愛してると伝えるから

さいこ

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傷心

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 瀧が普通に引き下がった…

 帰り道を歩きながら妙な寂しさを覚える

 
 え?明日は休みだから遊びたいみたいなこと言ってなかった?
 それに今日はあの人とセックスしたからってヤキモチ焼いてなかった?

 それなのに…普通に飯行こうねって…

 俺がお前とセックスは違うとか言ったからか?



 部屋の鍵を開け、電気のスイッチを入れる
 俺は1人の静かな時間が好きなのに、今日は傷心おじさんだ、なんだか寂しい

 こういうときこそあいつのウザ絡みでギャーギャー騒いで飲んで寝てしまえば良かった…なぁ


 でもあいつの都合のいい処理係にはなりたくねぇし、それを思うと部屋で2人きりにはなりたくなかった


 さっきまで腹がいっぱいで死ぬほど眠かったはずなのに、1人になった途端すっ飛んでしまった

 とにかく飲んで寝てしまおうと
   適当なボトルを取って飲み始める
 
 
 ブーブーブー…ブーブーブー…

 俺のスマホが鳴った
 

 「…はい」

 「今下に居る…」

 「こっわ!!!」

 メリーさんかよお前は


 「俺さぁ分かったから、一条さんが嫌なことはしないから…」

 「お、おぉ…しないから?」

 「だから一条さんが寝るまででいいから…一緒に飲んでお喋りしたい…」



 これに屈したら負けになるだろうか
 自分が寂しいときだけ許すのはズルいだろうか

 それでも今は、誰かと居たい…


 「…開けるから上がって来て」


 俺は一瞬迷ったが
 オートロックを解除して通話を切った



   「お前…まっすぐ帰らなかったのかよ…」

 さっき別れたばかりなのでなんとなく気まずい

 「だって最近アレ作ってくれないじゃん」

 ああ…アレかぁ

 「じゃあ座れ、デカいのにフラフラされると邪魔だろーが」

 もう何回作らされたか分からないオシャレなハイボール…


 スコッチウィスキー・ホワイトラム・レモンジュース・シュガーシロップをシェークして、氷の入ったグラスに注ぐ
 そこに炭酸水を注いでさっと混ぜたら出来上がり

 
 「ほれ、祝え祝え」

 「え?なんのお祝い?」
  
 「は?俺が女と切れたって喜んでたじゃねぇか」

 
 「そんな顔してる一条さん見たら、祝えないよそんなの…」

 え?そんなに酷い顔してる?俺…

  
 「あの人のこと好きだったんでしょ?…いいんじゃない?しばらくは寂しいぃ~~って泣いてもw」

 お前さぁ、最後に必ずトゲ仕込んでくるのなんで?性格が悪いのかな?

 それが無かったらいい事言ってたよ今


 「…同年代なのにさぁ、妙に少女みたいな清楚さがあって」

 「ふぅ~ん?」

 「でもセックスしたがったり、ああやってバカみたいに金投げて回ってさぁ…」

 「ブッ…!200万てね…」

 
 「ちょっと壊れてて可哀そうだって思って…同情だったのかなぁ…?」

 「…だとしても、あの人も救われたからそんだけ包んだんでしょ」 

 なんだよ…
 普通に話聞いてくれちゃって

 おかわり作ってやるからどんどん飲め…
 
 
 「てゆーかさ、お前はどうしてんのよ?セックスとか」

 恋人が居るようなことは言ってないし、俺で抜いてるとかいう精神攻撃はしてくるし


 「若い頃はね、ゲイ同士と分かったら誰とでもすぐセックスしてたけど」
  
 「それはビッチ過ぎるだろ、ちょっとは選べよ」

 こいつの性事情は随分フリーなんだな
 
 
 「でも今は、自分が好きだと思える人と一緒に居たいしその延長でセックスもしたい…と思ってるところ」

 「だいぶ保守的になったなぁ」

 色んな経験を積んで考え方は変わっていくもので、今の瀧は安定したパートナーを求めているのだろう
 愛する人と過ごす時間、か…
   特別な甘い匂いがするよな
 

 「でも俺仕事の時間もメチャメチャだし、ゲイの男は平気で浮気するしで…恋人なんて一生作れる気がしない」

 「へぇ…お前も?浮気すんの?」

 「本当に好きってなったら…しないんじゃない?」

 なんか、その言いぶりはあれか?
 まだ本当の恋をご存じでない…のかぁ?


