愛してると伝えるから

さいこ

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大家さん

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 俺はここで店を開けて4年目を迎えていた

 以前世話になった人がバーの経営者だった
 そこに務めていた責任者が辞めるタイミングにたまたま遭遇して

 それがバーテンダーという職業に出会った瞬間だった


 それまでの俺のバーに対するイメージなんて
 「居酒屋より金がかかる」という程度のものだったが
 
 その認識が一変することになる…


 酒を提供する夜の仕事

 お客様の好みを記憶するのは得意だった
 好きな味の傾向、煙草の銘柄、趣味、職業…と色々あるが

 自身のことを覚えていてくれたと喜ばれるわけだ
 それは俺の店で気持ち良く支払いをしてもらえるよう俺からのサービス


 そういう「仕事上のサービス」を女性客は勘違いしやすい
 
 カウンターに立っている間はひどい化粧でも素敵だと言わざるを得ない
 アパレルショップで「お似合いです」と言われるのと同じ原理

 そうだと分かっても意外と褒められると嬉しいのが人である

 
 そして俺の店は「贅沢な時間を過ごせる空間」を売っている
 カジュアルな店とは明確に線を引いてコントロールする
 
 下品な遊びに飽きた大人が通う場所、特別な人と2人で飲む場所
 そして若者にこそ、こういった大人の通う店があるのだと知って欲しい思いで商売をしている



 俺は一条 誉いちじょうほまれ、今年39歳になった


 仕事的には年齢を重ねれば重ねるほどカウンターに立つ姿もカッコイイのだろうが
 この先も永遠に1人で雑務から仕込みからをこなすのかと思うと正直しんどい 
 
 跡継ぎなんて言わないから、バイトの1人や2人は居てもいい
 ただ俺の性格上、いい加減な人間に入られると気持ちが悪いので人を入れられないでいた

 ここは大きな駅から近過ぎず離れ過ぎず、ちょうどいい場所だ
 その分テナント代は少々張るがやっていけるだけの集客があり、4年目を迎えられている

 

 以上のように俺は自分の仕事が好きで店に立つことが生き甲斐
 そのリズムを邪魔する彼女などは必要ないということで、独身である

 まぁセックスする相手はいるしなんの不便も無い

 
 店の定休日は週に1回、日曜日のみ 
 この休みを使って付き合いのある店を回ったりしている
 
 簡単に言えばご近所付き合いだ
 常連さんの中にはこの周辺で商売をやっている人も居るから

 
 普段は午後起きて、買い出しを済ませ店に入る
 店の掃除から準備を始め、19:00に店を開けるという毎日だ



 開店準備が終わり、外の看板を点けに出た
 
 すると先日助けてくれた大柄なあの男性が、ゴロゴロ…とスーツケースを転がす音と共にビルから出てきた

 「先日はありがとうございました」

 と声をかけた
 やっぱりここに住んでる人なんだ、今まで一度も会わなかったのに不思議だった

 その人も俺が触っていた看板を見て

 「いえ…あの、そのお店で?」

 と聞いた

 
 「はい、バーの店主の一条と申します」

 そう挨拶をしてから、先日のお礼に時間のある時に寄って欲しいと伝えた
 
 「あぁ、はい…じゃあまた」

 と、男性はまた足早に去ってしまった
 人見知り??

 しかもなに、毎日あんな大きいスーツケース持ち歩いてんの?
 なにが入ってるんだか知らないけど…


 
 そうして俺は自分の店に戻った

 
 カランコロン…

 「いらっしゃいま…なぁんだお前か…」

 「うぃーっす」

 本日最初の客はこのテナントのオーナー様だった
 
 「なんだよ?暇なの?」

 「…違いますぅ~」

 こいつは平川理人ひらかわりひと、24歳
 なんでも爺様から不動産事業を継いだとかで、涼しい顔して生きているボンボンの若造だ

 
 この駅周辺でテナント探しをするのに入った不動産屋で話をしていたとき
 この地下のテナントは決まりで、近くに部屋も探したいと伝えると

 「このビルが3階から上は賃貸の物件になってますので、大家さんに確認してみます」

 と言われ、部屋にも空きがあることが分かった

 俺は空いていた部屋を内見してすぐに決めたのだが、数日後不動産屋から連絡があり

 「テナントとお部屋のセットでお家賃を勉強してくださるそうです」

 と、聞かされた
 契約からなにから全てその不動産屋で済ませ、大家に会うことは無いものと思っていた


 部屋の引っ越しを済ませ店舗の内装工事が入っているときだった

 「こんにちは~」

 と、理人がフラッと様子を見に来たのだ
 そこで初めて大家がこんな若造なのだと知り驚いたが

 店の看板は通りから見て目立った方がいいと、地上の外看板は理人がプレゼントしてくれた

 …粋なことするよ、さすがオーナー様だな


 彼は斜め向かいのビルに住んでおり近いので見に来たと言った
 それから酒は好きだから助かると店のオープンを楽しみにしてくれたのだ

 まぁそんなことから付き合いが始まり、今ではなんだかんだといい友人だ



 「もしかして…の待ち伏せに来てんのぉ~?」
 
 俺はニヤニヤしながら理人に言った

 「ちょっとやめてって、そうじゃないから打ち合わせだから!」

 仕事の打ち合わせな…
 テーブル席がちょうどいいようで2~3人でPCを広げてよく飲みながら話している

 オーナー様だし邪魔になるでも無いし好きに使ってくれて構わない
 

 理人には想いを寄せる女性が居る
 うちの常連の女性客だ

 スラッとした長身でショートヘアの、理人より年上の女性
 1人でスッとカウンター席に座り煙草を吸いながら強い酒をゴリゴリやる姿がいい

 大人の女のエロさと落ち着きを併せ持つ彼女を、理人のような若造がどうにか出来るものか…
 乞うご期待!だな…

 そんな男と女の行く末を、時間をかけて見守るという楽しみもある、いい仕事だ…(性格)


 「あ、そう言えばある人が…ここで某ギャルのお祝いをするって風の噂で聞いたような…金曜日…」

 と俺は独り言を言った

 「…………!!!!!」

 俺の独り言に目を輝かせた理人は、スマホを開き「いける…」と言った

  
 
 決して面白がってけしかけているわけじゃない
 純粋に友人の恋心に対しての応援だ

 





 
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