27 / 33
第一章 【七罪の魔王】 カイン・エレイン編
27 ラダスの街の夜 決戦開始
しおりを挟む《ヤット、ヨンデクレタネ》
《マッテイタゾ、クロイノ》
(えっ……?)
ハッと目を開く。
飛び込んできたのは、色とりどりに輝く光の玉たちだった。
《ドウシテボクラヲヨバナカッタノ、クロイコ》
爽やかな緑の光を放ってくるくる飛び回るのは、風のヴェントス。こんなときだというのに、ものの言い方も態度もなぜか無邪気だ。
《ソウダゾー、マッテタンダゾー、オレタチ!》
のんびり口調で言う茶色い光は土のソロ。
《ソナタガヨンデクレタナラ、イツデモトンデキテヤッタノダゾ? ワタシタチハ》
ほんの少しだけ恨みがましく残念そうなのは黄金色の金のメタリクム。
《ソンナニワレラハ、タヨリナイノカ?》
《あ。そ、そんなことっ! ご、ごめんなさい……》
《イヤイヤ。イインダヨ》
とりなしてくれたのは、どうやら青い光を放つ水のアクアらしかった。
《ジブンデガンバルノ、エライヨ。サイショカラ、ボクラヲタヨルヨリ、ズーットイイノサ》
《……ン。ソレモソッカ》
《ダナー》
《……ナルホド》
「精霊さまがたのおっしゃる通りだ、シディ。人は自分がやれるところまではやらねばならない。人事を尽くしてこそ道は開けるのだから」
《えっ。インテス様、精霊さまたちの声、聞こえるんですか?》
「ああ。普段はぼんやりとしか感じないが……どうもそなたといると、感覚が明瞭になるようなんだ」
なるほど、そんなこともあるのか。
《オシャベリシテルヒマ、ナイヨ?》
《サラガ、マタ、チカラヲマシタナ》
《えっ》
見れば精霊たちの言うとおり、《皿》はますます反発を強め、今にも《光る網》を消しとばしそうなまでに膨張していた。
《ソウダナ。ハヤクトリカカルトイタソウ》
四色の光は一度パッと散開すると、すぐに反転し、一斉にシディに向かってきた。
《えっ? あ、あのっ》
《シンパイシナイデ》
《イチド、オマエノナカニハイルンダ》
《えっ、えっ……? オレの中に……?》
《ソナタノカラダノナカデ、マリョクヲマゼアワセル。ソウシテ、ゾウフクサセルノダ!》
《増幅……》
なるほど。
どうやら、かれらの魔力を一旦シディの中で馴染ませる過程が必要らしい。
《ダカラ、トジナイデ、クロイコ》
《コワガラナイデ、ココロヲヒライテ》
《オレタチヲ、ウケイレルンダ!》
《は……はいっ》
返事をしたとたん、目も眩むようなまばゆい光が全身を包み、凄まじい魔力が流れ込んできた。体全体が熱く燃え上がり、光り輝く感覚。
あまりの衝撃で、シディは一瞬、気が遠くなりかけた。
「シディ、しっかり!」というインテス様の声が届かなければ、あやうく失神する手前だった。
《ダイジョウブ?》
《シッカリスルンダ、クロイノ》
《ソナタガキヲウシナッテハ、モトモコモナイゾ》
《は……はい》
そうは言ったが、くらくらする。全身の細胞が蒸発してしまうのではないかと思うほどの衝撃。
(なんだ……この魔力は!)
なんという力強さ。そして、量。
それが一気に自分ごときの器に流れこんできている。自分という「器」の表面が、恐ろしいほど薄く感じられて心細い。あまりの魔力の圧力で、今にもパリンと粉々になってしまいそうだ。ともすれば、自分が自分であるという認識すら手放してしまいそうになる。
気がつくと、背中のインテス様もひどく苦しそうになさっていた。
《だいじょうぶ、ですかっ……インテス、さまっ……》
「……私のことは心配するな、シディ。集中するんだ。ほかのことはいい」
《でもっ……》
「いいから。自分自身に集中してくれ。シディ!」
《……は、はいっ……》
そんなギリギリのこちらの状態とは裏腹に、精霊さまたちの暢気そうな会話が耳に届く。
《ソウイエバアイツ、コナイノ? コンナトキニ》
《ナンダ。マダヘソヲマゲテイルノカ、アヤツハ》
《ソウラシイネー》
《ナニヲソンナニスネテルンダ? シカタガナイダロウ》
《ソウソウ。ヤツガアンマリアバレルト、ニンゲンハコマルンダカラヨ》
《ソウナンダヨネー》
いったい何の話だろう、と思考することすら難しかった。
シディは自分が自分であることを維持するだけで精一杯だったのだ。体内で暴れまわる魔力の奔流は、それほど凄まじいものだった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

家族もチート!?な貴族に転生しました。
夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった…
そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。
詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。
※※※※※※※※※
チート過ぎる転生貴族の改訂版です。
内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております
※※※※※※※※※

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!
秋田ノ介
ファンタジー
主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。
『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。
ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!!
小説家になろうにも掲載しています。

食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる