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第一章 【七罪の魔王】 カイン・エレイン編

28 絶望の中の光明

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 ーーーードンドンドンドン!!

「おい、カイン!! 起きろ、起きろって!!」

 朝、アルトのそんな声と共にこの部屋の扉を激しく叩く音によって目が覚めた。眠い目を擦りながら、アルトの応対に向かう。

「何だよ、朝から……」
「そんな事言ってる場合じゃないぞ!! 街の中に魔物が急に現れて人を襲ってるらしいんだよ!!」
「はぁ!? 外じゃなくて中なのか!?」
「ああ、犠牲者も出てるらしい。俺達も行くぞ!!」
「わ、分かった」

 眠気は既に吹き飛んでいる。俺は素早く準備を終え宿屋から飛び出した。
 宿屋の外には至る所に魔物が現れており人々を襲っている。通りにある建物には罅が入り、扉も歪んでいる。中には瓦礫の山と化した場所だってある。他にも、壊れた屋台がいくつも散乱している。至る所から人々の悲鳴が響いている。

「何でこんな事になってんだよ!!」
「とにかく、何とかしないと!!」

 俺達は今にも人に襲い掛かろうとするオーガに割って入る。

「あ、ありがとうございます」
「早く逃げて!!」
「はい!!」

 そして、襲われそうになった人は慌てて逃げていった。俺とアルトはオーガと対峙する。

「カイン、同時に側面に回り込んで仕掛けるぞ」
「分かった」

 そして、俺達が両側に回り込んで、同時に斬り込んでいく。

「はぁ!?」
「嘘だろ!?」

 だが、何とオーガは俺達の剣を両手で一本ずつ掴んたのだ。一応、俺達の剣には聖気が纏っているので、魔物に対してある程度の特攻を持って居る筈。実際、俺達の剣を握っているオーガの両手からは血が今も流れ出ている。
 だが、剣をそのまま奥に押し込もうとしてもびくともしないのだ。

「くそっ」

 そして、オーガは俺達を剣ごと振り回し、後方に投げ飛ばしたのだ。投げ飛ばされた俺達は、何とか体勢を立て直し、合流する。

「どうする?」

 アルトの言葉に考え込む、実際このままオーガの相手をしてもどうしようもない。この場にいるオーガは一体だけではないのだ。そうなってくると時間稼ぎが精一杯だろう。
 そんな時、後方から足音が聞こえてきた。振り向くと、そこにいたのは傭兵ギルドの先輩、グランさんだった。

「お前ら、無事か!?」
「はい。グランさんはどうしてここに?」
「お前らの姿が見えたから急いできたんだ。それよりも、ギルドに行くんだ。今ギルドは避難した人達の拠点になってる。こんな所でオーガの相手をしても仕方がない。今は一人でも人手が欲しい、行くぞ!!」

 そして、グランさんは、煙幕玉を放り投げてオーガの視界をある程度封じると、そのまま俺達と一緒にオーガから逃走するのだった。



 グランさんに色々聞いておかなければならない事が沢山ある。俺達は事態を全く呑み込めていないのだ。俺達より先に行動していたグランさんなら俺達より情報を持っている可能性がある。

「一体何がどうなっているんです?」
「俺にも分からん。こんな事は初めてだ。ただ、教会や傭兵ギルドが避難所になっている。そこでなら、この事態を俺以上に把握しているはずだ」
「一体、聖騎士達は何をしているんです?」
「さぁな、俺もそこまで情報は持ってない。ともかく急いでギルドに向かうぞ」

 そして、俺達はペースを上げ、傭兵ギルドへの道を駆け抜けていくのだった。



 傭兵ギルドに到着すると完全武装したギルドマスターが傭兵たちを率いている。そして、色々な所に指示を飛ばす様子が見えた。
 その最中で、俺達を見つけると急いだ様子でこちらに向かってくる。

