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火遊び
しおりを挟む私はとある男を捕まえてホテルのラウンジで飲んでいた
このあとは部屋へ向かうのだろう、ついさっき成り行きで私がそう言ってこの男を誘ったからだ
彼のことは顔見知りという程度でどんな人間かはあまり知らない
おそらく自分より年下だろうし、もしかすると彼女が居るのかもしれないという懸念もある
今日はただ私の前に居合わせただけでこんな場所に誘われてしまった可哀想な人だ
…よく見れば高身長だし、体格もがっちりタイプで顔面もまぁまぁ整っている
特に目につくのが男性でありながらハイトーンのロングという髪型だ、私は女のくせに髪のメンテが大変すぎてショートにしているので尊敬に値する
「…そろそろ部屋に行こうか」
ワインのボトルも空いたところで、席を立つ男に手を引かれラウンジを後にした
彼は部屋のキーを取り出しドアを開ける
「はい、どうぞ」そう言われて先に部屋へと入った
視界に入ったのは広いリビングのような部屋だった
私の知っているこじんまりとしたホテルの部屋とは様子が違った
開放感のあるリビングが広がっていて、その先にはビル群の夜景が見えるテラスがあった
ドアがいくつもあるので見て回ると、テラスからガラス張りで丸見えのバスルームやキッチンなどがあった
「…なにこの部屋」
これはもしかして人生初のスイートルームというやつでは?
分不相応な部屋に緊張を隠せない
そんな私を気にも留めず、リビング奥のドアへと進む男
そこは広すぎるベッドルームだった、彼は脱いだジャケットやスマホをベッドに放り投げる
「慶さん、用意しといてもらったから、あっちで煙草吸えるよ」
と言われた先を見ると、テラスのテーブルに灰皿が用意されていた
そうだ、一服して少し落ち着こう…
私はテラスに出てソファに座り煙草に火をつけた
私はなんとなくだが彼は悪い子じゃないような気がしているが
彼のほうは、私がどんな人間かも知らないでこんな密室で2人きりになるのは怖くなかったのだろうかと
ぼんやりと煙を吐き出しながら考える
しばらくすると
「わぁ~贅沢過ぎる夜景~」
と男もテラスに出てきた
こんな訳の分からない状況なのに、いつもと変わらない調子の彼を見て少し笑えた
「…これから一緒にジャグジー入ろ!」
え…?
いきなりすっ裸で風呂なんて難易度高くない?と私が躊躇していると
「慶さんそんなんでホントに知らない人とセックスする気あったの?」
と煽られてしまった
その後、彼に服を脱がされ二人でジャグジーに入りシャンパンを飲んだ
アルコールの勢いで身体を触りっこしたあと、抱っこされてベッドルームに移動した
大きいベッドが二つも並んでいるのにそれでも無駄に広いベッドルーム
その片方のベッドで何度もセックスをした
人の体温が心地よかった
そして、この子はこうして女性を優しく扱うんだ、ということが分かった
ーーーーーーーーーー
「はぁ~~~っ!」と、私の隣にどさっと倒れ込む男
私の肩に頭を乗せ「慶さんのえっち…」と言った
ぼうっとした意識が徐々に戻ってくる
色々思うことはあったが一服しようとテラスへ出た
熱くなった身体に外の風が心地よかった
「コーヒー飲むでしょ」
と彼がカップを二つ持ってテラスへ出てくる
「慶さん、俺のこと好きになった?」
と返答に困る質問が飛んで来る
「ん~………」
私は曖昧な声を出したが特になにも咎められなかった
「ねぇ、慶さん…」
彼がなにか思いついたように言う
「これからはセックスしたくなったら俺だけにしてよ…」
とスマホを出す
なるほど、確かに連絡先の交換をしてしまえば話が早いもの
だけど…、自分からこんなことに誘っておいて言えることでは無いが、
なんだか本能だけで彼を呼びつけるのは申し訳ないと思った
「…また今度ね」
私は連絡先も聞かず、私のために用意してくれた部屋にも泊まらず、
タクシーに乗り自分の狭い部屋へ帰った
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