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後日談:社会人
しおりを挟む波多野さん達と一緒に過ごしたバーを辞めて
駅直結のビル45階にあるカフェ&バーで仕事をして2年が過ぎた
親父との約束通り、大学は4年で卒業できる運びとなり
この春からは正社員としてカフェ&バーに世話になることに決まった
波多野さんは遠縁の方が経営する会社に就職して、度々俺の居る時間に店に会いに来てくれている
実は波多野さん…
残念ながら山ちゃんとは、2年弱のお付き合いでお別れすることになった
当事者の2人があまり話したがらないので別れるに至った理由はハッキリとは聞いていない
でも、波多野さんとお別れした山ちゃんは以前よりずっと凛々しくなった
自分に自信が無さげな空気を纏っていた山ちゃんは脱皮できたみたいだ
適当な男と遊ばなくなったってことは、そういうことだ
それってやっぱ「イイ男」から受けた良い影響なんだと思う
佐々木さんは年上彼女の事業を手伝うと言って、今は海外生活をしている
ヨーロッパの素敵な風景や背の高い恋人とのラブを日々SNSにあげている…
今のところ佐々木さんが一番の勝ち組だと思われる
…というわけで、俺もやっと社会人へと仲間入りした
あんなに「成人」とか「大人」に憧れていたものの、職場が変わればそのたびに「新入り」にリセットされるので
いざ自分が社会人に仲間入りしたところで、特に実感は湧かなかった
まぁそういうのは後から付いてくるものかもしれない…
綾はと言えば、ネイリストとして順調にキャリアを積んでいる
彼女はもう「新入り」では無い
今では自分の顧客と難しいオーダーの施術のみを担当していて、あとは店舗スタッフへの技術指導の立場らしい
…俺は社会人としてスタートしたばかりでちょっと遅れをとっているように感じてしまう
まぁ綾より2年も長く学生でいたわけだから、俺はここからやっていくしか無いんだけど…
綾にもまだ飽きられずに一緒に居る←今のところ
一緒に過ごしてもう3年が経った
お互いのことを理解できて、もう変な気は使わないで居られる関係になったと思う
まだ互いの部屋を行ったり来たりしているが
俺がもう少し色々と安定したら一緒に住みたい
…けど、どうも綾はそこに関してあまり乗り気ではないようだった
いや今だってほぼ毎日一緒に居るんだから、家が一緒で困ることはないと思うんだけど…?
今俺はカフェタイムの出勤になっている
朝から夕方という、バイト時代には無かった時間帯の勤務だ
バーの仕事は経験があるので、今は毎日カフェの仕事を叩きこまれている
綾の出勤は、俺よりもう少しゆっくりの時間だ
彼女はその日の仕事内容で帰りの時間はまちまちだ
ただ、今まで完全にズレ込んでいた仕事の時間帯を考えれば
毎日夜の時間を一緒に過ごせるというのはマジで嬉しい!俺は!!
…綾は嬉しく無いのだろうか
なにか、知られたくないことがある…とか?
もう俺にちょっと飽きてきてる…とか??
悪い方にばかり考えても仕方ないのは分かっているし
実際は毎日一緒に居ることが本当なのに、なんだか少し重い気分で居た
さて、その日俺は18:30に仕事を終えロッカーで着替えた
綾からメッセージがあるはずだとスマホを見る
いつも店を出る時間を送っておいてくれる
18:00過ぎに「20:00頃になる」というメッセージがあった
俺はスーパーで買い物をして普段通り家に帰る
そうそう、最近の俺は少しづつだけど料理が出来るようになっている
こうしてジワジワと進化しているのだ
「…ただいまぁ!遅くなっちゃった~」
「おかえり~…」
俺がキッチンで夕飯の支度を終え、洗い物をしているとき綾が帰って来た
もうすぐ20:00になろうという時間だった
「飯、出来たけど食べる?」
「うん食べる!お腹減ったぁ~」
綾はそう言うと、買い物してきたらしい両手に持っていた紙袋を置いて洗面所へ向かった
俺はテーブルに2人分食事の用意をした
部屋着に着替えてきた綾はいつも通り、今日あったことを話しながら
俺の作ったものを褒めちぎって美味しそうに食べた
「…なんかさ、外でいいことあった?」
綾はいつでも機嫌がいい
体調不良のときですら機嫌が悪いということは無い
だけど…今日はどこかフワフワしているというか、俺にはそんなふうに見えた
「いいこと、あるよ今から…」
「…今から?」
「いおくんテーブルの上片付けてよ」
俺は言われるままに食事の後片付けをした
綾はさっき持ち帰った紙袋を開けて中身をせっせと出していた
「いおくん終わった~?早く~」
「…はいはい」
なにをそんなに浮かれてんだよ…
そう思いながら振り返ると
「…………!!?」
テーブルの上には、綺麗にデコレーションされたホールのケーキが居た…
「え?…なんかのお祝い?」
「それガチで言ってる?」
…へ?!