「おう、カインにアルト、お前ら無事だったか!!」
「はい。グランさんに助けられました」
「ギルドマスター、一体どうなってんだ?」
「こっちでも、情報が錯綜していてよく分からん。今は、教会と情報を共有し合ってる段階だ。ついさっきも教会から新しい情報が来た。この後、入った情報を皆と共有する予定だ」
「そうですか」
「ここまで来るのに疲れてるだろ? 中に入って少し休め。その後、しっかり働いてもらうからな」
「「はい」」

 そして、俺達はギルドの中に入り休息を取るのだった。



 傭兵ギルド内の一角にある会議室。そこにはこのギルドに残る傭兵達の半分が集められていた。もう半分はこの建物の防衛のために外に出ている。

「よし、今から教会から来た情報を伝える。心して聞くように」

 そしてギルドマスターの話が始まった。
 教会は、昨晩遅く聖騎士達による魔人達の拠点への極秘裏の襲撃を実行したらしい。魔人達の拠点と思われる、三か所を同時に攻める手筈になっていたようだ。そして、実際に出撃したはいいが、その後音沙汰が無く、夜明けに襲撃した筈の拠点から次々と魔物が出現したとの事だった。

「じゃあ、この事態は魔人達が引き起こした事なんですか?」
「分からん。そこまで詳細な情報はこちらにも来ていない。教会側もまだ詳細な情報を掴んでいないとの事だ。そしてもう一つ、これは確認が取れた情報では無い様だが、オーガロードが現れたという報告があるそうだ……」

 オーガロード、その単語に会議室内は騒然となる。俺達も驚きを隠せなかった。オーガロードと言えば、俺達が戦ったオークキングと同じく災害級の魔物だ。室内の至る所からざわめきが聞こえ、時間と共にそれは大きくなっていった。

「静まれ!!」

 だが、ギルドマスターのそんな言葉が会議室内に響き渡ると、室内は静まり返った。

「これはまだ確認が取れていないと言っただろう。だが、どのみちこれだけの被害だ。この街は放棄せざるを得ないだろう」
「そんな……」

 この中にもこの街で育ったものは多いだろう。急に生まれ故郷を放棄すると言われても、そんな簡単に呑み込む事は出来ないのかもしれない。

「仕方がないだろう。俺達の役目は一人でも多くの人達を助ける事だ」
「ですが、どうやって?外には魔物がうろついています。これじゃあ、街の外には出る事が出来ないじゃないですか」
「大丈夫だ。ここには、いざという時に備えて街の外まで繋がる地下通路がある。その通路が使えるかどうか知るために、何人か送り込んでいたが、ついさっき帰ってきた。地下通路は無事に使えるそうだ。これから順次移動を開始する」

 どうやら希望が見えてきた。この街自体は、もうどうしようも無いだろうが、街の人だけは助けられそうだ。

「無論、逃げたい者は今すぐ逃げてくれて構わない。地下通路を使って逃げてもいい。結局、命あっての物種だからな。だが、それでも頼む、一人でも多くの人を助けるために、俺と一緒に戦ってほしい」

 その言葉と共にギルドマスターは頭を下げた。その行動に一瞬この場は静まり返った。だが、

「何言ってるんですか」
「そんな事言わないでください」
「ここは俺達の故郷なんです。一人でも多く助けられるなら、俺達も戦いますよ」

 そんな声が周りから次々と沸き起こる。そんな中、俺の隣にいたアルトが話しかけてきた。

「カイン、俺も残って戦うつもりだ。お前はどうする、お前はこの街の生まれじゃないんだろ? 逃げるなら今の内だ」
「勿論、俺も戦うさ」

 アルトはここに残るという。この街の人達はこんな俺にも親しく接してくれた。なら、俺も残って一人でも多く助けたい。昨日の夜に思ったことは今でも変わらなかった。

「そうか、ありがとな」
「礼は言わなくていいから」
「じゃあ、絶対生き残ろうぜ。生き残れたら何か奢ってやるからさ!!」
「分かった」

 そして、俺達は絶対生き残る。そう堅く決意するのだった。
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