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ゲーム
しおりを挟む店に到着するとまずは掃除をする
俺の手で誰よりも綺麗に仕上げる
いい加減な人間にだけは任せたくない仕事ナンバーワンと言っても過言ではない
それを藤原は若いスタッフに任せられるんだ、ああいうのが人を使えるタイプなのかもしれないな…
俺は現にバイトの1人も入れられて無い
「さぁ、今日もチャリンチャリンだ…」
俺は外の看板をつけようと外に出た
すると、階段横のベンチに座る人影があった
俺は看板をつけると階段を下りる
「あっ、マスター!」
ん?と振り返ると、ベンチに座っていた人が立ちあがっていた
「あの、開店前にすいません…」
な~んか見たことあると思ったらあれだ
昨日1人で来てた小僧だ
「いえ…今開けましたからどうぞ」
小僧をカウンターの端に通す
「昨日はお気に入りの1杯はございましたか?」
こんな小僧でも酒を楽しむという最高の趣味を持っている男だ
俺は気に入っている
「ええもちろん、どれも好きです…」
頭は紫だけどいい子だな
「…マティーニをいただけますか」
へぇ、バーで頼んだらかっこいいヤツね
男なら一度はやってみたいよな
「かしこまりました」
ベースのジンに少しのベルモット
ピックに通したオリーブを添えレモンの香りを纏わせたグラスを出した
小僧はその透きとおった色味を目で楽しんでから香りを吸い込み口をつける
お高く留まった女のように、美しく盛った生ハムとチーズをチャームで出した
「はぁ…マスター、素敵ですねぇ…」
小僧はなんだかしみじみとそう言った
「ありがとうございます」
なんだか知らんが気に入ってくれている様子だ
「あの、ここで修業をさせてもらえませんか?」
…ん?
修行って、修行?俺の想像してる修行で合ってる?
俺の店で学びたい、ってこと?
「いや、正直そういうの考えたこと無かったなぁ…」
俺は小僧に対してどうこうよりも、自分がどうしたいかをまず考えないと返事も出来ねぇなと思った
カランコロン…
「…いらっしゃいませ」
そうだ、俺はここからの時間忙しい
一旦小僧を待たせてドリンクのオーダーを取る
「お前、営業前か後か…日曜とか…とにかく今は話すの無理だわ」
そう言って連絡先を交換した
小僧は最初の1杯だけで帰っていった
…しかし修行ってなぁ~
もちろん俺も酒のひとつも知らない頃に勉強からはじめたんだ
受けるにしろ断るにしろ、俺にも考える時間は必要だ
そうしてぼんやりしているうち時間は過ぎた
カランコロン…
「いらっしゃいませ」
「あ、はじめてなんですけど…」
そう言いながら歩いてきたのは瀧だ
「…こちらへどうぞ」
時計を確認すると、もう1:00を過ぎていた
そうか、このあと飯に行こうという話だったな
とりあえず飲んで待ってろ、と
瀧が気に入ったインペリアルフィズを作って出した
「…うまっ」
瀧が居酒屋の酒と比べてうまいと言っていることに少々違和感は覚えるが、まぁ許そう
店内に残った客も帰っていき、片付けをした
「荷物もってくるわ」
瀧にそう言って俺はバックルームに移動する
1日働いたシャツを脱ぎ、首の楽な緩いニットに着替えた
店の戸締りをして今日のお仕事終了だ
「さぁ腹減ったから食うぞ~」
「一条さんなにが食べたい?」
「…肉?」
「じゃあ反対口の俺のホームに行こう」
瀧は駅の反対口がホームなんだ…
ん?反対口が…??
