愛してると伝えるから

さいこ

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筋肉

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   俺は支度をして買い出し前にカフェに寄った

   なぜなら今日は、腹を空かした瀧が一緒だからだ

    
   あの気まずい目覚めから…

   「俺買い出しとか行くからもう支度するわ」

   そう言って遠回しにお前は帰れと伝えたつもりだったが

   「じゃあ俺も手伝うよ、暇だし」

   と、瀧は絶対帰らないマンになった

   口論するのもバカバカしいので好きにしろと連れて出たが、腹が減って死にそうだと言い出した(怒)

    
   こうして買い出しの前にカフェに居る

   「早く食えよ…つか、お前ここでゆっくりしてろよ俺は仕事行くから」

   「ひょっほはっへ!(ちょっと待って)」

   …ふざけてんのかこいつは
   俺はこれから買い出しを済ませて店の掃除もあるんだぞ…

   瀧が最後の一口を放り込んだのを確認した

 「おい、もうそのコーヒー持って出ろ」

   なんとか瀧を急かして車で買い出しに出た


   店に着くと結構ギリギリの時間だった
   瀧には「動くな」と指示を出し、急ぎ足で上から下へと掃除を済ませた

   外の看板を点けて、残りの時間でニュースに目を通す

   まったく…とんだドタバタじゃねぇか
   休みなんだからどっか出かけろよ


   「お水ちょうだい」

   当たり前のようにカウンター席に陣取った瀧が言った

   常温のペットボトルをそのまま出したいところだったが営業中だ、そんな雑なものを人に見られでもしたら俺が不愉快だ

   いいグラスに氷を入れいい水を出してやった

   「…どうぞ」


   それにしてもこいつはずっとここに居るつもりなのか?

   「お前、ここに居たって暇だろ?帰れよ」

   「ん~…帰っても暇だし、一条さんの仕事を見学させてよ」

 小学生の工場見学かよ…
    
   「じゃあ酒飲んで金使えよ」

   今日は瀧の伝票もしっかりつけるからな、グラスが空いたらどんどん出してやる


   カランコロン…

   「いらっしゃいませ」

 落ち着いた濃紺の、細身のスーツに身を包んだ男性が入ってきた
 彼は知った顔だ…最初の1杯はビールから

 「今日もお疲れ様でした」

 そう声をかけ、グラスに注いだギネスを出す


 「マスターも一緒に飲んでよ」

 彼は出されたグラスに口を付けずにそう言った
 俺は自分にも同じものを用意してから 

 「…いただきます」

 と、同時に飲む

 
 彼はごく普通の企業に勤めている
 定時であがればこうして早い時間に顔を出す

 そしてゲイで生きづらいと話してくれたことがある…瀧に話したい←

 ただ今日は知らない人(瀧)がいるので、どこかよそ行き顔だった…


 「ジムにはまだ通ってらっしゃるんですか?」

 彼は細マッチョというか、どこまでが細マッチョの範囲なのか曖昧ではあるが、身体を鍛えるのにハマっている

 確かに薄着になった時なんか男らしい体躯が露になって羨ましくはある
 俺はそういうのは頑張れないけど
 
 
 「うん、今度一緒に行こうよ」

 「いやいや私なんて基礎体力が無いので、そんなところに行ったら死にますよ…」

 シェーカーを振るしか出来ないから無理!
 そんなどうでもいいような話をしながら酒を飲む、今日も平和だ

 瀧のグラス(水)が空きそうだ、アレの用意をしておくか

 
 「失礼ですが、お兄さんも体鍛えてたり…しません?」

 瀧が絡まれる
 筋肉野郎は仲間を見つけたがるんだよなぁ~、頑張れよ瀧…

 「あ…え?俺ですか?」

 うんうん、と満面の笑みで頷いてるぞ

 
 「自分はなんにもしてないです…」

 「へぇ~そうなんだ…じゃあ元々ガッチリしてるんだなぁ、かっこいいね~」

 あっ!…これはもしや褒めて口説こうというやつか?
 こいつもお仲間だって瀧に教えてやりたいよ

 瀧の空いたグラスと交換でインペリアルフィズのグラスを出した


 「…俺もだけど口説かないでね、タイプじゃないから」


 おお、瀧には分かったんだな…
 なんか通ずるものがあったんだろうか

 俺にはさっぱり分からないよ


 「おや…そんな言い方するもんじゃないよ、可愛くないって言われちゃうよ~?」

 むむ…なかなかギスギスしてきたなぁ

 「相手が可愛いんで大丈夫でぇ~す!」

 俺、挟まれてここに立ってんのツライ…


 「可愛いお相手が居るの?…僕はマスターみたいな知的な大人がいいけどなぁ~」

   おい瀧、タゲ取りちゃんとしろよ!
   こっちに回ってきたじゃねぇか

 「お次はいかがいたしましょう?」
 
 ちょうどビールのグラスも空いたところで話題を逸らす


 「ん~、マスターがなら…何を出してくれるだろう?」

 「…そうですねぇ」

 俺は迷わずワイングラスを用意する
 ミキシンググラスで赤ワインとクレームドカシスをステアし、ワイングラスに注いで出した


 「カーディナルでございます」

 深紅が美しい大人のカクテルだ
 彼はしばしその色を眺めて楽しんだ後、口へと運ぶ

 「…へぇ、香りも素敵だし…なかなか情熱的なんだなぁ~」

   「ありがとうございます」


   …彼はさっとそのグラスを空け

   「いやぁお喋りし過ぎたよ今日は…そろそろ失礼しよう」

   そう言って帰って行った

   「またお待ちしております」


   やれ嵐が去ったというところで、ちらほらと客が入り始めた
   客と同伴のホスト、若い女性の2人連れと続き、しばし挨拶とドリンクの提供で瀧を放置する

   瀧はさっきの筋肉に気分を悪くしただろうか
   そんな事を気にする一方で、まぁヤツなら平気だろうという気もしている


   「お待たせいたしました」

   瀧の元に戻るとグラスが空いていた
   ずっと同じものだけを出しても飽きるだろうと、別のものを出すかと聞いた

   「じゃあさっき出してた赤いやつ…とか?」

   「…かしこまりました」


 俺はタンブラーを用意しカットしたライムや砂糖、ミントの葉を入れてグラスの底で潰す

   「ぜんっぜん赤いやつの要素が無いんだけど、何作ってるの?」

   瀧の発言はスルーして、グラスいっぱいにクラッシュアイス、ラム、そしてソーダを注いで最後にミントを添えて出す

   「モヒートでございます」
 

 
   しばらくして狭い店内がいっぱいになった頃
   瀧は出されたグラスを空けると 

   「マスターそろそろおいとまします!」    
   
   そう言って10:00頃になると店を出て行った


   まぁヤツとはまた互いの休みのときにゆっくり話せるだろう
   どこかそんな安心感があった


 そうして俺はマスターの顔をして仕事をした                     






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