七罪剣と大罪人と呼ばれた少年の反逆譚

YUU

文字の大きさ
上 下
24 / 33
第一章 【七罪の魔王】 カイン・エレイン編

24 休日

しおりを挟む
 翌日、俺達は街に出ていた。今日はアルトと相談して、休日にすることにしたのだ。この街に来て一月近くしか経っていない俺と違い、ここで生まれ育ったアルトはこの街に精通している。折角の休日なので、アルトに色々案内してもらう事にした。

「あっちに俺のお気に入りの店があるんだが、行くか?」
「ああ」

 アルトのお気に入りの串焼きの店があるという事で、そこに向かう。目的の屋台では大柄な男性が店番をしていた。

「おっさん、久しぶり!!」
「お前、もしかしてアルトか? 久しぶりだな、最近来ねぇから、死んじまったかと思って心配してたんだぞ!!」
「おっさんも元気だったか?」
「おうよ!! んで、そっちの奴は誰だ?」
「こいつはカイン。俺が傭兵になったのは知ってるだろ? こいつと組んでるんだ」
「そうか。カイン、だったな。俺はグラントってんだ、アルトにはおっさんって呼ばれてるけどな」

 グラントと名乗る屋台の店主に俺も軽く挨拶をする。

「アルトは危なっかしい部分もあるからな。よろしく頼む」
「危なっかしい部分ってなんだよ」
「おめぇ、忘れたのかよ。おめぇが昔、俺の娘と一緒に出掛けた時、野生動物に襲われそうになった俺の娘を庇った事があったろ。勇気と無謀は違うんだ。そういう所が危なっかしいって言うんだよ」
「いつの話をしてるんだよ……」
「そりゃあ、昔の話さ」
「俺は成長したんだ。大人になったんだよ」
「何言ってんだ。俺からすれば、お前はまだまだひよっこだ」

 アルトは以後も文句を言うが、グラントさんは取り合わず、ガハハハ、と笑っていた。

「お前ら、折角来たんだ。買ってけ」
「分かったよ。じゃあ、串焼きを俺とカインに一つずつで」
「あいよ」

 そして、グラントさんは慣れた手つきでサッと串を焼き上げ、俺達に二本ずつ手渡してきた。

「あれ? 一つずつしか頼んでないんだけど?」
「サービスだ。とっとけ」
「グラントさん、ありがとうございます」
「おうよ。その代わり、今後もこの店を御贔屓にしてくれよな」

 その後、グラントさんと軽い雑談をした後、次の目的地へと向かうため、屋台から離れたのだった。



 俺達が屋台から離れ、次に向かったのは酒場だった。俺達が向かう酒場は、昼は食堂としても営業しているのだ。

「おう、アルトにカインじゃねぇか」
「グランさん」

 俺達に声を掛けてきたのは傭兵ギルドの先輩、グランさんだ。どうやら彼も今日は休みを取っている様で、まだ昼だというのに酒を飲んでいる様だ。

「ギルドマスターから例の件は聞いたぞ。大変だったらしいじゃねぇか」
「どうしてそれを?」
「いやさ、ギルドマスターから頼まれちまってな。明日からお前らがオークキングと遭遇したって森に行く事になっててな。その時にお前らの事を聞いたんだよ」

 どうやらグランさんは、ギルドマスターが言っていた調査団に同行する様だ。

「大変ですね」
「まぁな。けど、その分報酬は弾んでもらったからな。この依頼が終わったら、お前らに奢ってやるよ」
「本当ですか!!」

 アルトが興奮したようにグランさんに問いかける。

「ああ、いいぜ。今回の依頼はある意味お前らのおかげでもあるからな。少しぐらいは還元してやるさ」

 グランさんは、俺達が来た当初から酒を飲んでいたが、さらに追加で酒を注文した。そして、その酒が来るまで俺達は雑談で盛り上がっていた。

「しっかし、おめえらオークキングに遭遇してよく生き残れたなぁ」
「あれは運が良かったとしか……」
「それでもだよ。それによく言うだろ、運も実力の内だって」
「それを言うならオークキングに出会った時点で、運が無いんじゃ……?」
「クハハ、それもそうだな!!」

 そして、追加で注文していた酒が来ると、その酒を片手に色々な話で盛り上がった。あそこの飯が美味しいだの、行きつけの娼館の新入りの子が可愛いだの、とある魔物の相手をしている時に死にかけただの、そんな役に立ちそうな話から下らない話まで、様々だ。
 結局グランさんは、俺達が酒場を出る時になっても酒を飲み続けていたのだった。




 今日は久しぶりの休日で楽しかった。今後どうするかは、明日アルトとしっかりと話し合うと決めていた。アルトもじっくり考えたいという事だったので、いつもは一部屋を二人で使っていた所を、今日は一人一室にする事にしたのだ。

「今日は本当に楽しかった……」

 屋台や酒場以外にも色々な場所を巡った。その先々で色々な人との出会いがあり、俺にも親しくしてくれる様な人達ばかりだった。
 この街に居て、初めて自分の居場所を手に入れた気がする。この街の人達は俺を受け入れてくれた。もし、自分の周りにいる誰かが助けを求めるなら、俺は喜んで手を伸ばせる。

「もし、アルトがこの街に残るって決めたら、俺はどうするべきなのか……」

 アルトにはこの街から出ようと言ったが、本当の事を言うなら俺もこの街からは出たくない。今日この街を回った事でその思いはさらに強くなっていた。だが、アルトを巻き込みたくないというのも間違いなく自分の本心だ。
 結局、その答えは出ず、アルトにその答えを聞いてから考えよう、という後回しを選んでしまった。
 だが、アルトからの答えを、まさか一生聞く機会が訪れないなど、この時の俺は想像もしていなかったのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

家族もチート!?な貴族に転生しました。

夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった… そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。 詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。 ※※※※※※※※※ チート過ぎる転生貴族の改訂版です。 内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております ※※※※※※※※※

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

処理中です...