俺、なんか大事な記念日とか忘れてた?!
えっと…出会った記念は…違うか、綾の誕生日も先だし…なんだ…
「いおくん、今日誕生日だよ…」
あ、俺の誕生日…?だったんだ…
「あ、ごめん、すっかり忘れてた!」
「そうでしょうそうでしょう、めちゃくちゃ仕事、楽しそうに毎日頑張ってるもんねぇ~」
確かに今は夢中で仕事を覚えているところだ、正直毎日楽しい
けど、年一のイベントまですっぽ抜けてたなんて
「だからね、大好きなお仕事も…これでもっと頑張れるよ!」
綾はそう言いながらオシャレにラッピングされた包みを俺に手渡した
「今開けていい?」
「早く見てみて!」
綾から受け取った包みを開けると、ちょっと贅沢なブランドのワイシャツだった
なるほど、これを着て仕事ももっと頑張れるよ…本当に…
「ありがとう」
「…へへ、かっこいいシャツでしょ!いおくんに似合いそうだもん」
綾は嬉しそうにそう言った
そこには疑いようのない綾の愛を感じた
本当に嬉しいのに、あったかいのに
俺はまだ赤ちゃんで自信が無くて彼女に余計なことを言ってしまう…
「ねぇ、一緒に住むの…どうして嫌なの?」
「あ~…」
綾はきっと俺の余裕のなさにイラっとしたと思う
それでも俺にも分かるように言葉を選んで話してくれた
「あのね、嫌なんじゃないの…全然、嬉しいよ」
「…でもいつも適当にはぐらかすじゃん…」
俺はそれが不安なんだよ、「べつに一緒じゃなくていい」って言われてるみたいで
「いおくん…今でも嬉しいのに、私いおくんと一緒になったら、もうそこが幸せマックスな気がして怖いんだぁ…」
怖い…幸せで怖い…、分からなくはないけど
「俺は、たまに綾が自分の部屋に帰って離れてるときが怖いよ」
俺の狭いワンルームには綾の荷物を置いておけるほどスペースが無い
だから週に1回2回は、彼女は自分の部屋に帰って
掃除や洗濯や、また必要なものを持ってうちに来る
たかだか週に1回か2回の話だ
でもその離れている時間が俺にはとても寂しいしそばに居て欲しい
そういうの、一緒に住んだら解決するのになぁ
「でもずっと一緒に居たら、私に飽きるのも早くなるよ…きっと、だから怖い…」
「じゃあさ、嫌ではないってことでいい?」
「…嫌じゃないんだけど、嫌…」
俺は嫌だと言う綾の頬にキスをした
「俺、広い部屋を借りるのに準備してるから、そしたら俺の所に来てくれる?」
「…………」
返事をしない綾の、おでこに、瞼に、耳にキスをした
「ねぇ、来てって…」
「………」
「ん?俺は要らない子?」
「………要る」
こうして甘えん坊な俺は甘やかしてくれる綾と、この半年後に同棲を始めた
あんなに嫌がってたくせに
「もっと早く一緒に住めば良かったねぇ~!」
と綾は言った
まだ俺は一人前の男とは言えないけれど、彼女と一緒に過ごす中で思うことがある
このまま俺のお嫁さんになってくれないかな、って…
それはまたタイミングを見て話そうと思う
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