季節がめぐる片想い

さいこ

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期待

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 次の講義でさっそく山ちゃんと一緒になった
 
 「おはよ~、波多野さんどうよ?」

 俺は先日の突発的な情事で多少の気まずさから、イイ男を話題に出した

 「どうもなにも…ちょっとガチめで好きだよ!」

 そう話す山ちゃんは本当に楽しそうで微笑ましかった
 いつもの調子でグイグイ行くんだろきっと
 波多野さんも大変だなぁ

 メルセデスでお持ち帰りする大人の女に勝てそうにはないけど
 山ちゃん頑張れよ!←

 

 俺にも新たな出会いがないかしら?
 
 そんなに世界から嫌われるような悪人でもないでしょーよ
 たまにはご褒美くれたっていいだろ~!

 
 はぁ…バイト行こ…



 もうすっかり我が家的安心感のあるバイト先
 
 俺は先輩からの「レシピ通りにきっちりやれば大丈夫」という言葉を信じて
 ビルドのドリンクを少しづつ覚えていた

 しかし俺はただの見習いだけど、世間的にバーテンダーってモテそうなイメージあるよな?
 
 「佐々木さん、彼女います?」

 俺は一番近くに居た先輩を捕まえて聞いてみた



 「うん、居るよ年上の実業家で…」

 「…はぁ?いいですよそーいうのは…」

 「じゃあなんで聞いたんだよっ!」

 正直そういうのは求めてなかったよ佐々木さんに
 彼女も居なくてどーしよう、えーん!って言う佐々木さんが見たかった

 ママは…本命が居るのかは不明だけど、多分女が放っとかないからお相手する女性は多そうだ

 しかも器用そうだしなぁ
 うまいことコントロールしてローテする様が想像できてしまう

 やっぱ波多野さんは人間として素敵だから人が寄ってくるんだよな
 

 俺も自分磨きでもするかぁ…
 なにを身につけたら素敵な人になれるんだろう…


 
 そうしてぼんやりしていると店のドアが開いた
 
 「いらっしゃいませ」

 俺はサッとカウンターの裏に逃げる
 今日はもう椅子に座った、絶対に表に出ないという意思表示だ

 少しすると佐々木さんが呼びに来た

 「いお~、あの人お前の知り合いだろ?呼んでるよ」

 「…違います、俺は休みです、居ませんとお伝えください」

 佐々木さんは優しいから一応それを伝えに出て行った
 
 さらに少しすると今度はママが呼びに来た

 「おい…ガキが佐々木になにやらせてんだ!テメェでどうにかしろ!!」

 そう怒鳴られて、首根っこを掴まれてカウンターに引っ張り出された…


  

 「……いらっしゃいませ」

 カウンター席には赤坂さんが座っていた
 今目の前で裏からつまみ出された俺を見て、なにか言うことは無いんでしょうか?
 
 あなたのせいですよ、俺を呼ぶから…
 
 彼女はなにも言わずにうつむいている
 俺は勝手にカルーアミルクを作って出した

 
 どっちが先に話しかけるかの根比べってこと?
 いいよ、俺は時間が来たら一言も話さなくたって帰りますけどね…


 「あの、こないだは怒らせちゃったみたいでごめんなさい…」

   赤坂さんがそう言った
 口ではなんとでも言えるでしょ、悪いと思ってなくたってね

 俺に謝ってなんになるんだよ
 またお迎え係りでもやれってこと?

