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番外編:昔話
しおりを挟む理人が「産まれたぁ!!!」と泣いて報告をしてきた
家族が増えるって凄いことだよな…
慶ちゃんも順調に回復してベビーの成長も上々だと毎日報告をくれた
それから間もなくして
俺もお祝いを持って理人の部屋に行くことになった
俺は身内じゃないので病院に顔を出すのは遠慮していた
母子ともに良好で退院となったので、栄様も随分と寂しがっているからそれも伝えてこようと思った
「平川 利奈」
誕生してまだ数日の彼女は非常に元気だった
俺は洗面所で執拗に手洗いをした←触る気満々
「ちょっと、それ抱っこさせてよ」
ママの手から渡された利奈は温かかった
まだ俺の顔も見えてはいない
この握られた小さな手で、お前はどれだけの幸せを理人夫妻に運んで来たのだろう…
可愛いその手をこちょこちょする
「…えぇ?誉さんなんで赤ちゃん抱っこ出来るの?」
パパが早速ヤキモチ妬いてるぞ利奈
俺のほうがいいって言ってやれよ
きっとお前はあの2人に愛されて育つんだろうな…
ーーー
俺は若かりし日に「認定ベビーシッター」の資格を取得した
もちろん取得後はちゃんと更新している
当時は割と緩い条件で取れる資格だったので少しの座学と少しの講習会、そしてどこかの事業所に籍があれば通過できるものだった
俺の場合は成り行きで「子供を預かる」という経験が先にあり、その後資格取得をする結果に繋がったのだが…
それはまだ学生時代の話だ
学生御用達の安アパートに住んでいた
狭くて壁が薄くて耳を済ませれば会話も聞き取れるような、プライベートなんかただ漏れの絵に書いたような安アパートだった
もちろん誰も引越しの挨拶などしないが、話し声で隣人が男性か女性か、学生か社会人かなんて分かる環境だった
その日も友人と遊び、夜遅くに部屋に帰った
風呂からあがると酒を飲んだ
ヘッドホンを着けて音楽を聴きながら、窓から体を半分出し煙草を吸っていた
しかし合間に聞き馴染みのない音が聞こえてヘッドホンを外した
それは、音ではなく泣き声だった
大人じゃなく子供の…いや、赤ちゃんの…?
この壁の薄いアパートで今まで聞いたことは一度も無いはずだが、その日は聞こえた
俺はアパート1階の右から2番目の部屋に居たが、どうも右の部屋から聞こえるようだった
まぁお子さん連れの人が越して来なくも無いのだろうが、夜中に泣く声に少し心が痛んだのを覚えている
翌日、その日はなんの予定もなく夕方に部屋に戻っていた
右隣からは赤ちゃんの泣き声…
俺はどんな人が居るのか見てやろうという好奇心で部屋を訪ねた
ドアが開くとバスローブを着た綺麗な女性が俺を迎えた…
歳の頃は20代後半から30代前半くらいに見えた
えっ、こんな人が隣に居たんだ…などと少し緊張した
「ごめんね、うるさかった?」
と、その女性は言った
それに続けて
「学生さん?ベビーシッターのバイトしない?」
と…
「ねぇ、時間あるなら中で話そ…ね?」
大人の女性からの誘いを断れるような強い精神は持ち合わせていなかった俺
まんまと部屋に上がり、フワフワした気持ちでその女性の話を聞かされた
「あたしシングルでさぁ…夜の仕事してるのよ、でも託児所の空きが見つからなくってね…」
女性はこれから出かけるらしく、俺にお茶こそ出してくれたものの、話しながら目の前で平気で着替えた
「バイトってゆーか、この子と一緒に居てくれるなら、時間1500円か…頑張って2000円出すよ、託児所が見つかるまででいいから…」
だいたい仕事での不在が6時間ほど、その前後もあるので日に少なくとも14000円は稼げる計算になる
こんな安アパートに子連れで入居している人が、そんなバイト代を出すなんておかしくないか?俺は妙な胡散臭さを感じた
それに、その話を信じるとして、だとしたら昨晩は赤ちゃんを放って部屋を空けていた可能性があるということ…
そこを俺みたいなガキが突っ込んでいいものかどうかと少し悩んだ
「もしアレなら…セックスも付けようか?あたし、若い子好きなの…」
そのひと言で…俺の迷いは吹っ飛んだ…
ベビーシッターに俺はなる…!ドン!!
…男とは悲しい生き物だ
おむつはここ、ミルクはこれ、着替えがうんたらかんたら…
その女性は説明をすると部屋を出て行った
部屋に残された、俺とこの子…
名前も聞いていなかった
部屋の主が戻ったらせめて名前だけは教えて貰わなきゃな、そう思った
おむつを替える時にはじめて
この子は小さいながらも「男」なのだと知った
初日の深夜、部屋の主が帰ったところで名前を聞いた
「あおいだよ…ねぇ、それよりさぁ…」
俺はその人と、あおいの目の前でセックスした
大人の女は積極的で、エロい香水を纏っていて、俺はその人とのセックスに夢中になった
その日は16000円を手に入れた…
翌日、俺は育児のいろは的なテキストをいくつか購入した
体調不良などに遭遇することも無くはないと思ったし、あんなに小さな体だからこそ命に関わるような事態にもなり得るんじゃないかと怖くなったからだ
もちろん近所の小児科や、小児科医のいる救急病院なんかも調べたりした
法外なバイト代を握らされていたので、赤ちゃんに聴かせると良さそうな音楽なども購入して聴かせた
赤ちゃんには沢山話しかけることで言葉を記憶していくのだ、というのを読んで心が震えたりもした…
この時の俺はまだ小僧だから、人間が赤ちゃんのあいだどのような成長をしているか…そんなことを考えたことも無かったのだ
俺はそんなにも大切なあおいの時間を預かっているのだと、責任感のようなものが生まれた
母が不在の間のあおいの様子を、メモに纏めてその人に置いて帰るようにした
その人との刺激的なセックスと、あおいの成長とを体感しながら3か月ほどバイトを続けた
「ねぇ、やっと託児所が見つかったの!本当にありがとうね」
その人は明るい笑顔でそう言った
「じゃあ、もう終わり…ですよね?」
俺はその日を境に完全に用済みとなった…
あおいの温もりも、夢中になったセックスもなくなった
一気に生活の楽しみを取り上げられ
抜け殻になった
まぁ今思えば馬鹿なガキが大人にいいように使われただけだ
しかし、昔から俺はセックスと金には縁が深いね…面白いよな…
俺はそんな未練からベビーシッターの求人情報を眺めて過ごし
学校の卒業とともに部屋も越して…それでも未練が断ち切れずベビーシッターという職を少し経験した
その時のオーナーがどうせなら資格を取得したらいいと助言をくれたから
抜け殻だった俺は講習や試験に向けた勉強を通じて脱・抜け殻が出来たんじゃないかと思う
そして後に、そのオーナーが持つバーで新たな職との出会いが待っているわけだ…
あおいは今頃どうしているだろうか…
小さなお前と触れ合った時間は本当に、ただのガキだった俺が母性に目覚めたような、そんな素敵な体験だった
たまにお前を思い出すと心の中が温かくなる
P.S.お前の母ちゃんと毎日セックスしてごめんね…
これが俺の昔話
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