る」とその手の女を断っても
「一晩だけでいいから」とか「今日だけでいいから」とか言い出して
悪徳訪問販売みたいにしつこく食い下がってくる…

　そっちがそれでいいからと言って遊んだくせに
本当に一晩だけだと知るとバカにすんな！と怒り出してすぐSNSだ
　SNSに「ヤり逃げされた」だの「クズ、死ね」だのと好き放題晒された
　
   …こっちはそもそも好きじゃないんだからセックスしたところで、って話だろ 
　
　
　でも、しばらくするとじいちゃんの仕事を引き継ぐために
今のビルで生活するようになり、変な女を相手にする暇も無くなった、その頃…

　うちのテナントでBARを開きたいという人がいると連絡が入った
　その人は地下1階の店舗と上に居住用の部屋とを借りたいとのことだった

　もちろん空いていた場所なので使ってもらうことにした、それがマスターとの出会いだった

　店の内装工事を見学に行ったり、オープン前の店で飲ませてもらったこともある
   そういったよしみで打ち合わせで使うのに席を用意してもらったり、彼の知り合いが部屋を探している時に良さげな物件を紹介したりもしている

　
　まさか、その中で素敵な女性に出会うとは思ってもいなかった
　

　自分の中ではこれが「初恋」なんじゃないかと思っている
はじめて心が惹かれた人、だからそうだよなぁ

　最初は一方的に観察するだけでよかったんだけど、そのうち話すようになれて嬉しかった

　でも、彼女がなにか迷ってそうな顔をしていた日
　ホテルに誘われた後避けられてめちゃくちゃショックだった
　もう会えなかったらどうしよう…って焦った


　だからもう、どこかに姿を隠さないで欲しい、怖いから…

　俺のことを知ったうえで慶さんが「無理」というなら仕方がないと思う
でも、せめてそれまでは俺の手の届くところに居て欲しい…


　弟くんの引っ越しは正直ナイスアシストだと思ってしまった
　慶さんにも悪知恵で余計なことを吹き込んだ…

　そんな悪い男だけど、なりふり構ってる余裕なんてないんだ