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厄介事
しおりを挟む最後の客を送り出すと外の看板を消灯した
それから店を閉めて片付けと、酒の発注や明日の買い出しのものをチェックした
最近終売が決まったボトルがあるのでいくらかストックしておきたい
酒にも色んな影響があり流行り廃りはある
数年前からのウイスキー人気は熱が上がり続けている
流行りにあやかりたいのか、知った風な口をきく者の会話も耳に入って来る
「そうじゃないけどね!」と思いながら黙って聞く俺の気持ちにもなれ…
「よし…終わり」
いつも通りに店を戸締りして階段をあがる
部屋に戻り風呂に入る
ここからがやっと俺のプライベートな時間
冷蔵庫から小瓶の酒を出しベランダで一服する
昨日はめちゃくちゃな日だったけど、瀧が一緒に居てくれたおかげでおもろかったなぁ…
そういえば今日はちゃんと俺の仕事を見てたんだろうな?
筋肉の登場でいきなりギスギスし始めるの笑いそうだったなぁ
…あの筋肉に出したカーディナル、あれのカクテル言葉は「優しい嘘」だ
たまたま覚えてたからそれを出した
俺の出した嘘を「情熱的だ」なんて言って…
ウケるよな
それを変に気にして瀧が欲しがるから、俺は違うものを出した、モヒート…これのカクテル言葉は「心の渇きを癒して」
これもたまたま覚えてたから、先のカーディナルとの対比でいいと思っただけで、深い意味なんて無い
ただ瀧は居るだけで面白いから、あながち間違ってはないよな
…俺は普通に瀧が好きだ
最初の出会いが「店主と客」じゃ無かったからっていうのが大きいと思う
だから気楽に付き合えてる
あいつがちょっと生意気だから気分悪い時もそりゃまぁあるけど、人間的には悪くない
ただなぁ…
俺はゲイじゃねぇから瀧のことをセックスの相手としては見てないし
そこがあいつのストレスになったりしねぇのかな?なんて少しは考える…
あいつも俺に触らないって言った手前、トイレに籠って抜いてんだから可愛げがあるよなぁ
このまま自分にも滝にもいいような落とし所が見つからないもんかねぇ…
ーーー翌日
なんのトラブルも無く1日の営業を終えることが出来た
そして最後の客を見送り外の看板を消灯
静まり返った店内に戻ると俺のスマホのバイブ音が聞こえる
…なんとなく察しはつくが
スマホを確認すると「瀧」の文字が表示されていた
「…お疲れ」
「一条さん?今看板消したでしょ!」
「こわっ!なに?ストーカー??」
まったく、暇なら顔でも出せばいいものを
「少し…会えない…?」
そう言う瀧の声が少しピリついているように感じた
店の片付けが終わったらということで通話を切った
店の戸締りをし、部屋に帰る
エレベーターを降りると…
部屋の前にストーカーが…いや、瀧が居た
「…なにお前?オートロックすり抜けの術でも覚えたんか?」
「はぁ?違うから!妹のとこに来てたの!」
あぁ…確か上の階に住んでるって話だったな
俺はほかの住人すら見かけたことが無いけどな
「声でけぇな、早く入れもう…」
俺が仕事をあがるこの時間、世間様は深夜なんだ
急いで鍵を開けて中に瀧を押し込んだ
珈琲が飲みたい気分だったので勝手に瀧の分も用意してベランダへ出た
俺は煙草に火をつけた
瀧も自分の電子タバコを取り出し電源を入れていた
「…お前も紙巻煙草にしろよ」
「やだよ、めちゃくちゃ煙いじゃん」
…煙が嫌なら煙草は吸うな!
「一条さん…」
「ん?」
瀧は言葉を選んでいるようで少し黙る
「ここら辺ってほかにもバーは沢山あるの?」
「駅前なんだからあるよ、検索しろ」
中には良い店も数件はあるが
ギャーギャーうるせぇ下品な店がほとんどだ
「ここから近いのは…前に行った1軒ともう2軒…」
「なぁに?俺に飽きてよそで男探すのかよ~」
「違うよ、俺の性癖とは別件…」
ふ~ん、まぁなんでもいいけどね
よそを見たらうちの良さも分かるだろうよ
「それで…女泣かしてそうなマスターが居るのはどれ?」
「…はぁ?」
そんなん俺が知るかよ…
そんなことお前が聞いてどうするんだよ
「なんかぁ、ボトルとかグラス投げて曲芸してるって話らしいけど…」
…あ、それ藤原の店だ…
フレアバーテンダーのショーをやっているのは、うちから近い3軒で言えば藤原の店しか無い…
「はぁ、その店がどうしたって?」
「俺の妹がヤり逃げされたってハナシ…」
どっかで聞いた…話ダナァ……
そうか…先日藤原が連れていた女が瀧の妹だったとして
俺は知らなかったから防ぎようも無かったけれど…
…ん?待てよ
なぁんか引っ掛かるんだよなぁ~
「お前の妹っていくつ?」
「30歳」
「…それはもう色々と分かるご年齢だな?」
そうだよ…瀧が33だって言ってたから、妹さんは離れてたとしても20代後半にはなってるんじゃないかと漠然と思った
それが人生30年目の大人だと言うならなおさら、もういい加減男の良し悪しは理解しているだろうよ
「…まぁ、やめとけ」
瀧の言い出しそうなことは想像がついてしまい、俺は止めた
「なんも言ってないけど…」
なんも言ってなくても分かるよ
そんな血眼になって犯人捜してるんだから
「でも遊ばれたって、可哀想だし…」
きっと瀧はいいお兄ちゃんなんだ
だから妹の言い分を100%信じている
俺は人の色々を見てきたから瀧の妹が可哀想とも、藤原が悪いとも思えなかった
「それ、本当に可哀想なのか…?」
お前の妹を否定しているわけじゃない
「…は?!どういう意味で言ってんの?」
瀧…キレたらそんな顔…するんだなぁ
「事情は分からないけど、妹さんもいい大人だろ、って…」
「そんなの男が悪いに決まってんだろ!!」
だから…深夜だというのに吠えやがって…
クレームが来たらどうすんだよ
「…もういい一条さんに聞くんじゃなかった」
瀧はバタバタと大股で歩き
そのままドアを出て行った…
あ~あ怒らせちゃったなぁ~
なんだよ
俺のケツ狙ってた割にはすぐキレんじゃん
俺より妹が可愛いのかよ…まぁそれはそうだよな
癇に障る言い方をした俺も悪いけどさ、あんなに怒鳴り散らさなくたっていいだろ
「シスコンだりぃ~…」
俺が気にしたって仕方ないこともある
風呂に入って酒を飲んで寝ることにした
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