 
 「用件は以上ですか?」

 …俺はもう話したくない
   用が済んだら帰って欲しい

   「今後、私を呼ぶのはご遠慮ください」

   あなたと話したくないです


   「いおくん…話したくないよね、ごめん」

   そう言って、赤坂さんは出されたグラスを一気に空けると帰って行った…


   さようなら、俺の片想い…


   
   「アレでいいのかよ…」

   彼女の出ていった先をぼんやり見ていると、波多野さんが俺の隣に来て言った
   
   「いいもなにも、ひどい人なんですよあの人」

   好きとか嫌いとか、そんなもの話し合ったからって合意に至るものでは無い

   俺が色んなものに蓋をして、うわべで付き合う必要だって無い…



   25:00 俺はバイトをあがる
   コンビニで珈琲を買って帰り道を歩く

   「…いおくん」

   知ってる、赤坂さんの声だ
   俺は振り返らずに歩く

   賑やかな通りを過ぎて静かなエリアに入った
   俺の後ろからコツ、コツとヒールの音がついてくる

   俺は鍵を出して、ついてくる足音に構わずマンションのエントランスに入った
   そのまま階段をあがり部屋のドアも開けて中に入る


   少しすると、ドアが開いて
   「お邪魔しま~す…」と、赤坂さんが入ってきた

   「…それ、通報出来ますけど?」

   途中で巻かなかった俺も悪いけど、まさか部屋にまで入ってくるとは思わないじゃん…

   「ここから先にはあがらないから、少し話がしたいの…」


   結局、玄関に立たれても俺が気になるのであがってもらうことにした

   「もう寝るんで手短にお願いします」

   赤坂さんと話したっていい事なんかない



   「少し前に、女の子とデートしてたでしょ?」

   赤坂さんはそう切り出した
   
   デートに心当たりは無いけど、女子なら山ちゃんのことだろう
   赤坂さんは仕事中、外へおつかいに出た時に俺たちを見かけたようだった


   「私いおくんが女の子と歩いているのを見て、なんてゆうか…嫌だなって思ったの」

   なんだよ嫌って?
   
   「私なりに色々考えてみたんだけど、もしかして嫉妬なのかなって」

   は?…俺のことが好きってこと?
   
   「どこに対しての嫉妬なんですか?」

   そうだ、山ちゃんに気安く触るな!の嫉妬の可能性もゼロではない(迷走)


   「いおくんと並んで歩く女の子に…隣に並ぶのが私だったらって思っての嫉妬、だと思う…」

   「それって俺のことが好きって意味?」

   彼女は少し黙った
   え?そんな風に思ったのに違うってことある?


   「それがまだハッキリとした自覚がなくて…だから確かめたくてお店に会いに行っちゃって、ごめん…」

   そんな時に俺に冷たく突っぱねられたから?
   こうして家にまで押しかけたの?
   
     
   「…で、話はそこまで?なら帰ってくれない?」

   変な期待を持たせるような話ならこれ以上は聞きたくない    
   俺は赤坂さんの言葉ひとつに一喜一憂してるんだ、振り回されるのは疲れるんだから


   「うん、聞いくれてありがとう…」

   赤坂さんは静かに立ち上がると玄関に向かった
   俺はそれをただ黙って目で追っていた…けど…

   彼女が靴を履いたら出ていってしまうと思ったと同時に、彼女の腕を掴んでいた


   「…いおくん?」

   「通報しないで話聞いてあげたんだから…ね?」

   少し緊張した彼女の顔も可愛い…って、俺は変態かって!
   不安そうな彼女の目を見つめながら顔を近づけて、唇にそっと触れた
   

   「じゃあね…おやすみ」

   
   そう言って彼女の腕を離すと
   彼女はドアから出ていった
   

   俺は…頑張ったよ…
   


   シャワーを浴びてベッドに横になった
   俺のことが好きかもしれないという期待に縋りたくなる

   そうやって些細な期待に依存して、何年こうして彼女のことを考えているのか…
   自分のことながら情けないよ

   「うるせぇ帰れ!ついてくるな!」

   …って、さっきだって帰り道で振り切ることも出来なかった

   
   変な期待は外れてへこむことになる
   だから期待なんてしたくない、でも僅かでも見えてしまったらそれに依存しちゃうんだ


   もう、どうしたらいいんだよ…

   



   

    
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