愛してると伝えるから

さいこ

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憂悶

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   「お前に恥をかかせたそいつの事、俺が引きずり出してやろうかって言ったら、妹にやめてって言われてさ…」

   瀧は優しいんだ、妹の味方であろうとしたんだもんな

   「それで俺気がついたっていうか…」

   「…バカだね、お前は」

   「だからさ…反省したから、こうしてまた一緒に居ていい?…大声出さないから」


 瀧が反省してようがしてまいが、今こうして居るんだからそれが答えだろ、この鈍感が… 

   「まぁお前の言い分は分かったよ」

 他人である以上、物の見方が違って意見が違うのは当たり前で怒るようなことではない

   俺はどんなに口論になろうと、瀧がいいやつで面白くて可愛いと思っている


   「…また、一緒に遊んでくれるってこと?」

   「あぁそうね、難しく考えるな…」

   瀧に今日は休みなのかと確認すると、午後から現場に出ると言うので一旦お開きとなった

   

   瀧が帰ってから…
   俺はふと、さっきみたいに瀧に押しかけられたら断ることが出来ないんだと気がついた…

   まぁ俺は大人だから、あんなにして「謝りたい」という瀧の話を聞いてやるのは当然かもしれない
 てゆーか捨てられた子犬みたいに攻めてくるのはあいつもズルいけどな


   けれど俺のこの断れない気持ちは、友人としての気持ちなのだろうか?と…少し不安になった

   途端に暗雲が立ちこめるような重い気分になる
   俺は酒を飲んで寝ることにした



   ーーー


   
   …目が覚めるとすっかり夜になっていた
   ガッツリ寝ちゃったなぁ、これで休みが終わりだ

   鈍痛のようなモヤモヤが俺の思考を邪魔しているような気がした


 少しストレッチをして風呂に入った
 
 瀧がゲイで俺を好いていてくれて、そんな情報があるから俺の脳も勘違いしているのかもしれない

 もしこれが、俺が全く興味のない人間だったならこんなバグり方はしなかった
 瀧のことは本当に人間的に気に入っているから、それで…


 まぁ今まで通り変に意識しないで接しないと、また瀧が勘繰ってくるだろう

 
 ブ、ブー…ブ、ブー…

 メッセージの通知
 
 ーーーーー

 仕事終わったんだけど、ダーツ行かない?

 ーーーーー

 さっそく瀧だ、俺のモヤモヤなんか知らねぇもんな
 あいつはさっき自分が気にしていたことを俺に謝ってクリアな気分でいるんだろ

 どれどれ…涼しい顔して遊んでやるか
 睡眠ばっちりの今の俺ならゲームにも勝っちゃうかもな

 俺は着替えて外に出た



 ダーツバーのビルに到着すると瀧がもう待っていた

 「…さっそくたかりかよ」

 「なんでよ、俺が負けたら俺が払うって」

 負ける気が一切ない顔で適当なこと言いやがって…


 俺と瀧は「701ななまるいち」「901きゅうまるいち」「クリケット」というゲームをぐるぐる遊ぶ
 
 例えば「701」は、各々最初の持ち点が701点で、そこからダーツを刺した分だけ持ち点が減っていく
 序盤は出来るだけ多くの点数を削り、点数が少なくなってからが勝負となる

 しかも決まったラウンド数の中で終わらせなければいけない
 ゲームとして本当に面白いと思う

 そして肘が動くうちは遊べるので、高齢の方にも遊べるゲームといえる
 まぁ的が良く見えないとか、ダーツの出来る店がうるさいとかの、別の問題はあるかもしれないが


 テーブルにつくとビールを飲みながらゲームをする
 見ていると瀧はリーチが長いのと、肘が安定している感がある
 
 パワーはあるだろうが、かといって力任せに投げているヤツのようなドスッ、という音はしない
 簡単に言えば上手いんだ

 「いや~、180ビタッと減ると気持ちいいねぇ~」

 20のトリプルという枠に、綺麗にダーツを3本収めた瀧
 交代で今度は俺が投げる 

 「そうだろうなぁ…こっちはストレスでキレそうだよ…」
 
 俺は18トリプル・20ダブル・1とやや右上にばらけトータルで95の減となった、瀧の半分だ


 まぁそうやってグズグズ言いながら酒を飲んで遊ぶのがダーツの醍醐味だ
 余計なことは考えず投げる先にだけ集中する
 
 気が付けば1:00を回っていた
 
 「おい、次ラストな」

 「…えぇ~、は~い」

 俺は早く帰らなければいけない理由などなかったが
 瀧とは適度に付き合いたいと思った

 
 結局俺が負けて→俺が払う
 
 「一条さん、ごちで~す!」

 「…もう二度とやらねぇからな俺は」

 「それ、もう持ちネタじゃん…」

 こうやって瀧が本当に楽しそうに笑うから、俺はいつも負けて金を払っても…嬉しいと…


 ん?
 
 
 「…じゃあな」

 俺は反対口へと歩き出す

 「また店行くね~おやすみ~」

 背中で聞くご機嫌な瀧の声
 本当に、素直過ぎるだろ…馬鹿が…


 
 この時間はまだ人が沢山いる
 朝方にはこの人達は居なくなっている
 街ごと寝てしまったような不思議な光景だ

 俺はただ部屋に帰ってボーっとした


 点数の減らなさにストレスを感じていたはずなのに
 毎回負けて瀧の分まで払うのは俺なのに
 
 ほんっとになんで…
 こんなに楽しいんだろう…

 
 それだけじゃない

 今思えば店に瀧が入ってくるときだって、メッセージを見つけたときだって嬉しいんだ…

 脳が勘違いしているわけじゃないのかもしれないと、瀧に会って改めて感じてしまった


 「今日行かなきゃよかったなぁ…」


 
 俺は瀧のことは気に入っているが、身体を許して距離が近くなるのは嫌だ
 友人としての距離で長く付き合いたい
 
 セックスをすれば情が湧いて恋愛をすれば別れるときが痛い
 終わりが来るような関係にはなりたくない

   頭ではそう考えているのに…


   あれ?てゆーか…瀧は?


   あの野郎、俺がセックスは違うみたいなこと言ったら「じゃあ友達で」って流れになったけど、それで一緒に遊んでてしんどくないのか?
   
   我慢してるような顔は見せないけど…
   我慢してない……?



   …は?

   もう興味無くなった??

   それで「一緒に居ても平気です~」ってこと?



   ちょっと待てよ
   今俺の中で瀧がキてるんだからお前が勝手に降りるんじゃねぇ…

  ゲームに勝って上機嫌で帰っていった瀧に腹が立った
 

 

   プルルルル…プルルルル…


 「…一条さん?どうした?」

 瀧の声

 「あ、具合悪いとか?!一条さん?ちょっ…」

   瀧の…



 「…今から来い」

 それだけ言って切った


 
 …瀧の声を聞いたとき
   一瞬壊したくないと思った

 でも、1人で抱えていたくないとも思った


 俺の腹の中の黒いモヤモヤを全部吐き出すからお前も答えを聞かせろ瀧…
   





    
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