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見習い
しおりを挟む「では火曜からよろしくお願いします!」
そう言って波多野は帰って行った
俺は瀧と先日入った焼肉屋に向かう
「なに、あの人バイトかなんか?」
「なんか修行させて欲しいって来たから…」
「へ~弟子ってこと?」
「まぁそうなんだけどさぁ…俺が自信ないわ、人に教えるとかやった事ねぇし…」
店に着くと生ビールを2つ頼んだ
「ハイボールじゃなくていいのかよ?」
「うん、なんか最近ハイボール好きじゃないかもしれない…」
と、不思議そうな顔をする瀧
まだ気づいてないんだぁ…バカだねこの子は
瀧に酒の話はしないけど
好みはあれど、なぜ酒がピンキリなのかってことだ
…化粧品だってそうだよな?
安くていい物もあるにはあるが、高価なものの威力は絶大だろ?それと同じだよ酒も
瀧はそうとは知らずに安酒が飲めなくなっているわけだ…可愛いかよ
瀧はサラダやスープ、大盛りご飯を用意して飲みながらガッツリ食べる気のようだ
「ねぇ一条さん、飯食ったらダーツ行く?」
行く?じゃねぇだろ
行くんだろどーせ
「…お前完全に俺にたかろうとしてんなぁ」
「今日は俺負けるかもしんないじゃん、分かんないって!」
…分かってる顔して何言ってんだよ
まぁいい、安酒が飲めなくなったのは俺のせいだしゲームにくらい負けてやらぁ…
そうしてダーツバーへ移動した
何回ゲームしたか覚えてないが、案の定俺が負けて俺が払った
瀧は今日もご機嫌だ
「おい、もう二度とやらねぇからな俺は」
「ちょ…好きになっちゃうからやめてってw」
この変態野郎が…
「じゃあな」
俺はまた駅の反対口へと歩き始めた
「おやすみぃ~~」
背中で聞く瀧の声
子供みたいに喜びやがって…
それでも俺は、こうしてガキみたいに付き合える友と余計なことを考えないで過ごす時間が嬉しかった
部屋に戻ると風呂へ直行する
そして風呂上がりには酒を飲む、どんなに外で飲んでてもまた飲む
スマホを持ってベランダへ出る
煙草に火をつけて深く吸い込んだ
瀧からメッセージがきていた
駅前の広告を見たか…って?
どの広告よ?
俺は「見てません」と返した
見に行くのめんどくせーから写真送れよな
そうして俺の休日は終わっていく
少しだけ、あの歳のいったマスターのことを思い出した
俺が店をやめる時はどういう終わり方になるんだろうな…
まだ店を持って数年の俺が考えることじゃないんだろうが、俺にはあのマスターみたいに息子さんは居ない
…いや待て、そういえば波多野という息子(弟子)が出来たんだよな俺にも
そっか、何かあればあいつを頼ろう…
俺は少し幸せな気持ちで寝た
ーーー
波多野は普通の会社員だ
週に3日は出社、残り2日がリモートワークとなっている、土日祝日が休みとこのことだった
平日2日のリモートワークの日と土曜に俺の店で見習いを始めることになった
俺は今のところ面倒を見るつもりでいるが、まぁ本人がやってみてしんどくなったらやめるのは自由だとも思っている
波多野には17:00に店に来るように伝えた
俺はいつものように買い出しを済ませてから店へ向かった
階段横のベンチに紫頭の波多野が座っている
「マスターおはようございます」
「はいよろしくね~」
店に入ると右の通路の奥にバックルームがある
波多野をそこへ案内する
「1番奥のロッカーの鍵、コレお前に渡すな?着替えたら出ておいで…あ、スマホは持ってきてな」
「承知いたしました」
俺は買い出しの物を片付け掃除に手をつける
少しすると波多野が出てくる
「本日よりよろしくお願いいたします」
綺麗な白シャツに黒ネクタイ、黒のベストと細身のスラックス、そしてきちんと手入れがされている黒の内羽根ストレートチップ…
清潔感あるぅ~
「あの、コレは何のためでしょうか?」
手には言いつけ通りスマホを持っていた
「あ、そうそうお前に仕事与えるからさ…」
俺は店のSNSアカウントの権限を与えた
波多野が出勤の日は、波多野に開店のお知らせ等の更新をやらせようと思って
「初日はほら、今日からよろしく~みたいなのをさ、自撮り付けてあげとけよ」
「少々お時間ください…」
そう言って波多野は店内の照明の良さげな場所を求めてフラフラと歩いた
「マスター確認をお願いします」
どれどれ…
ーーー
本日より見習いとしてお世話になります波多野と申します
どうぞ皆様よろしくお願いいたします
本日も19:00より開店
皆様のご来店をお待ちしております
BAR 誉
ーーー
「…なにこれ?証明写真?」
波多野の硬い表情が面白かった
「いやちょっと、そこは初日の緊張感という事でいかがでしょうか…」
「うん、いいねそれあげといて」
それから掃除を始め、在庫や冷蔵庫、冷凍庫、裏のキッチン周りの案内等々を済ませた
そして上の看板を点灯してドアのプレートを「OPEN」にする、店内BGMを流して準備完了となった
「いいか、藤原の店みたいに声張るなよ?」
「…はい、心得ました」
波多野は静かにそう言った
カランコロン…
「いらっしゃいませ」
波多野が最初に迎えたのは、栄様という老紳士の常連さんだった
「いやぁご無沙汰しちゃってね…」
「いいえ、お元気そうでなによりです」
この紳士はお気に入りの銘柄をストレートで楽しむのがお好みだ
ステムのついたグラスに注ぎ、加水用ピッチャー、チェイサーと共に出す
チャームも紳士がお気に召したレーズンバターとナッツを出す
「ここは変わらないでくれて有難いよ」
彼は月に何度か顔を出し短時間でスッと飲んでお帰りになる
「実は本日から見習いを置くことになりまして、ご挨拶させていただきたいのですが…」
「ああ…若者、君だね?」
彼が波多野の方へ顔を向けた
「はい、本日よりお世話になります、波多野と申します…どうぞよろしくお願いいたします」
「まぁそう硬くならず、老人のお喋りに付き合っていただけると嬉しいです」
老紳士は世間話をポツポツとしながら酒を楽しむ、その姿がとてもカッコイイと思う
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