 「ふーん、へぇー!そうかぁ…」

 「…なにぃ?キモいんだけど…」

 「で?…俺のことは?どれくらい好きなの?」

 俺の寝込みを襲ったんだ
   嫌いじゃないんだよな?


 「そういうの、聞かない方がいいですよ…ただの飲み仲間なんだからさ」

 まぁ…確かにな
 こうしてしょーもないことを飲みながら話せる仲間が居るってのは嬉しい

 瀧もきっと手が空く時間が俺と似たり寄ったりだからわざわざ俺のところに来るのだろう

 普通に気の合う?友人が増えたってことだ…



 ーーー2時間後



 「…なぁ、泊まれよぉ~」

 「一条さん…?どうしたの?バカになっちゃったの?」

 「今日はさぁ、独りで冷たいベッドで寝たら死ぬ気がするんだってぇ…」

 お前は何のためにそんなに体がデカイんだ?   
   寂しくて崩れそうなおじさんの1人や2人あっためてくれよ…!

     
 「一条さんのベッド…広くていいけどさぁ」

   そうだよ、お前はなんであんなギリギリのシングルベッドで寝てるんだ?
   足りてねぇだろ、買うか?買ってやろうか??


   「は~い、もう寝な~ダル絡み禁止~」

   …俺は仕事なんだから寝るよ、隣に居てくれよな

   「…ゆっくり寝て、暖かくしてあげるから…」


   俺がいつも寝る向きで横になると、背後から瀧の体温と心音が伝わってくる

   あったけぇなぁ…


   心が寂しい時は人肌を感じていたい
   それだけで少し安心出来るから



    
   ピピピピピ…ピピピピピ…

   もう起きる時間?
   やだぁ…まだ寝たい…全然寝てない…疲れが取れない…

    
   とりあえずアラームを止めてついでに仕事のスケジュールを確認する
   変則的な予約は無し!ヨシ、もう少し寝よう!


   …あれ?
   そういえば瀧は??

   瀧はベッドに居なかった
   そーっとキッチン付近を見ると瀧のクラッチバッグは置いてあった…
 
   ん?トイレか…?


   そろそろと廊下へ向かい
   少し耳に神経を集中してみる
   
 …お、居る居る

   トイレから瀧の声が聞こえた
   何を言ってるかは分からない

   部屋の中に居たのが分かりベッドに戻ろうとした時…


   「…んっ、……あぁっっ!!!」


   という、セクシーな声を聞いてしまった…

   これはまずい!とパニックになっていると
   ちょうど「ジャーーーーー」と水を流す音がしたので、その音に紛れてベッドへダッシュした

   慌ててベッドへ滑り込み寝たフリを決め込んだ

 ちょっとびっくりしただけだ、大丈夫、静まれ俺の心臓ー!
 

   少しするとトイレのドアが開き、足音がこちらに近づいてくる…

   瀧のほうへ背中を向けている俺
   ベッドがギシッと音を立てて沈み込み、そこに瀧の体温を感じる

   俺の腕をスーッと撫でる瀧…


   いや気まずい気まずい気まずい…!


   「…んん」

   と声を出してみる

   さすがに2回目のお触りは無かったが、黙っているのもしんどくて起きたフリをする


   「やべ、アラーム止めちゃってた…」

   のそっと起き上がる俺(起きてた)
   瀧はしれっと


   「おはよう」

   と言った…





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