愛してると伝えるから

さいこ

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パニック

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   「ときにマスター、あの文学少女はいらっしゃいますか?」

   「ええ、慶さんですね…」

   彼女はしばらく顔を出していない、なぜなら理人となにやらガタガタしているような話を聞いた
  
   慶ちゃんとは→理人の彼女である(喧嘩中)

   しかし栄様には何とお伝えしたものか…


   「生活の変化があったようでしばらくお見えにはなっていないですねぇ」

   「あぁ…それはまた大変なことだ…」

   老紳士を変に不安にさせたくはなかった


   「ですが、慶さんも栄様とすれ違いで悔しがっておいででしたよ…私から聞いたことはご内密にお願いします」

   「おやそうですか…私も少女に会えるまで通わなくてはねぇ…ははは…」

   そうして彼はストレートを2杯空けて帰った

   波多野には階段上までお連れして通りでタクシーを捕まえるよう伝えた



   「…ご機嫌でお帰りになられました」
 
   「はは、ご苦労様」

   「しかしあの紳士、文学少女と呼ぶ方を気にされているんですね?」
 
   「そう、趣味の話が出来る仲間って感じでね…おじいちゃんと孫だよ、見てるとさ」

   「はぁ…心が暖かくなりますねぇ」

   本当にな、この3年でこうした素敵な人にも通ってもらえているのは嬉しいことだった  


   「なかなかいいだろ?…でもそろそろクソみたいな奴が入ってくる頃かな…」

   そう言った3分後だった

   カランコロン…

   「いらっしゃいませ」


   根暗そうな女と肩を組んでチャラチャラした若い金髪の男が入ってくる

   「マスターまいど~」

   駅前の大箱ホストクラブで働いているホストだ

   「…失礼いたします」

   おしぼりを手渡す波多野に反応する

   「あれ?お兄さん初めましてだねぇ」

   「はい、本日からこちらでお世話になります、波多野と申します…」

   いいぞ波多野、その笑顔が後から効いてくるんだ
 

   生意気なホストはご機嫌でスパークリングのボトルを頼み女と一緒に飲んだ

   最初は女の機嫌を取るような会話をしていたものの、途中で飽きたのか波多野に絡んできた


   「お兄さんホストやれば稼げると思うなぁ」

  「いいえ、私など口ベタの役立たずでして、皆様方のご機嫌を損ねてしまいそうです」

   「なぁ、姫も分かるだろ?この感じウケると思うけどね」

   隣の女も苦笑いしてるぞ、そろそろやめとけよ

   波多野はホストのバカ丸出しの話を綺麗に捌きながら、空いたグラスに次々とスパークリングを注いでいく…タイミングが鮮やか

   そしてなにより俺が楽!!!          
   
  
   まぁ高みの見物は長くは続かなかった、パラパラと客が入ってくる時間となる
   波多野もバカから離れ、各席に回りオーダーを取り始める

   俺はオーダーを消化しながら波多野の動きを見て休憩を取らせた

   やっぱいいな波多野
   現場を知ってるから動きもいいし「アレ取って」が言う前に分かるとかえらい!


   そして0:00になると落ち着く店内
   洗い物をする波多野に声をかける

   「お前明日も仕事だろ?初日から無理しないでもうあがれよ」

   「はい、これが終わったら…」

   タイムカードだけ忘れるなよと伝え、波多野はバックルームへ下がった

   着替えて出てきた波多野は律儀にドア前で俺に会釈をしてから出ていった
   …可愛いじゃん
   
   
   そうして見習い初日は終わった

   俺は、お客様とは別で波多野の動きも見ていたのでなんだか倍疲れた気がした

   俺は残りの客を見ながら片付けを始めた
   最後の客を送り出したら終わりだ、早く帰って寝てしまおう



   カランコロン…

   えっ?こんな時間に?

   「いらっしゃいませ」

   
   入ってきたのは瀧だった

   「…あれ?バイトの子は?」

   「もうあがったよ、お前何時だと思ってんの」

   「ラストまで居ないんだ」

   あいつは会社員だよ、お前みたいにこんな深夜まで遊んでる人間とは違うの、まったく


   そしてラストの客が会計を済ませ出ていった

   「またお待ちしております」

   俺は外の看板を消灯しドアに「CLOSE」を出し、中から鍵をかけた



   「お前は?どうせ暇で遊びに来たんだろ?」

   「つか、一条さんも今暇になったでしょーよ」

   確かに今仕事は終わったよ
   でも今日俺は遊びに出る気力はねぇって…


   「今日は疲れた…ここで飲んで帰れ」

   「…ん~、ダーツは?」

   「お前ねぇ、完全に俺にたかってんじゃん」

   俺は氷を入れたグラスを2つ、カットしたライムを皿に盛り、コーラのボトル、ラムのボトルを瀧の前に置いた

   
   グラスにライムを絞り目分量で酒とコーラを注いで瀧に見せた

   「いい?覚えた?これがキューバリブレね」

   もう俺は酒を飲んで寝たい
   瀧の隣に座り、俺は瀧の作った酒を飲むだけだ


   「瀧、お前バーテンダーのセンスあるよ」

   「…はぁ?これが一体なんの酒かも知らないで飲んでますけどねぇ、まぁ美味いけど」

   
   そうしてお喋りしながらしばらく飲んだ
   瀧は俺の3倍の速さでグラスを空けていた…

   疲れた俺は途中から瀧の話も聞こえていなかった


   「…一条さん、それ危ないから」

   手に持っていた煙草の灰が落ちそうだった
   とりあえず灰皿で火を消した

   瀧悪ぃ、俺はもう限界だ…

   「ダメだ、俺…荷物持ってくる」

   開かない目でとりあえずバックルームへ荷物を取りに行く


   デスクに俺のバッグがあるのだが
   手前のソファーで少し横になりたいな…

   俺は素直にそこに横になってしまった



   ーーー
 


   …んん

   めちゃくちゃ気持ちいい…

   たまにこういう夢あるよなぁ…神

   

   「…んっ、あぁ…イきそう…っ!!!」

   

   …あ~~~



   すんげぇ気持ちよかっ…た……?

   …って…なんか……



   「…イッちゃったの?…可愛い、一条さん…」



   「………ぇっ?!」




   瀧の声が聞こえて、ビックリして目が覚めた

   
   ソファーで横になっている俺の横に
   瀧が膝をついて…その瀧の大きな手が、俺の…ナニを…握っていた…

   「あんな声出すなんてズルいってぇ…」



   ドッ…ドッ…ドッ…ドッ…ドッ…

   どうしてこんな状況になってるのか頭が回らなかった、パニックで心臓がぶっ飛びそうだ…


   「ティッシュ、ティッシュ…」

   瀧はソファーから離れて箱ティッシュを持ってきた
 そして涼しい顔をして俺が出したであろう体液を拭きとっている

 …狂人か?
 

 「一条さん俺帰んなきゃだから、またね」

 気まずいのと、どうしてこうなったのか分からないのとで、俺は瀧の顔を見られなかった…

 「…おやすみ」

 瀧はそう言って、俺の頬にキスをして出ていった 
   

   
   俺は…頭がぐるぐるしたまま
   とりあえずソファー周りを掃除した

   ……俺の大事な店で、波多野が休憩に使う場所で、どうしたらああなるんだよ…!






    
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