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休日

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 ああ…身体が痛い…

 昨日は理人が遊びに来て………
流れでセックスをしてしまった


 目を開けると見慣れた天井が視界に広がる
横を向くと、私の左側に理人が寝ている
    
 私のシングルベッドが非常に狭く感じた


 私の身体に腕を回しすやすやと寝ている理人の身体を眺める
肋骨のあたりのタトゥーは痛そうだなぁ…
 左胸から腰にかけて、髑髏に百合の花があしらわれた繊細なアートが入っている

 そこにあるレタリングの文字を指でなぞった

 
 そろりとベッドを抜け出しキッチンで珈琲をいれる
そのままベランダに出て煙草に火を付けた

 理人とのセックスは気持ち良いよなぁ~…

ふとそう思う
別にテクニックとかの話ではないけど、それがなんなのかは分からない…


 
 「…珈琲の匂いがする~」

寝室から出てきた理人は、全裸であった…

 「まったく人の家で素っ裸で歩くんじゃない!」

だって着るものなんて無いじゃん!と抗議する理人

…それな



 着替えを済ませた理人が
「俺、腹減って死にそう…」と言った



 昨日は珍しくスウェットじゃなかった理人

 180㎝を超える長身、体格もしっかりしていて割と筋肉質
整った顔立ちをサングラスで隠し、ロングの髪の毛は緩く後ろでお団子にまとめられていた

 すっきりしたラインの白いロンTに紺のジャケットを羽織り
ボトムはスキニーのデニムという爽やかスタイル……


 …外を歩けば王子様だろうに、部屋に篭もりPC前に張り付いて
日がな一日黙々と編集作業を繰り返すことを生業としている、不思議な子だ


 外に出るつもりが無かった私は慌てて支度を済ませた
マンション斜め向かいのパーキングに停めた車に乗り込む

 土曜日のお昼どきとあって飲食店は混み合う時間だ
車で向かったのは駅の反対側のビルに入っているレストランだった
 白と青の綺麗な内装に目を奪われる


 「平川様、お待ちしておりました…」と奥の個室に通された

 …平川様←


 私は初めての店なのでおすすめを理人に丸投げして
出てきたものを食べるだけという簡単なお仕事を済ませる

 理人は運転があるので、私もアルコールは遠慮した

 「そういえば理人もけっこう飲むよね?」

なんとなしにそう聞いた
 私はお酒が好きで、両親ともアルコールに強い家系だから
朝まで飲んでもわけが分からなくなることも無いが

 思い返すと理人はいつも私と一緒のペースで飲んでいる気がする


 「ん、そう?…純日本人じゃないからかも?」

なんか日本人ってあんま水みたいには飲まないもんね、という理人

 「………うん?」

色々と理解が追い付かなかった


 目に付いたカフェで珈琲を買い、公園のベンチに座った 
こうして休みの日に外でぼんやり過ごすなんて、いつぶりだろう
 小さな子を連れた若い夫婦が散歩をしている姿が眩しかった


 「慶さん、エマ知ってんだよね?」 

えまって…
あのカフェをやっているエマちゃんなら知っている

 「エマねぇ、俺の姉ちゃんなの」

…理人の姉ちゃんということは、理人はエマちゃんの弟ということ
姉と弟、で合ってるよね?


 「……ええぇーー!姉弟きょうだい!?」

 「そう、うちは親父が日本人じゃないからさぁ…」

と話し始める理人


 お母様が日本人でお父様がドイツ人だということ
ただ結婚後は日本で生活することを決めていたので、子供たちもお母様の姓「平川」なのだと


 「…俺はドイツ語はあんま分かんないw」
 
と笑う理人が可愛かった

 

 お酒が強いよね、と聞いただけなのに
これだけの情報量を浴びせられるとは思わなかった
 
 だけど、なんとなく理人という人の背景が分かって
彼が日本社会の枠に囚われていない理由が見えた気がした
 
 
 私に見えている世界など、理人からすれば世界のほんの一部なのかもしれない







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