俺はほぼ反対口へ用が無く行くことも無かった
駅から少し線路沿いを歩いて、汚い雑居ビルの1階に入っている店に案内された
「ここは朝までやってるんで」
なるほど、深夜2:00を回るとさすがに我儘は言えないってことね
瀧はハイボール、俺は生ビールを頼んで乾杯した
「………?」
好きなはずのハイボールを一口飲んで不思議そうな顔をする瀧
「どした?」
「いや、なんか…変な味がする…」
あ~それはアレだ、さっきうちのものを飲んだからだよ
「なぁ、こういったとこの酒は安く出せないとしんどいだろ?だから、な」
「…だから…なによ?」
え…本気で聞いてる?
だから…
安い酒を使ってるからうちで出してる酒とは違ってお粗末な味だね!
…って言わないとお分かりにならない?
「そういえばお前、俺んとこに住んでるんじゃないの?」
こいつと酒の話はやめよう…
「いや、ここのそばに住んでますよ」
「じゃあなんであそこに出入りしてたの?」
話を聞けば、瀧の妹さんが最近うちのビルの4階に越して来たらしく、それを訪ねて来たらしい
「そしたらさぁ、急に声かけられたから心臓出るかと思った…」
俺がお前の立場だったら即立ち去ってたと思うよ、あそこで出くわしたのがお前で本当に良かった
「…でも彼氏になってくれたじゃん?俺の」
「………」
あらら、そこ照れちゃうの?
かわいいねぇ
「その後どうした?あの女は…」
「あれからすっかり見ないよ、ショックだったんだろ?」
俺の仕事は勘違いされることが多いから
でも勘違いさせたから悪い、ということでは無い
そのはっきりしない勘違いを楽しんで通う女も多いんだから
会計を済ませ、その店を出た
「ダーツでもやる?」
瀧がそう言うので付き合うことにした
さっきの店から少し歩いて狭そうな雑居ビルの5階にあがる
ダーツバーと書いてあるドアに入った
入り口を入ってすぐにバーカウンターがあり、奥にはテーブルやダーツ台が並んでいた
こんな深夜に結構な賑わいだった
若い子のグループやカップル、スーツの男性と各々に酒を飲みながらゲームを楽しんでいる
「俺ビールたのんどいて」
瀧にそう伝え、俺は入り口付近で確認していた喫煙ブースへ向かった
煙草に火をつけ吸い込む
煙を吐き出しながら学生時代を思い出した
夜な夜な安く遊べる店を探して遊んだ
カラオケやプールバーによく行ってたっけ
もう、いつからかそういう風に遊ぶ年齢ではなくなってしまった…
一服を終えテーブルに戻ると、瀧がすでにアップを始めていた
「おい!先にやんなって」
「久々だからちょっとだけ投げさして…」
そうして俺もむきになってダーツを投げた
瀧は久々だと言ったが、俺は最後にダーツをしたのが20年前くらいだと思う
もちろんゲームには負けて
「…もう1回」
と、やめられなくなった…
「俺、まだイケるなぁ~」
と、瀧がニヤニヤしている…
結局ゲームに負けた俺が会計を持つことになった
まぁそれはいい、別に金には困っていない
ただ…こいつのニヤケ面が非常に不快だ…
「…じゃあな、もう二度とやらねぇからな俺は」
俺はちょっと拗ねた
「またまたぁ、そんな可愛い顔しないでよ~、俺そういうの燃えるタイプだって」
ははは~!と笑う瀧
…この変態野郎が
お前の性癖なんか知るかってんだ
「…またな」
そう言って俺が帰ろうとしたとき
瀧がガクンと座り込んだ
「…おい」
「いや、大丈夫です…」
そう言って立ち上がった瀧は、またすぐにヘロヘロと座り込む
「すいません、ちょっと…あの、帰れるんで大丈夫です」
大丈夫じゃないヤツが言うんだよな大丈夫って…
「家近いの?」
「あのラブホの、隣に…」
瀧の指す方には確かにラブホのネオンが見えていた
タクシーに乗せる距離ではないが、かといってこの巨体…
俺が担ぐほか無いよなぁ~
「ほら、じゃあ歩け!」
瀧をなんとか立たせ肩を貸して歩くが、瀧がフラフラするから俺の方が持ってかれそうになった
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